第8話 白鷺流剣術
「ーーここまでで今日の授業は終わりです。昼休みの後はいつも通り兵科訓練があるので遅れない様にして下さいね」
4時限目終了のチャイムが鳴り北条先生が授業を終わらせると、クラスが一気にうるさくなる。
「相真君、お昼だよー」
「・・・・・・」
「相真君どうしたの?授業終わってるよ」
ずっと黙っている俺を心配したのか沙月が俯いてる俺の顔を覗き込みながら話しかけてくる。
「ああ、悪い。少し集中しててな」
「集中って何に?」
「昨日先生から教わった魔力操作ってのをちょっとな」
「魔力操作って相真君魔術師になるの?」
俺の話を聞いて沙月は不思議そうな顔でそう聞いてくる。恐らく散々魔力が少ないと言っていた俺の口から魔力操作なんて言葉が出たからだろう。
「いや、身体強化のための魔力操作の訓練をしてたんだよ」
「へぇそんなのあるんだ。それって難しいの?」
「俺にはめちゃくちゃ難しい。魔力を身体を循環させるって感覚が何度やっても掴めない」
ルナ曰く魔力量が多い人ほど循環させる感覚が分かりやすいらしいので、こうも感覚が掴めないのは俺の魔力量が少ないことを表しているのだろう。
(早く身体能力強化を出来るようにならないとなぁ)
『大丈夫ですよ相真君。まだ訓練は始まったばっかりですから。これからですよ、これから』
ルナが念話でそう言いながら微笑んだ。
昼食を終えて兵科訓練が始まりいつものアップをこなして北条先生の元に向かう。
「今日はある人の元に行きますよ」
「ある人?」
今日は魔力操作の訓練をした昨日とは違い今日はハンドガンと格闘術の訓練はせずにアップがわりの体力トレーニングしかしないらしい。
「君に稽古をつけてくれる人です」
「へぇ。それでその人はこの学校にいるんですか?」
「学校内にはいませんが辺りの山の中の家に住んでいるんです」
「なるほど、この山って学校関係者以外も入れるですね」
「"こちら側"の人なら入れますよ。そもそもこの山は元々ある剣術の道場だったところを政府が買い取ったものなんです」
「この山全部ですか!?」
「そうですよ。まぁ普通の剣術道場ではなく"こちら側"のそれも政府が認めた剣術の流派なのでこのくらい大したことないですよ」
"こちら側"とは魔力や能力の存在を知っている事を指す1種の業界用語、隠語のような物で世界の裏とも言われている。
元々政府公認の剣術道場だったということは軍校が建つ前はこの山は軍人となる剣士を養成する所だったのだろう。それならこの広さもうなずける。
「ではそろそろ行きましょうか。全力で走るのでちゃんとついて来て下さいね」
「了解です」
全力疾走をする北条先生に振り切られないように俺も全力でダッシュするが結構ギリギリだ。先生は魔術師ではあるがなんでもこなすオールラウンダーって感じなので魔力の身体強化無しでもかなり足が速い。確か100メートルを10秒台で走れるとか言ってたな。
そんな事を考えながら山の中の整備された道を走っていると前を走っている先生が急に止まる。
「はい。ここがゴールです。大丈夫ですか?」
「ハァハァ。・・・・・・山をダッシュするのは流石にキツイっすよ」
距離自体は大したことないのだが山を越えるのは高低差があり体力はかなり消耗した。
「私について来れたなら上出来ですよ。はい、お水どうぞ」
「おぐっ・・・・・・ぷはぁ、ああ生き返る」
先生はそう言って魔術で水の球体を出して俺に食べさせて(飲ませて?)くれる。水の球体を食べるのはかなり変な感覚で確かに噛んだはずなのに食感は全く無く水を飲んだ感覚になふ。ただ水自体はめちゃくちゃ美味い。水道水と天然水の違いが分からない俺でも美味さが分かるくらいには美味い水だ。
「それでその稽古つけてくれる人ってのはどこにいるんですか?」
「ああ、それはですねーー」
「ーーふむ。君がSランクの生徒か」
「うおっ!!誰!?」
「仁也さん。今日はよろしくお願いします」
「うむ。それで彼が?」
「はい。彼が以前話した生徒です」
急に後ろから白髪の老人が現れたと思えば何事もなかったかのように北条先生と話し始める。話を聞く限りあの人が稽古をつけてくれる人なのだろうか。
「あっ、相馬くんこの方がさっき話した人です」
「やぁ、わしは
「俺は黒木相真です。こちらこそよろしくお願いします」
身長170センチくらいで優しそうな老人だ。
「では早速始めようか」
「あの俺結局何を教わるの聞いてないんですけど、何の訓練するんですか?」
「儂の"剣術"を教えよう」
剣術かぁ。北条先生とナイフやブレードの訓練はしていたが、本当の剣術ってのは教わっていないしどんな事するんだろうなぁ。
「ではこの木刀を儂に打ち込んでこい」
「えっ?基礎とか無しでいきなり実戦ですか?」
「剣の戦いの基礎は教わっているのだろう?なら必要なのは技と技術。それらを身につけるならば実際に剣を振るのがが1番だ。斬り合いの中で技や技術を目で盗み身体で覚えてこそ本当の力が手に入るのだよ」
「なるほど。・・・・・・なら早速行かせて貰います!」
そう言って俺は仁也さんに向かって駆け出し、助走をつけての横中段斬りを放つ。しかし仁也さんは持っていた木刀であっさりとそれを防ぐ。俺は間髪入れずに次々と斬撃を放つがどれも軽くいなされてしまう。
稽古を始めてから1時間程たったが未だに1発たりとも攻撃が当たっていない。それも仁也さんは"1歩も動かず"に俺の斬撃を防いでいる。俺は走り回りながら色々な方向から攻撃を仕掛けているが半身の構えすら取らずに俺の攻撃を防いでいる。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・しんどいっすね」
「そりゃあ休憩なしで1時間も動き続ければ当たり前だろう」
そう答える仁也さんの呼吸は全く乱れていない。いくら動いていないとはいえそれなりの数の斬撃を休み無しで打ち込んだ。それでも全く息切れしていないのは流石と言うべきか。
「それでも全く攻撃は通用しませんでしたけどね」
「これでも半世紀以上剣の道を歩んできたのだ。学生に負ける訳にはいかんよ」
仁也さんはハハハと笑いながらそう言う。年の功ってのは本当に凄いんだなと実感させられる。
「どうしたらそんなに風になれますかね?」
俺の質問に仁也さんは一瞬間を開けてーー
「そうだな。君の剣には鋭さが足りない」
「鋭さ・・・・・・ですか」
「ああ、剣術において最も重要なのは鋭さだ。鋭さを持った剣は鉄も岩も斬り裂けるようになる。逆に鋭さの無い斬撃はさっきのように簡単に防がれる。君には鋭い斬撃を教えようじゃないか」
「よろしくお願いします!」
それからというもの毎日仁也さんの元に向かい白鷺流剣術を叩き込まれた。
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