“同い年”をテーマにサウスロンドンを紹介してみる。

『The OOZ』- King Krule

 今をときめくサウスロンドンの音楽シーンには何人かの「顔」と言える存在がいます。そしてサウスロンドンという地名、もしくはその音楽シーンを語る上で欠かせない要素の一つが「次世代のUKジャズシーンを担っている」という事です。

 勿論、サウスロンドンのシーンにはジャズ以外にロックシーンなどがあり、そちらからも面白いバンドがいくつも出ています。ですがサウスロンドンのジャズシーン、そしてそれに接続されたインディーR&B(オルタナティブR&B)のシーンがサウスロンドンの地名度上げる一番の要因になった事は間違いなく、同地域の代表格とも言うべき音楽シーンである事は揺るぎません。

 今回は僕と同い年のミュージシャンを中心に作品を紹介していくという事で、まず最初にレビューしたいのが今回の作品・King Klureの3rdアルバム『The OOZ』です。


 という訳でKing Klureですが、まず初めに彼がサウスロンドンの顔の一人と言っていいでしょう。今回紹介する『The OOZ』は2017年にリリースされた作品で、同年のNMEが選ぶアルバム・オブ・ザ・イヤーにて16位にランクインしました。

 その音楽性は言うなれば「トリップ・ソウル」とも形容すべきもので、ネオ・ソウルやヒップホップ、フュージョンやジャズをダークでロウファイなブリストル・サウンドで包んだかのような、シリアスさとメロウ感が共存した独特のサウンドです。またボーカルを務めるKing Klureの癖強めなボーカルが、その孤高の音楽の世界へと否応なしにリスナーを引き摺り込みます。


 King Klureの持つ世界観は正しく「ドープ」です。ドロドロに溶けていくようなメロウ感と独りよがりさがギリギリのところで混ざり合い、尚且つKing Klureの頭一つ飛び抜けた作曲センスがAORでもアシッド・ジャズでもネオ・ソウルでもない独特の音楽を作り出しているのです。

 またサウスロンドン系のインディーR&Bに共通するポイントとしてヒップホップを経由したサウンドであるという点がありますが、この点においては後々紹介する予定のTom Mischが顕著です。King Klureも少なからずヒップホップの影響を受けており、前述のブリストル・サウンドの影響を感じさせる点、またここ数年SoundCloudやYouTube上で展開されているイージー・リスニング向けのインスト・ヒップホップ―—ローファイ・ヒップホップに図らずも類似したサウンドのようにも思えます。


 次世代フュージョン、次世代スムース・ジャズ、次世代AOR、次世代アシッド・ジャズ……。その音楽性をこのように理解する事は簡単ですが、その実体はより複雑でよりドープです。サウスロンドンシーンを代表する深淵のポップスマスター。そのセンスに脱帽です。


 * * *


 カウントダウンジャパン2019に行った時のこと。King Gnuのアクトを見たのですが、彼らがステージに入場する際にKing Kruleっぽい曲をかけてたんですよねぇ。調べてみると常田氏がKing Kruleのファン的な情報が出てくるし。King Gnuの名前を初めて見た時に「King Kruleかと思った」という方も少なからずいるはずです。ほんと。


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