『D.A.N.』- D.A.N.

 ネオ・シティポップというムーブメント。その中で最も異彩を放つバンドとは何か。例えばSuchmosやcero、Yogee New WavesやNever Yung Beach……。名だたるバンドがいる中で、最もこれらの文脈から遠く、しかしネオ・シティポップに組み込まれるそんなバンド。

 その答えはこのバンド・D.A.N.にあるかもしれません。というわけで今回紹介するのはD.A.N.の1stアルバム『D.A.N.』です。


 D.A.N.というバンドは、紛れもなく僕が日本で一番好きなミュージシャンです。何が好きかって、まずは浮かれていないところ。

 所謂ネオ・シティポップで括られるミュージシャンって浮かれた人が多いというかハッピー感を出してくる人が多いんですよ。勿論それも良さの一つなのですが、ぶっちゃけるとハッピーな雰囲気感って自分にはそこまで肌に合いません。どちらかと言うとシリアスなものが好きな性分なのです。

 僕がそれまで日本の音楽を積極的に聴いてこなかった理由の一つがこれで、僕がそれまで知っていた邦楽の温度感と、僕の求める温度感とが完全に一致するミュージシャンがなく、僕の求めていたサウンドは洋楽にしかないものだと思い込んでいました。

 予め種明かしすると、僕が究極的にカッコイイと思うミュージシャンはイギリス・ブリストルのトリップホップ/アブストラクト・ヒップホップバンドであるMassive Attackです。彼らと出会わなけばヒップホップやレゲエ、ダブ、エレクトロニカなどに興味を持つことはありませんでしたし、現在の僕の好みを決定した存在と言っても過言じゃありません。そんなわけで日本にもMassive Attack的な質感を持ったミュージシャンがいないものかと常々思ってきたのですが、その探求の結果に巡り会ったのがD.A.N.でした。

 いや確かに、少し時代を巻き戻せば日本にはSILENT POETSやフィッシュマンズがいましたし、こちらも大好きです。SILENT POETSはいずれ紹介したいと思っています。ですが如何せんMassive Attackと同様に僕が生まれる前からこの音楽をやっていたミュージシャンです。僕が真に求めていたのは「同世代であること」でした。

 そんなある日、イギリスのエレクトロニック・ポップバンド・The xxの来日公演を千葉まで観に行ったのですが、そのオープニングアクトを務めていたのがD.A.N.でした。それまでD.A.N.を知らなかったため「オープニングアクトはyahyelがやるのかなぁ」みたいな予想をしていたのですが、発表されるやそのMVを見るや「ッ?!」と電撃が走りましたね。これ、俺が求めてたやつじゃん、と。そこから奇妙な逆転現象が起き、実際にライブに行く頃にはD.A.N.を生で見る事に興奮していました。


 バンドや楽曲について解説していきます。バンドはボーカルを務める櫻木大吾、ベースの市川仁也、ドラムの川上輝からなるスリーピースで、サポートアクトとしてソロやBlack Boboiで活動する小林うてな、トランシーなミニマルテクノを手掛けるFLATPLAYこと篠崎奏平が加わる事もあります。

 サウンドについては、軸足としてトリップホップ/アブストラクト・ヒップホップ的なアプローチが根底にあるように思えます。またポスト・ダブステップ的なアプローチをみせるエレクトロニック・バンド・Mount KimbieやMichael MiloshによるインディーR&Bの草分け的な存在であるRhyeなどをバンドのルーツと語っているなど、ダンスミュージックやソウルをポスト・ロック的な構成で再構築したような、メロウさやチルアウト感を持ちつつも実験的なアプローチを忘れない感じの踊れるクラブサウンドをバンドで表現している、みたいなイメージです(説明が整理されていないw)。

 よくある解説では「ジャパニーズ・ミニマル・メロウ」と評される事が多く、ボーカルを担当する櫻木大吾が山下達郎氏やキリンジからの影響を公言するなど、D.A.N.という色合いよって表現されるメロウでシティポップ的な歌詞表現や歌唱スタイルが、SILENT POETSやフィッシュマンズでもないD.A.N.というオリジナリティのある音楽性に繋がっているのだと思います。

 あとD.A.N.の良いところの一つが「リスナーの事を全く考えていない音楽づくり」をしているところです。これがカッコイイところで、自分たちの作る音楽に対してとても自然体だし、そして疑いもないのです。

 ただひたすらに「自分たちがいいと思った音楽を作る事」を実践しているミュージシャン。ストイックかつ乱れの無い作品の数々がそれを物語っています。本当に最高です。D.A.N.に出会えてよかった。


 * * *


 D.A.N.の良さを説明してきれていないのですが、長くなりそうなのでここら辺で打ち止めします。さておススメの曲ですが、これはアルバムの一曲目である「Zidane」を選びたいです。この曲で心臓を撃ち抜かれました。

 因みに、LPは視聴用と保管用の新品未開封があります。ヤバいよね。


■一曲選ぶならコレ 【Zidane】

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