第1話 乙女ゲーム部にようこそ!①
他ならぬ幼馴染の頼みだ。白雪にはいつもお世話になってるし、何か恩返しがしたい。その気持ちは事実だ。だから仕方がない。仕方がないって分かってるんだけど。
「やっぱハードル高ぇ……」
なぜ俺がこんなに混乱しているかと言うと、事態はほんの数時間前に遡る……
◇◇◇
「俺が乙ゲー部に?なんで?何も接点無かったよね?」
「そ、そうなんだけどね。なんか部長の
「なんのためにんな事するんだ?」
「私もそこまでは言われてなくて……ごめん。自分から頼んだのに」
「いや全然。理由はよく分からんけど、話くらいは聞いてみるわ。うん。これも白雪のためだしな!」
「ほんとに?!ありがとう廉人君。じゃあ今日の放課後……」
◇◇◇
と言った感じで、俺が安請け合いしたのが事の発端ですね。自業自得じゃねぇか。
俺がハードル高い、と言ってる理由は主に一つ。乙女ゲーム部というだけあって、部員が女子しかいないこと。それに、部長の
(こう言っちゃなんだけど、なんで乙ゲー部の部長なんかしてるんだろ……意外すぎて、ちょっと信じらんない)
「てか、部室ほんとにここで合ってんのか?さっきから誰も来ねぇけど……」
「来たよ〜」
「うわっ!」
いきなり声をかけられ、思わず腰を抜かしそうになる。
「あはは、ビックリした?」
「灰花、硝子……」
「え、名前知ってたんだ!嬉しいなぁ」
珊瑚色のハーフアップに、それを纏める白いリボン。薄紅の頬と唇、キラキラと潤んだ若草色の瞳。太ももはすらりと長く、胸は少し大きめ。そして、今まで聞いたことないような、どこまでも澄んだ声。今ここに、女神が降臨した。
「はじめまして、部長の灰花です。白雪から話は聞いてるよ。えっと、北王子廉人君だよね?」
「あっ、はい……」
どうしよう、名前を呼ばれただけで心が浄化されていくようだ。それになんだ?この、胸のTA・KA・NA・RI。これが少女漫画でよく見る、トゥンク♡ってやつか……。
「今日はよろしくね。立ち話もなんだし、どうぞ入って」
部室は思ったより広く、中央に机とソファ、奥に本棚が飾られている。左側にはパソコンが完備されており、壁の至る所にイケメンキャラのポスターが貼り付けられている。隅には小型の冷蔵庫まであり、何から何まで充実している。
「おお、すげぇ……」
(部費掛かってんだろうなぁ……)
「とりあえず、ここ座って」
指定されたソファに腰掛ける。なんだか、変に緊張してしまうな。
「他の部員の方は……」
「あ、今日ほんとは部活休みなんだよね。だから今は私一人」
「すみません、わざわざ。俺のために……」
「気にしないの。飲み物どうする?お茶と、オレンジジュース、あとコーラがあるけど」
「いえ、お気遣いなく!」
「遠慮しないで。もっとリラックスしていいんだよ?……って言われると、余計緊張しちゃうか」
「あ、じゃあコーラで……」
「ん、りょーかい!」
灰花さんは冷蔵庫の上にあった紙コップを取り、コーラを注ぎ始める。もう、この姿だけで飯3杯は食えるな。ほら、なんかあったじゃん。女神様が水瓶に水を注いでる絵画とか……とにかく、そういった「美」が凝縮されてるんだ、この人は。
「ふつくしい……」
「へ?」
「あ、いや、なんでもないっす……」
「そお?はい、これ」
「いただきます……んまい」
「はは、良かった」
灰花さんは俺の向かいのソファに腰掛け、ふぅと一息。もしかしたら、灰花さんも緊張していたのかもしれない。
「あの、それで今日はどのようなご要件で……?」
「まず、その敬語。やめない?もっと気楽にいこうよ。同い年なんだから」
「じゃあ……俺になんの用かな。男子が必要とかなんとかって聞いてるけど、一体何すんの?」
「よくぞ聞いてくれました!えっとね、君に折り入って頼みがあるんだけど」
少し申し訳なさそうな顔をする灰花さん。そんな顔しないでくれ。この人の頼みなら、なんでも聞ける気がする。「北王子君のこと蹴っていい?」とか言われても平気だ。いや、まあそれはさすがに嘘だけど。さあなんでも、ドンと来い!
「君に、乙女ゲームの攻略対象になって欲しいんだ」
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