第15話 主席

「生徒ランクSの学年序列1位。第1学年主席・白夜 光瑠」


日本人離れした黄金色に輝くサラサラとした髪、宝石の様に透き通る紫紺の瞳を持つ、優しそうな雰囲気のイケメン。身長は俺より少し低いくらいか。

俺も初対面だがこの学年では知らない者はいない有名人なので彼の事は知っている。


「君は次席の黒木 相真君か。よろしくね」


白夜はそう言って微笑む。世の女性達を一瞬で堕とすレベルのイケメンスマイル。最近は異様に美形な人に会うな。


「世間話してる暇は無いし、とっとと始めよう白夜君」

「光瑠でいいよ。確かに制限時間もほとんど残って無いね」

「じゃあ俺も相真でいいぜッ!」


魔王継承ファントムフォース


地面を蹴り一瞬で光瑠との距離を詰める。ブレードの間合いにまで接近し左斜め下からの逆袈裟斬りを叩き込む。会話中に仕掛けた攻撃だったが、光瑠は意に返さず冷静にバックステップで回避する。


「《聖光剣ホーリーセイバー》」


後ろに下がる光を追ってブレードを振るうが、突如として光瑠の手の中に現れた光剣に防がれる。

恐らく魔術だと思われるあの剣は全長は70センチくらいで西洋剣の様な形をした真っ白な光の剣だ。


『接近してくるタイプの魔術師もいるんだな』

近接クロスレンジ魔術師ウィザードとは珍しいですね。魔術で武器を作ったり自分で魔術を纏ったりして戦うタイプの魔術師ですね。接近戦用の魔術は通常の魔術よりも魔力消費が少ないのが特徴ですね。ただ白兵戦と魔術の両方の訓練をしければいけないというデメリットがたります』

『なるほどね』


近距離での斬り合い、俺のブレードと光瑠の光剣がぶつかり合う。身体能力では俺に分があるがそれを感じさせないような身体捌きで俺の攻撃を防いでいる。


「ッ!」


俺の斬撃を捌ききり光剣での斬り落としを放つ。剣速が速いのもあるが、かなりの鋭さがある。

その斬撃を俺は上昇した身体能力での斬撃をぶつけて強引に防ぐ。そして隙が生まれた光瑠の腹部にボディーブローを叩き込むがーー


聖光盾ホーリーシールド


左手の掌の前に展開された魔法陣の刻まれた障壁に俺の拳を防ぐ。かなりの強度がありコンクリートでも殴った気分だ。光瑠が左手を動かすとあの盾も動くので左手で持っている状態に近いと思われる。


『普通の障壁より展開が早く移動させる事も可能、恐らくあの盾は小さくする事で動かせるようになった障壁かと』

『殴った感じ結構硬かったけど強度は普通の障壁くらいか?』

『そうだと思いますよ』


斬撃の応酬。光剣が振るわれる度に剣の軌道が光り、ブレードと光剣が当たる度に火花が散る。

光瑠の武器が光剣だけなら楽だったのだろうが、あの盾も使われるとかなり苦しくなる。

力を入れないといけないブレードと違い雑に斬撃にぶつけるだけでガード出来るあの盾は相当厄介だな。


(距離を取って射撃するか、いや魔術師相手にそれは愚策だな。いくら光瑠が白兵戦メインだとしても、魔術師に対してグロック17だけで撃ち合うのは流石に不可能だろう)


そんな思考を巡らせているとーー


「《聖光槍ホーリーランス》」


光瑠の持っていた光剣の形状が変化し、1メートル50センチほどの光の槍となる。

そしてその光槍を構えて地面を蹴り一気に距離詰めて、刺突を放ってくる。

ブレードで受けるが威力が高く押し負けて数歩後退りする。両手で光槍を持っているだけあってさっきの光剣とは威力が違う。


(そりゃあ剣と盾だけなわけないか。リーチと威力があって面倒だな)


そもそも槍なんでこの時代に使う人なんてそうはいない。威力とリーチが備わっているが、先端の刃にしか力が入らないや、持ち手の部分が長すぎるなど弱点も多い。特に持ち手が長すぎるというのは相手に付け入る隙を与えてしまうだろう。


(こんな風になっ!)


俺は光槍の突きを半身で躱し、左手で光槍の持ち手部分を掴む。そして光槍を思いっきり引っ張り光瑠を引き寄せようとするがーー


「うおっ!?」


光瑠は何の抵抗も無く光槍を手離す。光瑠が簡単には手離さないと見込んでかなり力を入れたが、予想より遥かに力が入っておらず、一瞬だけ槍を引っ張った勢いで体勢が崩れかける。体幹も鍛えているので隙が出来たのはほんの一瞬だが、光瑠がその一瞬を見逃してくれる筈もない。


「ぐふっ!」


腹部に蹴りを叩き込まれる。回避も防御も間に合わないと瞬時に理解出来たので、思いっきり後ろに跳んで少しでも威力を下げる。

ここまでして掴んだ光槍も光の粒子となって消えていく。


(やばいな、圧倒されてる。これが主席の実力ってわけか)


さっきの蹴りで距離が空いた。仕切り直すには丁度良いが、下手に近づけば光槍の餌食となる。しかし接近しなければブレードは当たらない。


(光瑠の動き次第だが、さてどう出る?)


「《聖光槍ホーリーランス突砲ストライクブラスター》」


光瑠の動きを様子見していると、光瑠の手の中に新たな光槍が現れ、その光槍を俺に向けて投擲する。


「くぅ・・・・・・ッああ!」


投擲された光槍の速度、威力共に尋常では無い。咄嗟にブレードで受けるが俺の剣速でも押し負けている。一瞬だけ拮抗したが光槍の速度と威力を抑えきれず、10メートル以上吹っ飛ばされる。かなりの勢いがあり、木に背中をぶつけて漸く止まる。


「かはっ、ああ、痛ってえな」


木にぶつかる寸前でどうにか受け身を取ることが出来たので骨折はしていないだろう。

近距離での多彩な戦闘スタイルを用いた白兵戦だけでなく、魔術師らしい質量でのゴリ押しも可能ときた。まさに完璧って感じだな。


(ただそっちが大技見せてくれたんだ。こっちも見せなきゃな)


「ふぅ・・・・・・」


俺は1度深く息を吐き、ブレードを鞘に納める様に持ち。居合の様な構えを取る。


ーー白鷺流剣術 斑鳩ーー


魔力を集中的に脚に流し込み本来あり得ないような速度で地面を駆ける。十数メートルの距離を一瞬で詰めて、相手がブレードの間合いに入ったところに刹那の斬撃を叩き込む。

あの盾の魔術も本来の障壁同様に反応してから展開する必要がある。なら反応されても展開が追いつかない速度での高速斬撃は防げないだろう。


「おいおい、マジかよ?」


しかし光瑠はあろうことから斑鳩の斬撃を素の右手で受けたのだ。もし俺が持っているブレードが本物なら右腕くらい簡単に切断していただろうが、今持っているのはレプリカなのでそんな事出来る筈もない。

それでも骨は折るには充分な威力があり光瑠の右腕も折れているようでピクリとも動いていない。


(それでも涼しい顔してるとか、どんな精神力しるんだか)


「《聖光剣ホーリーセイバー》」


光瑠が持っていた光槍はいつの間にか消えており、無事な左手で再び現れた光剣を握る。

そして再びブレードと光剣での剣戟が始まる。

白兵やガンナーは利き手じゃない方の手でも利き手と同じような動きが出来るように訓練をする。勿論俺もしている。それでも利き手とそうじゃない方の手では多少の差がある。

しかし光瑠からはその差が全く感じられない。


(生まれつき両利きなのか?まぁ片手骨折しているのが隙になる事に変わりながな)


光剣の斬撃をブレードで逸らし、その瞬間に生じた一瞬の隙に光瑠の顔面に拳撃を叩き込む。

俺の拳が光瑠の顔を捉える直前で突如として現れた光の盾に防がれる。


「障壁は掌にしか出せないわけじゃないよ」


余裕の現れだろうか、ニコッと笑みを浮かべ右脚の蹴りを放つが、俺はゼロ距離での蹴りが加速しきる前に脚で受ける。

しかし光瑠は余裕の表情を崩さない。


「《閃光の靴フラッシュブーツ

「ッ!?」


完全に止まった筈の蹴りが再加速する。見ると光瑠の脚は光の靴のような魔術を纏っており、俺は後方に吹っ飛ばされる。


「ったく、吹っ飛ばされるのは今日何度目だ?それより三重詠唱トリプルキャストは聞いてねぇぞ」


魔術師にとって1度にどれだけ魔術を発動出来るかは、その魔術師の強さに直結すると言ってもいい。1年生じゃ二重詠唱デュアルキャスト出来る生徒もほとんどいない。出来るのは結梨や沙月のような生徒ランクAの魔術科の生徒くらいだ。

三重詠唱トリプルキャストなんて2年生でも出来る生徒は少ないらしい。


「なるほど、それが隠し玉か」


『ならこっちも隠し玉使わないとな。ルナ"アレ"やるぞ』

『なるほど"アレ"ですか』


(いくぜ!初実際サー)


「はいタイムアップです。得点の集計をするので脱落していない生徒は本部まで来て下さい」


森の中に隠されてたスピーカーから聞こえて来る風間校長の声。どうやらもう4時間経ってしまったようだ。


『それにしてもタイミング悪過ぎだろ。せっかく"アレ"を試そうと思ったのに』

『まぁまぁ、"アレ"の実戦はまた別の機会という事で』


「やぁ、いい勝負だったね」


明らかにテンションが低くなった俺の元に歩いてきた光瑠がそう言って手を差し出す。


「ああ、そうだな。流石に強いな」

「僕なんて大した事ないよ。同じSランク同士これから宜しく」

「こちらこそ宜しく頼む」


俺は差し出された手を取り握手をする。光瑠はイケメンスマイルを浮かべてそう告げる。




あの後光瑠とはその場で別れ俺は本部まで向かっている。本部とは何かあった時のために教師達が待機しているテントである。因みにテントは普通の学校でも体育祭などでよく使われているテントを使用している。

光瑠は本部に行く前に先に医務室に行くと言って医務室に向かって行った。まぁ骨折しているから当然と言えば当然か。


『さて、本部行くか。さて優勝出来るかね?』

『・・・・・・』

『ルナ?どうかしたか?』

『あ、いや何でもありません。少し考え事をしただけです』

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