第11話 久し振りだな

気がつくと1面色という概念が存在しないかの様な真っ白な何度か見覚えのある空間にいた。


「またここか。ルナいるんだろ?」

「そりゃあいますよ」


俺が天井を見上げながらそう叫ぶと何処からとも無く現れる。その声はいつものように軽いものだがどことなく浮かないような声色だった。


「ここに来るのも久し振りだな。死にかけた時しか来れないんだな」

「ええ、基本は君の意識が弱まっている時しか来れません。寝てる時も来れない訳ではないですが睡眠中は大体私は君の脳の処理の手伝いをしているので」

「ああ今回はマジで死にかけたな。あの2人がいなかったらやばかった」

「すみません。私にもっと力があれば助けられたのですが・・・・・・」


ルナが俯いて目を晒して謝罪の言葉を口にする。


「別にルナが謝る事じゃないだろ。俺の力が足りなかったんだ。もっと訓練しなきゃだな」

「そう言ってもらえると私としては気が楽です」


俺が宥めるとルナはいつものように微笑む。やはりルナは笑っていた方がいいな。


「あらそんな事言われたら照れちゃいますよ〜」

「何も言ってないんだけど」


俺の思考を読んだらしくルナは両手で頬を覆って恥ずかしいとでも言いたいようなジェスチャーをする。


「そういや何で俺あの時倒れたんだ?」

「そうですね。能力の使用による身体的負担、肩と脇腹からの大量の出血、魔剣の顕現による魔力の多大な消費と言ったところでしょうか」

「マジか・・・・・・」


何となく予想は出来ていたがまさか考えられる全ての可能性が当てはまっていたとは思わず俺は苦笑する。


「もう1ついいか?」

「どうぞ。まだ時間はあるので」

「あの魔剣ってやつは何なんだ?」

「魔剣は能力を発動することで使用できる黒魔法というものです」

「黒魔法?なんだそれ?」

「うーん、そうですね。・・・・・・君にはまだ難しいと思うのでその内話しますね」


俺の問いにルナは一瞬考えるような表情を浮かべるがすぐにあっけらかんとした表情でそう言う。


「ええ・・・・・・教えてくれないのかよ」

「大丈夫、教えるべき時にはちゃんと教えますよ」


(「教えるべき時には」ねぇ)


なんか上手くはぐらかされた気がするがまぁ別にいいか。特に今教わる必要も無いしな。


「くっ・・・・・・ああ、これか」

「お目覚めの時間ですか。思ったより早かったてすね。起きたら前回同様めちゃくちゃ身体が痛むでしょうが頑張って下さい」


(ああ・・・・・・そういや怪我してるんだったな。痛いのは嫌だなぁ)


そんな俺の考えとは裏腹に意識は現実に引き戻される。




「んあ、ッ!やっぱ痛えな」


目が覚めると柔らかい真っ白なベッドの上におり、見覚えのない天井が目に映る。それと同時に脇腹と肩に鋭い痛みが走る。


「病室か。まぁ怪我してたし当然か」


気を失って気起きたら見知らぬ病室にいるという普通はそうは経験しない事であろうが俺にとってはこの数ヶ月の間でもう2回目なので特に驚きはしない。


「相真君!やっと起きたんですね」


痛みに耐えながら上半身を起こすと病室の中で座っていた北条先生が話しかけてくる。


「先生どうもです。俺ってどの位寝てました?」

「3日間程ですかね。心配したんですよ」


北条先生は俺が起きたことに安堵してか胸を撫で下ろす。


「3日ですか。てかここってどこの病院ですか?」


「ここは病院ではなく軍校内の医務室ですよ。治癒魔術が使用可能ですし手術なんかも出来ますよ」

「へぇ。俺は手術したんすか?」

「いえ、君の場合は肩の骨に風穴が空いてただけなので治癒魔術だけで治せました。沙月さんが応急処置していてくれたので傷跡も全く残ってません。沙月さんに会ったら感謝して下さいね」

「分かりました」




その後北条先生からあの事件の詳細を聞いた。

俺が気絶した後敵の部下は圭一と沙月が全滅させ、敵の魔術師はあの2人によって倒されたらしい。

事件での死者はおらず、負傷者も俺と犯人グループ以外にはいないらしい。奴らは国内に潜伏する過激派のテロ組織だったらしい。普通テロリストなどは行動を起こす前に公安ゼロなどが処理するものなのだが今回は中国マフィアの後ろ盾がどうとかで出来なかったらしい。


「失礼します」


コンコンと扉がノックして沙月と圭一が病室に入ってくる。


「おっす2人共。久し振り」

「うん久し振り。はぁ、良かった相真君が目を覚まして」

「そういや傷の応急処置してくれたんだってな。ありがとな沙月」

「あんなの大したことじゃないよ。それにしても心配したんだよ相真君」

「悪りいな、心配かけて。でも圭一に言われた通り死ななかっただろ?」

「確かに死にはしなかったな」


俺の軽口に圭一は苦笑しながら答える。


「あ、そうだ相真君。あの2人って相真君の知り合い?」


そう言って一足遅く病室に入ってくる2人の少女に指差して沙月が聞いてくる。


「よう。結梨、朱音久し振りだな」

「本当にあんたは無茶するわね相真」

「軍校に来た時以来だな。元気そうで良かった」


呆れたように話す結梨と人懐っこい笑顔を浮かべる朱音がベッドで横たわる俺の元に歩いてくる。

朱音さん君には俺が元気そうに見えるのか。


「あの時は助かったよ。お陰で死なずに済んだ」

「お礼ならあの2人に言って、あの2人がいなかったら私達も動かなかったし」

「そうそう、私らは君に借りを返しただけだしよ」


"借り"というのは軍校入学前のあの事件の事だろう。思えばあの事件が全ての始まりだったな。


「えっと相真君、やっぱりその2人と知り合いなんだね。そろそろ私達に紹介してくれない?」


久々に2人と話すので少々テンションが上がっている俺に沙月が2人の後ろから話しかけてくる。圭一もそうだそうだと頷いている。


「この2人は小学校から付き合いのある、まぁ幼馴染ってやつだな」

「1組の星那 結梨、生徒ランクはAで魔術科よ。よろしくね」

「同じく夕霧 朱音だ。よろしく」

「私は3組の雪宮 沙月。私も一応Aランクの魔術科です。こちらこそよろしくお願いします」

「2人と同じクラスの片桐 圭一だ。Aランクの白兵科だ。よろしく」


4人が互いに自己紹介をする。てか2人が魔術科ってのは俺も初耳だな。確かに風間校長に魔力が高いって言ってたし、デパートでも魔法陣的なものが見えた気がしたっけか。


「そういやテロの時2人はどういう状況だったんだ?」


この2人が偶々デパートに居合わせたというのは分かったが、どうして俺が下で戦ってたのをしったのだろうか。普通に見えただけなら助けに来た特殊部隊の人間とでも思えるだろうが。


「私達は3階で他の客と同じ様に捕まってたのよ。自力でなんとかも出来たんだけど、私達は魔術師だし他の客に魔術見られるわけにはいかないかなって思って様子見してたのよ」

「そこに沙月と圭一が来たわけだ」


結梨の説明でなんとなく状況が理解できてきた。確かに一般人の前で魔術を使うのはこちら側では世界共通の御法度だ。軍校では生徒指導されるレベルの校則違反だ。緊急事態とはいえ人目を気にせず使うのはあまり良い選択ではない。


「そういう事だ。テロリストをボコってる時に片桐君が魔力操作してるのは魔力察知で分かったからこっち側の人だってのは分かってな、話しかけてみたらまさか私達と同じ軍校生で君の友達だったって訳だ。いやぁ2人から相真君の事を聞かされた時は結梨と顔を見合わせたよ」


そりゃあそうだ。出かけた先で偶々テロリストに襲われて同じ軍校生が偶々助けに来て偶々その助けられた人の友人が幼馴染なんて偶然普通は起きない。いくら軍校の近くのデパートとはいえ奇跡レベルの確率だ。


「それにしてもあの事件と言い今回と言いお前らは出掛けた先で事件に遭う呪いにでも掛かってるのか?」

「「あんた(君)だけには言われたくないんだけど(だが)」


2人の声がはもる。うん、確かにその通りだわ。

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