第10話 デパートテロ

右手にサバイバルナイフ左手にグロック17を持ち戦闘態勢をとる。

さっき斬撃を放ってきた刀剣を構える剣士は10メートル程離れた距離におり、もう1人の男は剣士からさらに5メートル離れた所にいる。離れている方が何をしてくるかは分からないが、前に出てこない辺り白兵ではないのだろう。


「・・・・・・はぁっ!!」

「・・・・・・ッ!!」


俺と剣士の男が同時距離を詰め、サバイバルナイフと刀剣がぶつかり合う。甲高い金属音と共に衝撃が腕に伝わってくる。


「まだまだぁ!!」


敵は気合いの篭った叫びと共に連続で斬撃を放つ。全てギリギリのところで防ぎ、1段落したところで後方に大きく跳び一旦距離を取る。


(流石はプロだな。かなりしんどい)


能力と魔力の身体強化、沙月に掛けてもらった強化魔術があるので、俺の魔力の身体強化が不完全とはいえ身体能力は俺のが上だ。しかし戦闘の技術では相手と圧倒的な差があり、少しの身体能力差ごとき覆される。


『相真君下です!!』

『お、おう!!』


ルナからの念話での叫びに俺は反射的に高速で1歩後ろに下がる。

するとさっきまで俺が立っていた場所に術式が展開し、巨大な岩の円錐が伸びる様に現れる。


『地属性魔術ですね。あの後ろの人によるものかと、分かってると思いますが当たればお陀仏ですよ』

『だろうな。もう1人は魔術師なのかしんどいな』


確か地属性は土、岩などの大地に関わる物を操る属性だったな。授業で説明は聞いたが実際に見るのは初めてだ。見た感じかなりの質量があるだろうし、かなり面倒くさいだろう。


「考え事なんかしてていいのか?」

「クッ!!」


岩の柱の後ろから急に現れた剣士の男は余裕そうにそう告げて斬撃を放つ。間一髪のところで斬撃を逸らすが、間髪入れずに放たれる細かい無数の斬撃は完全には防ぎきれず肌を斬られる。とは言っても肩や膝、頬などの少し掠めた程度なので特段問題ない。

それでもこのままではジリ貧なので全力で後ろに下がろうとするが、逃がさないとばかりに前のめりの姿勢で追いかけてくる。


「しつこいんだよっ!!」


俺はそう叫んで後ろ下がりつつグロック17を2発発砲する。最初は両手で撃っても的に当たることが無かったハンドガンも1ヶ月の射撃訓練と能力と魔力で強化された精神力と集中力のお陰で今は片手で撃ってもヘッドショットくらい余裕だ。しかし眉間を捉える筈の2発の銃弾を剣士の男はステップで回避する。


「マジかっ!?」


銃弾を見て避けたのかそれとも銃口の向きと俺の指を見て避けたのかは分からないが、今はそんな事考えている場合では無い。


「・・・・・・ぐっ!!」


追撃してくる剣士の男に追いつかれ、重い横一閃を食らってしまう。空中だという事もあり大きく吹っ飛ばされて壁に激突する。


「・・・・・・痛つつ。壁にめり込むのは流石に痛えな」

めり込んでいたデパートの壁からどうにか自力で抜け出す。骨は折れていないだろうが背中は傷だらけだ。上昇した精神力とアドレナリンで痛みは少ないがそれでもかなり痛い。


「ったく!やってくれたな。・・・・・・ップ」


俺は口の中に溜まった胃液の混ざった血を吐き捨てる。


「ふむ。面倒だな。上の階に行ったあの2人の事もある一気に決めるぞ」

「ふっ了解だ」


ここからでは分からないが男達は何かを喋りこちらに向き直る。

俺と相手が同時に駆け出し刃が交わる。サバイバルナイフと刀剣が鍔迫り合い金属音が鳴り響き、火花が散る。


「おらおらぁ!」

「チッ!」


男の袈裟斬りに弾かれる様に飛ばされる。さっきの様に壁に激突する前にどうにか踏み止まるが、勢いが無くなった所にさっきより細い岩の柱が壁から現れて、俺の身体を貫かんとばかりに伸びてくる。


(さっきより伸びる速度が速いな。それも3本同時にか。大きさが小さくなるほど速度と量が上がるのか?)


俺は伸びる岩の柱をジャンプで回避するが間髪入れずに距離を詰めてきた剣士が跳んでいる俺に斬り上げる様に斬撃を放つ。どうにか男とサバイバルナイフで防ぐいで大きく距離を取る。


(やばいな。剣士と魔術師のコンビネーションから抜け出せない。せめてどっちか倒さないといつやられてもおかしくない)


「中々強いな少年。だが1人では俺達には勝てない。逃げることを勧めるぜ」

「無理だな。そもそもお前らから逃げ切れる気がしない。さっき他の客を流した時お前らならなんとか出来ただろ。なんで逃げるのを黙って見てたんだ?」

「別に止める必要がなかったからな。上の階には充分人質がいる。お前らを止める方が先だと思ったからな。逃げると言うなら止めんぞ」

「なるほどな。まぁでも逃げる気は無いな。俺がここで逃げたらあの2人を裏切る事になるからな。それに将来は兵士になる予定なんでな。人質を見捨てるような真似したら学校から大目玉だっつの」

「そうか。なら殺すしかないな!」


俺は男と話しながら斬り合う。最後の言葉と共に放たれた横一閃は受け流しきれずにまたもや吹き飛ばされる。


「終わりだな」


いつの間にか後ろをとっていた魔術師の男が俺がぶっ飛んだ先で待ち構えており術式を展開する。


「・・・・・・痛ッ!!」


男の目の前から伸びる岩の柱の1本を回避しきれず俺の左肩を貫く。熱に近い痛みが腕を支配するがアドレナリンと能力、魔力のお陰で一瞬痛みで悶えたが動けなくなるほどではない。


「これで終わりじゃねぇぞ」


しかし戦闘中の一瞬はあまりに長い。その長さは数メートル離れた所にいる剣士の男が俺との距離を詰めるのには充分な程に。


「カハッ!!」


刀剣の刃が俺の脇腹を斬り裂く。元々は俺の身体を斜めに真っ二つにするものだったのであろうが、どうにか回避動作が間に合った。それでもダメージは計り知れない。


『大丈夫ですか相真君?』

『あ、ああなんとかな。でももうそんなにもたないな。なんとかする案ないかルナ?』

『そうですね。相真君がもし本気を出せればあの剣士を倒すのって可能ですか?』

『出来るかもな。を使えば。でもサバイバルナイフじゃ使えないぞ』


俺の答えにルナはそれを見透かした様に不適な微笑を浮かべる。


『剣は私がなんとかしましょう。相真君の魔力では10秒程度しか持ちませんがいけますよね』

『ああ、多分いける』

『分かりました。集中していて下さね』


ルナとの念話での高速会話。普通の俺には出来ない、魔力での脳の情報処理を上昇させることでなせる技だ。




今から半月程前に戦闘中は常にゾーンに入れるようにしろと仁也さんに言われた。しかし俺は未だにゾーンに入ったことはなく感覚も掴めないでいた。しかし今この瞬間はそんなことが嘘のように頭が冴えて身体が軽い。ああこれがゾーンなのだと瞬間的に理解出来る。




「なんだまだ立ち上がるのか。そのまま寝てれば楽だったろうに」


起き上がった俺に剣士の男は呆れたようにそう告げる。しかしそんな声も極限の集中状態にいる俺には聞こえてこない。


うつつと魔の狭間を歪め顕現せよ邪の黒剣魔剣 グラム


ルナの詠唱をするといつの間にか手の中からサバイバルナイフが落ちており、藍色の術式が現れそこから闇色の両刃の剣が顕現する。その剣は魔力で出来ているわけではなく実際に存在する物体だと知覚出来る。


「・・・・・・ふぅ」


俺は深く息を吐き居合のような構えをとり、

ーー白鷺流剣術 斑鳩ーー


「・・・・・・カハッ!!・・・・・・な、なんだと!?」


剣士の男との距離数メートルを一瞬で詰め横中段斬りで斬り捨てる。

ー斑鳩は白鷺流剣術の技の1つであり居合のような構えから放つ高速斬撃。魔力を脚に集中させることで実現できる技であり、その速度は白鷺流剣術の技の中でも最速であり剣士の男も反応しきれなかった程だ。

俺もこの技は未だに成功率は半分程度だがゾーンに入った状況ならこれまで最速の速度を出せた。


(後、1人・・・・・・だ)


不意に全身から力が抜ける。それが能力の反動なのか、血が出過ぎたのか、先程の剣を出すのに魔力を使い過ぎたのかは定かではないが、戦場で身体が動かないというのは抗えない死以外のなにものでもない。


(あぁ、・・・・・・やべぇ・・・・・・な)


薄れゆく意識の中でそんな風に考えていると、


「はぁ、あんた何死にかけてんのよ」

「全く無茶するなぁ。君は」


聞き馴染みのある声と共に物凄い衝撃が伝ってくる。


「おいおい、マジか・・・・・・」


重い目蓋が下がる前に見えた光景は黒と金色に輝く術式と、

10年以上の付き合いのある黒髪と茶髪の少女達だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る