第30話 後期テスト

激闘のあった修学旅行は無事終わった。

修学旅行が終わった後は公安ゼロの人達から色々と聞かれたらしたが1週間後にはいつもの日常へと戻れた。

光瑠はと言うと事情聴取が10日程行われた後は監視付きというのを除けばいつも通りの日常を過ごしている。




そして月日は流れて修学旅行から約3ヶ月が経過して今は3月の上旬。

年が明けて冬も終わり桜の花も咲き始めている。


『最近さ暖かくなって来たな〜』

『もう春ですからね』


俺は軍校の校舎へと向かいながらルナと念話をする。


『ルナと出会ってからもう少しで1年も経つんだな』

『確かにそうですね。時が流れるのは早いですね』

『俺には滅茶苦茶長い1年間だったよ』

『色々ありましたからね。相真君にとっては新しいことだらけだったでしょうからね』

『ああ、でもこの1年結構楽しかったって思ってる』

『フフ、そうですか』




「それではこれから後期テストを始めます」


今日は授業は無く後期テストが行われる。その為、1年生のら生徒全員がグラウンドに集められている。

集まっている生徒の前で話をしているのは俺達のクラスの担任である北条先生である。


「テストの内容は個人で変わりますが、戦闘、実技、実施の3種類の中から1つを行なって貰います。どのテストをするかはこちらで決めますが、戦闘テストは主に白兵科や射撃科や魔術1科を選んだ生徒が、実技テストは暗殺科や魔術2科を選んだ生徒が、実施テストは狙撃科や技術科を選んだ生徒に行って貰います。詳しい情報はいつも兵科訓練を行なっているグループで聞かされます。各々自分のベストを尽くせる様に頑張って下さい」


北条先生はかなり長い説明を終えるとその場を後にする。


(そうなると俺は戦闘テストか。シンプルで良いな)


テスト前の俺はそう思っていたがこのテストは想像を絶する程にハードなものだった。




「本物の武器を使うっ!?」


全体での後期テストの説明が終わった後、俺は兵科訓練の担当である北条先生に説明をして貰ったのだが、戦闘テストというところまで予想通りだったが本物の武器を使っての戦闘だと言われた。


「はい。AとSランクの生徒の戦闘テストはレプリカではなく本物の武器を使って貰います。この方がより実戦的なテストが出来ますからね」

「いや、確かに実戦的かもしれませんけど普通に危なくないですか?」


本物の武器を使うということな死ぬ危険性も殺す危険性もあるということだ。

俺としては死ぬのも殺すのも怖い。


「大丈夫ですよ。身体に防御の魔術を掛けますし教師も近くで待機しているので死ぬことはありませんよ。まぁ魔力の関係上、腕と脚は守れませんけどね」

「それなら安心、じゃないですね!全然安心出来ませんよ!」

「腕や脚なら私が治せるので大丈夫ですよ」

「治せるのと怪我しても良いのはイコールじゃありませんからね?」


笑顔のまま話をする北条先生に俺は文句を言うが全く聞いて貰えない。


(もうこの学校やだ)


俺は登校中は楽しいなんて言っていたのが嘘の様に心からこの学校をやめたいと思った。




「それでは後期テストを始めます」


説明を聞き終えて数分後、早くも俺のテストの番となった。

AとSランクの生徒の戦闘テストは1番最初に行うらしく、俺の出番もかなり早かった。何故1番最初かと言うと怪我をした時に治療する教師の魔力が足りないといけないかららしい。

因みにテストはグラウンドに張った結界内で行われる。この結界は身体を守る防御魔術を維持するものであり、この結界の外では掛けた防御魔術は効果を失う。


「良い勝負にしようぜ相真!」

「俺としては面倒なんだけどなぁ」


俺の目の前で気合の篭った声で話し掛けて来る圭一に俺は気怠そうに答える。

このテストの対戦相手は圭一だ。

圭一は白兵科の訓練をメインにしており、学年でも3位の成績である為、俺との組合せが最も合っていると教師が判断したのだろう。


「それではテスト開始!」


その声を合図にして俺と圭一は互いに得物を握り半身で構える。

俺の得物はブレードとグロック17のみ。今はブレードを右手で持ち、左手には特に何も持っていない。

グロック17はまだ構えずに腰のホルスターに収めている。

それに対して圭一の武装は刃渡り30センチメートルくらいの短めのブレードを両手に持つ二刀流スタイル。だが他にも武器を持っているであろう。


「「ーーッ!」」


開始の合図から丁度5秒が経過したその時、互いに地面を強く蹴り距離を詰める。


魔王継承ファントムフォース


接近すると同時に能力を30%サーティーで発動。光瑠と戦ってからの3ヶ月で能力の継承率を上げる訓練をしていたお陰で30%サーティーを以前の20%トゥエンティと同じ感覚で使える様になった。

キンッ

互いに相手が間合いに入った瞬間に右腕に力を込めて刃を振るう。

双方が右上から左下に斬り落とす袈裟斬りを同時に放ち、甲高い金属音が鳴り火花が散る。

剣圧がぶつかり合い一瞬の拮抗が生まれる。しかしその拮抗も刹那と無く終わる。


「ーーッ!」


圭一が左手のブレードで俺の顔面目掛けて突きを放つ。

俺は首を大きく横に晒して躱す。

突きをなんとか回避した俺は至近距離で膝蹴りを圭一の腹目掛けて放つと、圭一は大きく後ろに飛んでそれを回避する。


「おいおい、容赦ねーな」


まぁそれも当然だろう。そもそもルール上、容赦や躊躇をしていたら勝つ事が出来ない。


このテストで勝敗を決まる条件は3つ。1つ目は相手の防御魔術を破壊する。身体に掛けられている防御魔術は障壁と同じ様に物理的に破壊が出来る。なので防御魔術を破壊出来る威力の攻撃を相手に当てれば勝利だ。2つ目は結界の外に相手を追い出す。結界の外に出ると防御魔術が無効になるので、防御魔術が破壊されたのと同じ判定になる。そして3つ目は教師による強制ストップだ。今すぐに治療が必要なダメージを負った場合は教師が止めに入り、ダメージを与えた側の勝利となる。


(流石に狙うのは1つ目か2つ目だな。治せるとしてもダチの腕や脚は斬りたくない)


「おっらあ!」


1度離れた圭一が再び距離を詰めて2本のブレードを同時に上段から垂直に振り下ろしての斬撃を放つ。


「ぐっ」


俺はその斬撃をブレード横にして剣身で受ける。

身体能力では俺の方が優っている筈だが2本のブレードを同時に振られるのはかなりキツい。

俺が剣身でガードしながら耐えていると圭一はブレードを振り上げて右のブレードを斜めに振り下ろす。

俺はその斬撃を半身を翻して躱す。

その後お返しとばかりに斬撃を振るうが左のブレードで弾かれる。


「チッ」

「まだまだぁ!」


至近距離での斬撃の応酬。

振るわれる斬撃を弾き防ぐ、生じた隙に斬撃を撃ち込む、互いにそれを繰り返す。

剣速、剣圧共に俺のが上だが圭一は2本のブレードを巧みに使いそれを補っている。ブレードのリーチが短いという短所も、中に踏み込み超至近距離で戦う事で解決している。


(だったら)


俺は半歩後ろに下がりブレードを振るう。剣先で圭一を捉えるイメージで戦い圭一のブレードの間合いに入らない様に立ち回る。


「くっ・・・・・・」


作戦が成功し、圭一は近づけずに防戦一方となる。

当然圭一は距離を詰めようとするが、俺はステップで下がりながら俺のブレードが当たり圭一のブレードが当たらないギリギリの間合いを完璧に保つ。


「チッ!」


圭一は舌打ちと共に大きく後ろへ下がり逆に一旦距離を取る。

どうやら1度仕切り直ししたいらしい。

しかし俺は仕切り直しなんてさせるつもりはなく、距離を詰めようとするがーー


「うおっ!」


圭一は後方へ下がると共に斬撃を飛ばす。

俺は強引に横に跳んでその斬撃を回避する。強引な回避動作だったのでバランスが崩れたが、着地すると同時に回転受け身で最低限の速度で体勢を立て直す。


(そっちが離れるってんならっ!)


ーー白鷺流剣術 白鷲ーー


地面に水平にブレードを振るい、高速の斬撃を飛ばす。

白き翼を持つ刃が飛翔し圭一へと一直線に迫る。


「おっらぁ!」


ーーロデオ・ドライブーー


飛来する白鷲に対して圭一は2本のブレードの剣先を前方に向けて刺突を放つ。2つの刃を同時に白鷲に突き刺して白鷲を相殺する。


(マジか!?2本同時斬りの突き版って感じか?凄え威力だな)


そう思考を回していると白鷲を貫いた圭一が急接近してブレードの間合いまで詰め、2本のブレードを斜め振るい八つ裂きにせんと斬撃を放つ。


「ーーッ!」


俺はクロスする様に振るわれた2本のブレードの刃が重なるタイミングでブレードを垂直に振り下ろす。

3つの刃が1点で重なり合い甲高い音が鳴り火花が散ると共に衝撃が腕に伝わってくる。


「どんな馬鹿力だよ!」


圭一は苦い顔てそう叫ぶと後方へ一気に下がる。どうやらさっきのぶつかり合いは俺に軍配が上がったらしい。


「逃すかよっ」


俺は地面を強く蹴り後ろに下がる圭一との距離を詰める。圭一は結界の範囲ギリギリの所で急停止して半身で構える。


(誘ってるんだろうな)


そう理解していたが同時にチャンスでもあったのでその誘いに乗ることにした。

俺は助走をつけて力強く踏み込んで袈裟斬りを放つ。だがーー


「ーーッ!?」


圭一は半身を翻し、合気の要領で攻撃をいなして、俺の勢いをそのまま結界の外へと向けさせる。

結界外に向かっている俺に対して追撃とばかりに圭一が背中を狙って斬撃を振るう。


「くっ、だったら!」


俺は身体を前転の最初の様な感じで前に倒して斬撃を躱す。それと同時に左手1歩で逆立ちをしてブレイクダンスの様に身体を横回転させる。


「おっらぁ!」

「うぐっ」


回転の勢いを利用して圭一の横っ面に蹴りを叩き込む。

予想外の攻撃に圭一はガードが間に合わず数メートル吹っ飛ぶ。


「流石に威力が足りないか・・・・・・」

「おもしれー攻撃してくれるじゃねぇか」


無茶な体勢での蹴りだった為、普通の蹴り程の威力は出なかった様で、圭一の防御魔術は割れなかった。


「こっちもいくぜっ!」


圭一はそう叫んだ刹那、左手に握っていたブレードを投擲する。


(投げたっ!?)


俺はなんとか投擲攻撃に反応して投げられたブレードを弾く。

一瞬投げられたブレードに向いた意識が圭一へと戻った次の瞬間ーー

ダダダダダ

いつの間にか圭一の左手に握られていたUZIによる射撃が行われる。

UZIはイスラエルIWI社製のサブマシンガンで銃身長624mmと小型なのが特徴だ。

圭一はハンドガンの訓練しかしていな俺と違ってスナイパーライフル以外のほとんどの銃器の基礎をマスターしている。白兵戦にも射撃戦にも対応出来る軍人タイプだ。


「くっ・・・・・・」


俺はUZIの銃口から銃弾が発射される方向を予測しながら不規則に曲がりながら走ることで銃弾の雨を掻い潜る。


(きっついな・・・・・・)


しかし銃弾を避けられたのも始めだけ、時が経つにつれて射撃の精度は上がっていき、何発かの弾丸は肌を掠める。


(これ以上は避けられないか)


その考えに至った俺はブレードを振るい何発かの斬撃を圭一へ向けて飛ばす。走りながら斬撃を飛ばしているので威力も速度もお粗末なもので、圭一にブレードで簡単に弾いたり斬ったりして防がれる。

だが圭一の意識が斬撃に向けられたお陰で弾幕が数秒だけ止む。

刹那、俺は腰のホルスターからグロック17を抜きその銃口を圭一へと向けるがーー

パンッ

俺がグロック17のトリガーを引く前にUZIから放たれた弾丸がグロック17を弾き飛ばす。


「早撃ちなら負けねーぞ!」

「ああ、だから最初ハナから勝つきはねぇ!」


俺がそう告げたその瞬間、圭一の持っていたUZIが真っ二つなる。

グロック17を抜く隙を作る為に斬撃を飛ばした時に1発だけ曲がる斬撃を飛ばしておき、時間差で斬撃が圭一へと向かう様にした。

ただそれだけでは簡単に避けられると分かっていたので、狙いをUZIに絞り、早撃ち勝負と思わせることで斬撃から意識を逸らさせた。


「小細工無しのぶつかり合いといかねーか?」

「拒否してもお前はゴリ押ししてくるだろ。いいぜ!やってやるよ!」


俺の提案に圭一はそう言って俺の誘いに乗ってくる。

圭一がブレードを構えると同時に俺は居合の様な構えを取り魔力を脚に集中させる。

そしてーー


ーー白鷺流剣術 斑鳩ーー


互いに一直線に地を駆けて距離がゼロになったタイミングで斬撃を振るう。

そして勢いそのままに走り抜けて互いに背中を向け合い数メートルの距離が空いた所で停止する。互いの脚が止まった次の瞬間ーー

パキンッ

圭一のブレードが真っ二つに切断され、身体に纏っていた防御魔術が砕けて粒子となる。


「俺の負け、か・・・・・・」


圭一はそう呟きながらその場で膝をついた。

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