乙女心と恋のすゝめ

無地

プロローグ

おとぎ話のお姫様には、必ず王子様が迎えに来てくれる。ただのフィクションだって分かってるけど。

もし、もし仮に私がお姫様だとしたら。王子様は誰になるんだろう―――



◇◇◇


「やべっ、もうこんな時間か!危うく寝坊するところだった……」


時刻は7時30分。ベッドから飛び起きるやいなや、急いで制服に着替え、朝食を済ませ、歯を磨いたらバッグ片手に玄関へ直行。もちろんスマホの確認は忘れずに。


「今日の星座占い第一位は、しし座のあなた!もしかしたら運命の出会いを果たすかも?!ラッキカラーは……」


リビングの方から、朝のお目覚めテレビの音声が聞こえてくる。


(しし座……俺の誕生星座だ。幸先良いな)


忙しない朝に、こういう、少し良いことがあると、前向きになれる。気がする!


廉人れんと、早く行きなさい!」


「あーいよ。行ってきマース」


いざ、満を持して玄関を出る。陽の光が眩しいくらいに輝いて、空は青々と晴れ渡っている。


「廉人君、おはよう。今日はちょっぴりお寝坊さんだね」


「おはよう白雪。いつもごめんな」


俺の名前は北王子廉人きたおうじれんと。高校2年生だ。

俺に声をかけてきた少女は、七条白雪しちじょうしらゆき。俺の幼馴染。名前負けしない雪のように白い肌と、黒髪のストレートボブが印象的。小柄で華奢なその容姿は、どこか日本人形を連想させる。

彼女の家は日本舞踊の名家らしく、凛とした佇まいと愛らしい顔立ちで、学校内でも密かな人気を誇っている。まさに大和撫子。しかし当の本人は結構大人しい性格で、本を読むのが何よりの楽しみなんだとか。


(こんな可愛い子と幼馴染なんて、俺ってつくづく運が良いよなぁ)


俺みたいなのと一緒にいることで、白雪が変な勘違いをされてしまったら、申し訳なさ過ぎて頭が上がらない。


「なあ白雪。いつも思うんだけどさ、毎朝俺の家の前まで迎えに来て、苦痛じゃない?」


「全然そんなことないよ。これは私がしたくてやってるんだから。廉人君こそ、毎朝家の前で待ち伏せされて、嫌じゃない?」


「全然!むしろ嬉しいっつーか、なんつうか……」


「ほんと?良かったぁ」


白雪は柔らかな笑みを浮かべる。くぅっ、美少女め。俺も生まれ変わったらとびきり可愛い女の子になりたい!……いや、オカマじゃないですよ?


「そういや白雪。新しい部活はどうなんだ?えっと、確か……あの……」


「乙女ゲーム部?」


「そうそうそれ。自分らでゲーム作ってんだろ?すげぇよな……正直、そういうのちょっと憧れる」


うちの学校―――御伽橋おとぎのばし高校には、ちょっと変わった部活がある。その名も乙女ゲーム部、通称「乙ゲー部」。初めは乙女ゲーム好きの女子が数人集まってゲームをプレイするだけだったが、ある部員の加入によって、いつの間にか乙女ゲームを制作する部となった。なんでも同人ゲームとして、コミケなどで販売しているのだとか。


「部員の皆が凄いだけだよ。私なんて、ほんの些細な事しかしてないし……」


「もし俺がその部活入ったら、何もすることなくなっちまうよ。やることがあるだけ、いい方じゃん?」


はは、と軽く笑い飛ばす俺に、何故か白雪は苦笑い。そして、どこか気まずそうな、そんな雰囲気を醸し出している。付き合いが長いと、どうしてもこういった些細な変化に気づいてしまうものだ。


「え、どした?白雪。俺、なんかまずいこと言った?」


「あの、あのですね。えーと……」


「何、ほんとにどしたの。ん?」


「いや、なんでもないよ。うん」


「お前がそういう時は大抵何かある時だ。試しに言ってみろって、いつも言ってるだろ?……まあ、どうしても嫌ってんならいいけど」


「そういうわけじゃないの!ただ……その……」


「じゃあ言ってみなさい。俺、いつも白雪に世話んなってばっかだからさ。たまには頼ってくれよ。な?」


「うん、じゃあ……えっと」


白雪は少し言い淀んでから、ゆっくりと口を開く。


「その、仕事あるかも。廉人君の」


「え?」


「実は乙女ゲーム部に関することで、廉人君に頼みがあるんだけどっ!」


「……え?なんで俺?」


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