第8話 ナンパされる義妹

 さて、映画が終わったわけだけども、優乃が席から動かない。なんでホラー映画なんて選んだんだ? 確か、家でもちょっとでも怖い映像が流れると、すぐにリビングから出ていくのに。

 まぁ、確かにタイトルとポスターはホラーっぽくなかった。アニメだったしな。だけどいざ見てみたらガチガチのホラーだったんだよな。

 もしかして気付かなかったのか? いやまさかな。自分で見たいって言ったやつなんだから下調べくらいはしてただろうし。

 しかしこの状況はどうしたもんか……。


「おい、行くぞ」

「ひっ! ……ちょっと、いきなり声かけないで。びっくりするじゃない」

「お前もしかして立てないのか? 怖くて腰抜かしたのか?」

「足が痺れたのよ」


 痺れるような体制で座ってはいなかったと思うんだが……。無駄に高いプライドってやつか。

 家なら待ってもいいけど、ここではそうはいかない。次の上映時間ってのがあるからな。ほら、清掃の人が入ってきたし。


「ったく……。ほら、ちゃんと掴まれよ」

「え? ちょっ! 何するつもりなの!? それはまだ早いわよ!」

「やかましい」


 文句を言う優乃を無視して抱えあげる。所謂お姫様抱っこってやつだ。本当は米俵みたいに持ちたかったけど、座ってる状態から持ち上げたからこうなった。つーか早いって何がだよ。遅いくらいだっての。


「お、おろしてよ! こんな……恥ずかしいじゃない……」

「清掃員がもう入って来てんだよ。んで、俺達が出ていくのを待ってんの。それなのにいつまでも残ってられないだろうが。我慢しろ」

「屈辱だわ……」


 通路に放り投げてやろうかコノヤロウ。



 ◇◇◇



「ふぅ。とりあえず座って落ち着け。ここなら別に邪魔にならないだろ」


 チケット売り場の端にあるベンチに優乃を座らせる。ここまで来るのに大分人目を集めたけど、見た感じ知り合いはいなかったのが不幸中の幸いだった。


「ほんと信じられない。まるで見せ物になった気分よ。人前であんなこと……」

「少し待ってろ」

「話聞いてるの? ちょ、ちょっと!」


 文句を言ってる優乃を無視して俺は少し離れた自販機へ向かうと、コーヒーを二本買って戻ってきた。

 その間だいたい三分も無いだろう。それなのに──


「ねぇ一人? こっち二人だけど奢るから飯食いに行かない?」

「高校生? いや、大学生かな? 大人っぽい感じするもんね。どこの服買ってる? 俺が知ってるところなら安くしてもらえるかもよ?」


 ナンパされていた。

 ま、見た目はいいからな。しかも今日の服装は少し胸元を強調したやつだからバカ男ホイホイだろう。

 ただ、性格キッついからナンパ君はドンマイ。針より鋭い言葉で滅多刺しになるけど泣かないでほしい。


「どうかな? あ、そうだ。俺の名前は──」


 どうやら自己紹介が始まったみたいだ。

 さて、俺は一応様子見ておくかな。下手に口出して「余計なお世話よ」なんて言われるのも嫌だし。あいつらが優乃に言い負かされて逆上して手を上げないように警戒だけはしておくか。


「あ、あの……その……私その……待ってる人が……その……困ります……」



 え? 誰?

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正体不明の裏アカ女子に狙われている! あゆう @kujiayuu

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