第2話

 手が赤く染まる。焼けるような痛みが全身を走る。腹を裂かれた。そこから内臓が少しだけ顔をのぞかせる。かすっただけでもこのザマだ、あの時避けていなければ瞬殺だっただろう。

 そして、相手さんは間違いなく上位種以上、キングクラスもありえる。せいぜい逃げることしかできない青二才には不可能な案件だ。

 血も一向に止まる気配がない。


 狼がまた、俺が隠れている木の方を向いた。さっき裂かれた樹木はきれいに株になっている。またあれがくるなんて冗談じゃない。


 体を少し起こし、傷口に雪を突っ込んだ。ひんやりと冷たい雪が傷口に針のように突き刺さる。そして、狼に背を向けて走り出す。


 少しして、さっきいたあたり一帯が吹き飛んだ。そして狼に睨まれ、背中に悪寒が走る。ものの数秒で距離を縮められ、間一髪のところで攻撃を避ける。互いに目が合う。無駄のない筋肉質な身体を纏った狼はどこか威厳を感じさせ、獲物を見つめるその眼は狩人であることを物語っていた。

 腰から短剣を引き抜き、構えて睨み合う俺と狼は、本当の意味で対面した。すぐに狼は突っ込んでき、それと同時に俺も狼に向かって走り出す。狼の攻撃が当たる前に足元の雪を投げて、狼の下に滑り込んだ。雪は咆哮で飛ばされたが、滑り込むことはできた。しかし瞬時に氷塊を生成した狼の『氷塊散弾撃アイシクルショット』が腹に当たり、前のめりに転がってしまった。またさっきの傷がぶり返し、雪が赤く染まる。とどめと言わんばかりに狼の最後の一撃が降りかかる。


「ううううおおおおおっっ…」


 無理に体を動かして横に飛びのけ、その勢いで立ち、血を垂らしながら走り出した。すぐに狼も飛び出し、背後から襲いかかる。

 ここからの逆転などありえない。そう判断し、正直言ってもう無理だと思いながらも、と願う。


 そのとき、奥に光る丸を2つ見つけ、何かを感じて横によける。前方から巨岩が飛んで来て、それを蹴って避ける狼。前には、3体のジャイアントモンキーが現れる。そう、ここは奴らの縄張りで、いつもは近づかない危険地帯である。


 ジャイアントモンキーは集団行動が主で、たいてい2体以上で行動している。腕が長く、体長は4mほどで、岩などを使った投石を得意とする。そして、長い腕を使った複雑な動きを可能とする。そして、狼には劣るが臭いに敏感である。これは俺が調査して調べたことだ。

 そんな奴らだが、連携がすごく、狩りにおけるチームワークは最高だったはずである。


 狼と猿に挟まれ、ぶっ倒れて血を流している俺だが、どうやら獲物の取り合いが始まったようだ。

 猿の投石が続き、それを次々と避けていく狼。その間に1体が俺に近づいてきて、手を伸ばす。出血多量で体がうまく動かずよろけたが、短剣を相手の手に突き刺す。今度は猿がよろけ、その隙に腹を庇いながら逃げ出す。血の匂いで追ってこられると困るので、前々回マークしておいた川を目指す。後ろから時折猿の投石がくるも、木が邪魔でなかなか当たらない。そして何より、狼との交戦でそれどころではない様子で、そうこうしているうちに川に着くと、もう投石も音もしなくなっていた。おそらく猿の悲鳴だったであろう、「キーーッ」という鳴き声を最後に、何も聞こえなくなった。


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雲の壁 gino @gino79

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