『Pushin'』- STUTS
ついにこのアルバムを紹介する時が来てしまった。10年代の日本語ヒップホップシーンを語る上で絶対に避けては通れないアルバムがいくつかありますが、その中でも特に重要な作品の一つがこれ、トラックメイカー・STUTSの1stアルバム『Pushin'』です。
さてさて、ここ数年のうちにヒップホップという存在は今まで以上に身近な存在へと変わってきましたね。例えば、もう番組としては終わってしまいましたが火付け役となった「フリースタイル・ダンジョン」。ヒップホップの一要素としてストリート・ファイト的な立ち位置のフリースタイル・ラップバトルをよりわかりやすくテレビ向けに再解釈しエンタメとしたこの番組は、現役で活躍するフリースタイラー達が集まった空前絶後のラップ番組でした。
《流行りの罵り合い 全部だせー》
《まず理解しろ 文化の派生と惰性》
というリリックは「Furious feat. Campanella & KID FRESINO」という曲でCampanellaが歌ったものです。まぁどのような意図があってのリリックなのかは判りませんが、一重にラッパーと言っても、楽曲制作に力を入れるタイプの人とフリースタイルを極めていくタイプの人がいます。勿論、現役最強のラッパーとして名高い元二代目ラスボスのR-指定はCreepy Nutsという名義で精力的に音楽活動を続けており、相方となる世界一のターンテーブリスト・DJ松永と二人三脚で日本武道館でのワンマンライブを達成するなど両道のラッパーです。
このアルバムに参加するラッパー達はKID FRESINOをはじめ楽曲制作タイプのラッパーが多い印象です。またトラックメイカーであるSTUTS本人も、多分日本のヒップホップ界隈では一番喧嘩弱いんだろうなーって佇まいです。個人的にはそこが好きなポイントの一つで、不良文化や縦社会とは無縁の生活を送ってきた自分と重ね合わせる部分があるというか、そっちに染まらなくてもヒップホップをカッコいいと言ってもいいんだと教えられた気がします。STUTSが好きなアルバムの一つにGファンクのドン・Dr. Dreの『2001』を挙げていたのが印象深いです。その事もあってか、アルバムとしてはヒップホップの不良っぽいイメージとは若干の距離があり、よりポップスとしての純度が高い傑作に仕上がっているのです。
一方で楽曲には同じくフリースタイル・ダンジョンで名を馳せた最強格の一人・呂布カルマが参加しているなど、割と抜け目がありません。というかこの界隈仲良しみたいですね。ええやん。
さて、本アルバムの目玉の楽曲ですが、これは言わずもがな「夜を使いはたして feat. PUNPEE」でしょう。同曲は東京板橋区が誇る見習うべきダメ兄貴・PUNPEE氏が参加している曲で、同氏の代表曲の一つでもあります。このアルバムがリリースされた頃はまだPUNPEE氏のソロ・アルバム『MODERN TIMES』が発表される前でしたね。こちらも10年代を代表するヒップホップアルバムですがアナログ盤が未だにリリースされていません。ファ○ク、レビュー出来ねぇじゃねぇか。
『Pushin'』は全体的にチルアウト的な印象を持った作品で、それこそNujabesのサウンドとは異なりますが気張らないで聴く事ができる曲も多くあります。それから合間合間に配置されたインスト曲も非常に面白く、同氏が過去にニューヨークのハーレムでの路上ライブで披露した「Renaissance Beat」など粒揃いです。
ヒップホップから見たネオ・シティポップの側面。これは紛れもなく名盤です。ああ最高。
* * *
■一曲選ぶならコレ 【夜を使いはたして feat. PUNPEE】
「夜を使いはたして feat. PUNPEE」はネオ・シティポップのアンセム的な立ち位置で、個人的には、それこそ90年代の渋谷系でアンセムとなった「今夜はブギー・バック」みたいなイメージを抱いています。シティポップの系譜は、シティポップ→ネオアコ・渋谷系→ネオ渋谷系→ネオ・シティポップみたいな感じですが、やはり元祖シティ・ポップとの一番の違いはヒップホップの有無でしょう。
このオシャレ系ヒップホップ的な文脈でのスチャダラパーの存在感。こっちも好きっすわー。
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