バイカーコン(ゆず季SOS)

「おー、真面目に働いてんじゃん」と、この聞きなれた横浜訛りは孝子だ。

「何しに来たのよ? 仕事休み?」


 本日は土曜日、デパガの孝子は基本的に平日が休みだ。しかもシフトによって休みが変わるので曜日はまちまち。今日は先週先輩の用事で休みを交代してあげた振替で急遽お休みになったのだとか。


 珍しくスカート姿の孝子はお父さんのアルファロメオを借りてきたそうだ。

「なんか買ったらさすがにドカじゃ持ってかえれないしね」と、孝子なりに売り上げに貢献できるように気を遣ってきてくれたようだ。

 言葉は粗雑で性格はキツいが、根っこでは義理堅い。学生の頃から変わらない、孝子はこういうやつだ。


「お姉さーん、キャリア入ったって?」とエイプに乗っている高校生君の登場だ。

「あ、接客中スね。すいません」としょんぼりする。

「大丈夫だよ。お客さんだけど、ダチだから」

「あ、えと初めまして」

「おー、なんかキョウから前聞いたな。かわいい高校生がお客さんにいるって」

「ちょっと! 孝子!」

「え? そうなの? お姉さん!」

「バカ、弟みたいな意味でだよ。こっちは孝子。私の悪友だよ」

「じ、自分、トワと申しますっ!」

「なによ? アタシの時と随分態度違わない?」

「いや、なんていうか、孝子さんって抗えない空気感っていうか……」

「アハハ! 確かにかわいいよアンタ」


 孝子には店内を物色してもらい、まずは高校生君のお取り寄せ商品の会計を終わらせる。

 この子はメンテや部品の取り付け等も自分で出来る子だ。

 正直お店的にはピットを利用してもらった方が良いのだけど、同じ県内でも僻地から出てきてくれているので、土曜日のゲロ混みピット作業を待たせるのは気の毒なので丁度良い。

 高校生にパーツを渡し店長に休憩に入る旨を伝えて、孝子の所どうせ喫煙所に行く。


「お待たせ」と言って私もタバコに火を点ける。一応、制服の上から普段着のパーカーを羽織っているが、常連客などは顔見知りなので、せいぜい今は休憩中ぐらいのアピールにしかならない。

「アンタさ? 来週の金夜って空いてる?」スマホをつつきながら孝子が聞いてきた。

「夜? 峠……じゃないよね?」

「いや、ゆず季からで合コンのお誘い、……じゃーないな、懇願」

 とこちらにスマホ画面を見せる孝子。画面には『SNSのバイク乗りコミュニティで合コンのお誘いがあって、二つ返事でオッケーしたんだけど、考えたらバイク乗りの知り合い孝姉達しかいないやって……。孝姉、お願いー。協力してー』とある。


「あの子、うちのサークル来てたのって実は本当に男漁り目的?」

「冗談と本気、半々ってとこじゃない?」

「まぁ、金曜なら休めると思う。3対3サンサン?」

「4」

「あと一人って……」

 咥えタバコのまま、スマホでLINEのトーク画面見せる孝子。


『是が非でも馳せ参じます‼︎』

 見慣れたアイコンは、大学の時に顔を出していたバイクサークルの一学年下の後輩、木村勇姫ユキのものだった。

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