第19話 公安ゼロ

北条先生から職務体験の話を聞いた日から丁度1ヶ月が経ち、今日は職務体験の当日だ。

今は朝の9時回ったところで軍校の校舎の玄関前に1人で立っている。北条先生曰く、ここに居れば迎えの人が来てくれるらしい。

特に何もせずにただ玄関前で迎えの人を待っていると、真っ黒なスポーツカーが走ってきて、俺の目の前でキューブレーキを掛けて停止する。


「やっほー。久しぶりだね相真君」


スポーツカーの中から出て来たのは黒髪でサングラスをした二十代くらいの男性。

「久しぶり」と言われてもサングラスのせいで顔がよく分からず、視覚からの情報では知り合いかどうかの判断が出来ない。ただその声は聞き覚えがある、半年くらい前に1度だけ聞いた声たが、印象に残っていたので覚えていた。


「確か風間校長の護衛だった・・・・・・」

「そう!覚えててくれるとは嬉しいね!僕は赤城 和佐《あかぎ かずや》、一応公安ゼロの人間だよ」


和佐さんはサングラスを持ち上げてニカッと笑う。淡い緑色の瞳が特徴的な好青年という印象だ。


「色々聞きたい事とかあるだろうけど、取り敢えず乗りなよ」

「は、はぁ」


和佐さんは親指で自分のスポーツカーを指差して、笑いながらそう言う。

俺は少し戸惑いながらも言われた通りにスポーツカーに乗る。外車なので左ハンドルだった為、右側まで回ってドアを開けて近未来的なデザインの車内に入る。


「じゃあ出発するよ。あっ、そのコーラ飲みな」

「・・・・・・ありがとうございます」


柔らかい座席に腰を下ろしてシートベルトをすると、和佐さんはエンジンをかけてアクセルを踏み、車を出発させる。

俺はドリンクホルダーに入っていたペットボトルのコーラを手に取る。


「それじゃあ質問聞くから順番にどうぞ」

「はぁ。えっと、和佐さんって公安ゼロに所属してるんですよね?」

「そうだよ。公安ゼロのセカンドやってる」

「じゃあ何で風間校長の護衛やってたんですか?」

「ああ、その事ね。それは僕がよくスパイとかの危ない任務をするから、戦争中の軍事基地並みの結界が張られてる軍校を拠点として方が都合が良いんだよね」

「なるほど」


何かサラッと凄い事言ったなこの人。

スパイ行為してるって俺なんかに言っていいのだろうか?


「他には何かある?」

「今って何処を目指してるんですか?」

「警察庁だよ」

「警察庁?」

「そう。公安ゼロの基地は警察庁、正確には警察総合庁舎かな。まぁそのの地下にあるからね」

「へ、へぇ。それ俺に話して、と言うか俺を公安ゼロの基地に入れて大丈夫なんですか?」

「問題無いよ。軍校と違って公安ゼロの基地が警察庁にある事は結構常識だし。それにSATと公安ゼロの人間が居る所を攻めるなんて自殺願望者じゃないとしないからね」


確かに基地が警察総合庁舎にあるって事は裏の人間がごろごろ居るって事だ。他国と戦争でもしない限り危険に晒される事はないだろう。


「最後にもう1つ。公安ゼロの職務体験って実戦なんですよね?」

「そうだよ。学生に本物の戦場を経験させるのが毎年の恒例さ」

「じゃあ俺は何をするんですか?」


今、俺が1番気になっているのは職務体験で何をするのかだ。実戦としか言われておらず具体的な事は何も聞いていないので、不安も大きい。


「それはねー。まだ秘密かな!」


(えぇ・・・・・・)


和佐さんはニッと笑いながら楽しげにそう言った。




出発から2時間くらいが経過して漸く警察総合庁舎に着いた。ただ裏の人間である俺達が正面から入る事は出来ないので、和佐さんに案内してもらい裏の警察しか知らない裏口から建物に入った。

エレベーターを使い地下4階まで降りる。公表されている情報では警察総合庁舎の地下は3階までしかないのだが、公安ゼロの基地はさらにその下の地下4階にあるらしい。


(おお、カッコいいな)


エレベーターを降りて、廊下を歩き公安ゼロの人間が居るという部屋を目指す。廊下は照明が少なく少し暗く殺風景だが、近未来的な雰囲気があり男心がくすぐられる。


「ほい。到着っと」


シンプルなデザインの扉の隣には映画とかでよくある様なタッチパネルが設置されている。

和佐さんはタッチパネルに手を当てた後、いくつかの数字を入力してロックを外す。すると扉は自動で横にスライドする。


「ただいま戻りましたー」

「お、お邪魔します・・・・・・」


和佐さんは鼻歌を歌いながら部屋の中に入って行く、俺も緊張しながらも和佐さんの後ろをついて行く。

内部は廊下同様に少し暗くサイバーチックな作りになっている。


「これからウチのボスと会ってもらうから、ついてきてね」

「ボス・・・・・・ですか?」

「そう。こっちの部屋だよ」


和佐さんに案内されて部屋の1番奥にある扉まで来る。

どうやらこの扉の奥に公安ゼロの指揮をしている人間が居るらしい。


(偉い人に会う前ってのはやっぱり緊張するなぁ)


「舞、入るぞー」


和佐さんが扉をノックしたものの返事を待たずに扉を開けて中に入っていく。

俺も和佐さんの後ろをついて行き部屋の中に入る。部屋はこれまでの近未来的なデザインとは違い、シンプルで現代的なお洒落なデザインとなっていた。

そしてその部屋の中央に配置される机と椅子に腰をかけているのは1人の女性。


「やぁ黒木相真君だね?私は双葉 舞ふたば  まい公安ゼロの『ゼロ』。つまりここの指揮官をしている者だよ。宜しくね」

「こ、こちらこそ宜しくお願いします」


黒髪のショートカットで燃える様なオレンジ色の瞳をした美しい女性。座高しか分からないが身長はそこまで高くはなさそうだが、大人の雰囲気を醸し出している。そして身長(座高)とは対照的な大きなお胸。全く露出の無いスーツなのが色気を増幅させており、余計にセクシーに感じられる。


『・・・・・・はぁ、何考えてるんですか?』

『だから人の心を勝手に読むなって。俺としてはボスって言うくらいだがらゴリマッチョなオッサンを思い浮かべていたんだけどな』

『まぁ分からんではないです。でも彼女かなり強いですよ』

『へぇ。まぁ強くないと公安のトップなんて務まらないんだろうな』


「いやぁ、和佐から聞いてるよ。期待の1年生なんだって?」

「俺は大した事ないですよ。1年には俺より才能ある奴も結構いますし」

「そんなに謙遜しなくていいと思うよ。何はともあれ今日からの職務体験、君の力を存分に発揮してね」


双葉さんは明るく笑いながら話をする。


「その事なんですけど双葉さん」

「舞でいいよ。公安ここの皆んなもそう呼んでるし。それで何かな?」

「そう・・・・・・ですか。それで舞さん、俺は職務体験で何をすればいいんですか?何も聞いてないんですけど」

「えっ?和佐話してないの?」

「こういうのは舞が話すべきかなーって思ってな」


舞さんは驚いた様子で和佐さんの方を見る。和佐さんは飄々とした笑いを浮かべている。

和佐さんって結構適当なのかもな・・・・・・。


「まったく和佐は・・・・・・。じゃあ取り敢えず今回君が挑む任務について話すね。君の任務は」


俺はゴクリ、と唾を飲み込む。一瞬の間を置いて舞さんは口を開く。


「護衛任務だよ」




ーー同時刻 東京軍事高等学校ーー


「相馬君は今頃何してるかなぁ?」

「さぁな。でもアイツがいないとつまらないな」


今は正午を回ったところ、私と圭一君は食堂でお昼ご飯を食べていた。

普段なら相真君も一緒なのだが今日は職務体験があるので軍校にいない。その為、私と圭一君の2人だけで昼食を食べている。


「あっ・・・・・・」

「あら・・・・・・」

「おお!」


私達が座っていた席ある2人の女子生徒が通り掛かった。


「結梨ちゃん、朱音ちゃん。偶然だね〜」

「本当に偶然ね。沙月」

「よっ、圭一君」

「おう!昨日振りだな」


1組の星那結梨ちゃんと夕霧朱音ちゃん。相真君の幼馴染で私と圭一君はとある事件で2人と偶然出会った。事件後も生徒ランクA同士なので訓練で会う事が多く、今では仲の良い友人である。


「珍しいわね。2人が相真と一緒じゃないなんて」

「相真君は職務体験に行ってるからいないんだって」

「へぇ。職務体験ね」

「職務体験って何するんだろうな?」

「何か公安ゼロに行くらしいぞ。なんか実戦するとか。俺は先に体育祭行ってるから、じゃあな!」


圭一がバッグを持って立ち上がる。しかし時計ではまだ昼休みの半分しか経過していない。


「自主練でもするのか?」

「いや、先生に準備の手伝いを頼まれてな」

「そうなの?頑張ってねー」

「ねえ、沙月」

「何?結梨ちゃん」

「沙月は相真の事どう思ってるわけ?」


結梨ちゃんが私の肩に腕を回してニヤニヤと笑いながら聞いてくる。


「どう思ってる、って?」

「そりゃあ好きかどうかって事よ」

「ふぇ!?す、好き?いや、その私は別にそういうんじゃないよ・・・・・・」

「へぇ、そう。最近アイツと妙に距離が近かかったから何かあったのかと思ったけど、違うのね」


そう言われて少しだけ驚いたが、恐らくあの件について何か知っているという訳ではないだろう。


「確かにちょっと色々あったけど、別に好きとかそういうのじゃないよ」

「まあ、そうよね。相真アイツだもん、そりゃないわよね」

「本人がいないからって凄いディスるな結梨」


朱音ちゃんが苦笑の表情を浮かべながら結梨ちゃんにツッコミを入れた。




「今日はAランクとSランク合同での実戦訓練だ。各生徒、学科関係なしで1対1での戦闘訓練だ。順番はくじ引きで決める」


白兵科を教えている佐藤先生がAランクの生徒を全員を集めてそう説明する。

こういう実戦形式の訓練は1ヶ月に1、2度行われる。人数が少ないのでSランクとの合同というのも少なくはない。


「最初は夕霧と圭一。お前らだ、準備しろ」

「はい」

「はーい」


名前を呼ばれた圭一君と朱音ちゃんが立ち上がり、体育館の中央に向かう。

因みに佐藤先生が圭一君を下の名前で呼ぶのは、白兵科で圭一君を受け持っているからだ。

まだ出番ではない私達は体育祭の端まで移動する。


「あっ、光瑠君。久しぶり」

「久しぶりだね。沙月さん」


移動中に光瑠君の姿が目に入り声をかける。すると光瑠君も爽やかな笑顔でそう返す。


「沙月誰と話してるの?って主席さんじゃない、知り合いだったの?」

「彼と相真君が友達だったから」

「なるほど。確かに体育祭で相真とバトってたわね。録画ログで見たわ」

「どうも、白夜光瑠だ。宜しくね」

「星那結梨よ。宜しくね光瑠君」


2人は笑みを浮かべながら握手を交わす。2人は少し話をしただけで直ぐに仲良くなった。


(前に相真君が結梨ちゃんは誰とでも仲良くなる人気者って言ってた理由が少し分かった気がするなぁ。私もあのくらいのコミュ力欲しいな)


因みに圭一君と朱音ちゃんの試合はかなり激しい勝負だったが圭一君に軍配が上がった。

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