説得

「なあ、もし俺が仲間になると言ったら一つ聞いてほしい願いがあるんだ」


トウヤから好意的な提案に内心ホッとする。


「もしかして一緒にいる子の事?」


「やっぱり調べてたか」


「えぇ、君がそれだけの力を持ちながらあそこに留まる理由はそれしかないでしょ?」




魔法の使えるトウヤなら子供でも何処でも暮らしていける。


犯罪を犯すことを何とも思っていないならこの先どうとでも生きていける。


そんな彼が留まり続けるのは守りたい人、一緒にいたい人がいるからだと簡単に推察できた。


「生活費が当然必要になるけど、君が仲間になり仕事に協力してくれればその報酬金でしばらく生活は出来ると思うわ。

その間に彼女には向こうのルールや文化を学んでもらって仕事につけるようになってもらわないとね」


「彼女じゃなくて彼女だ」


「え?」


「チビ達も連れて行きたい」


一人ではなく全員でということに驚いた。


「でも向こうも地球人を嫌ってるんだよ?」


「ここよりはマシだろ?あんたみたいなのが近くにいるし、スカウトするって個人的にじゃないだろ?」


「えぇ、私のギルド、チームに入れるって意味ね」


「ってことは俺たちを普通の人間として見てくれるやつらが数人近くにいるってことだろ?」




納得した。確かに今のままだと孤児として蔑まれながら生きていくことが目に見えている。


この世界はそういう人間が多い。


魔法世界なら蔑まれることはあまり無いし、仲間になってくれる人が身近に多くいるから安心だろう。




「まさかそれが理由で殺してたの?」


彼が殺していたのはいわゆる社会悪と言われる人間だけだった。


そういう人間を殺すことで、少しでもその子達がそういった危険に会わないようにするためだったのか?


「まさか、そんなんで世の中良くなるわけないじゃん。ただの自己満だよ」


あっさり否定したが、それは嘘だろう。それは彼の行動が物語ってる。


「スカウトした相手の家族なら迎えられることはあるわ。善処する」


彼にとっては弟、妹のような存在。それがあの子達なら許可されるかもしれない。いや許可させる。


それが彼のため、そして私のギルドのため、局のためでもある。







「で?こんなにいいように話は進んだが、あんたはどう証明するんだ?」


「え?何を?」


「魔法世界があるということをだよ」


「いや、え?私の話信じてくれたんじゃないの?」


「こんな都合のいい話があるわけねぇだろ」


「ガーーーーーン!!」




衝撃的な一言に身体を雷で打ち抜かれたような気がした。


「えっと…その…」


あまりのショックに頭も口もうまく回らない。


あんなに良さそうな反応をしてくれたのに、あんなに信じてくれたと思ったのに全て拒絶された。




魔法を見せても目の前の彼は同じことが出来る。


人種としての見た目はそんなに差が無いので証明できない。


物は?いやさっき彼は何もないところから斧状のやつを出したから簡単に作れるものだろう。




えーと、えーと…




そんなポーラのコミカルな動きに大きな溜息が出た。


「あんたの目はシスター達と同じだ。真っ直ぐ一人の人間として見てくれてるし、

育ちのせいか嘘をついてる人間は見極められる。あんたは嘘はついていない」


「じゃ、じゃあ…」


「信じられないがあるんだろうな、魔法世界」


「も、もちろん!」


そのいっぱいいっぱいな必死さが信じられないさをかもし出している。


「じゃあ俺が先に行って本当かどうか確認してからあいつらを呼ぶ」


「そうね。そうしましょ」


「嘘なら殺す」


「嘘じゃないわよ」


「あいつらに手を出しても殺す」


「出さないわよ」


「それと…」


「まだあるの?」


「あんたの実力を知りたい」


「え?」


意外な要望が出た。


「これからあんたの指示に従うんだ。俺は無能の下につきたくない」


「それでテストするのね」


生意気な物言いだが理解は出来る。


過去にもスカウトで来た魔道士がいるが、その中には実戦の内容で決めた魔道士も多くいる。


みんな命を預けようと言うのだから信頼出来るようにしたいというのだ。


「わかった。ちょうど仲間からの課題として同じようなのが出てたの」


「ふーん、そいつも信用が欲しいわけだな」


みんな考えることは同じだってことらしい。


「今すぐやる?」


「あぁ、頼む」


「ならフィールドはこの封絶ふうぜつの中全域。半径10kmだからかなり広いわよ」


10kmと言ってもここは港町の沖合にある橋の上。フィールドの大半が海である。


「下の海は潜れるのか?」


「えぇ、そういうのは封絶ふうぜつが無い場合と一緒よ。海中じゃ呼吸が出来ないと思うし地中も潜れないわよ」


そういうのを可能にする魔法は存在するが、これは戦略上の秘密とする。


「地下も範囲内だから大きく地面をえぐっても大丈夫よ。

あと人や町を守るものと話したわよね?人や動物は魔法が使えないと中に入れないから安心して」


「知らない間に入ってるってこともあるんじゃねぇか?」


「そこは検知するから大丈夫よ」


つまり誰もいない大規模な町の模型の中に居るようなもので、それが維持されてるようだ。


「決着はどう決めるの?」


「降参って言えばいいよ。あと死なないと思うが死んだら負け」


相変わらず物騒なことを言うが、何も言わなくても課題の通りになった。




さて、こちらの都合のいい展開になったがこの子をどう降参させようか?


監視した限りで一番厄介なのは、やはりあの人が消える魔法だろう。


一方は触れただけで消えた。もう一方は腕を突出し拳を握ると消えた。


所作に違いがあれど同じものだろうか?それとも二つあるのか?


前者は相手が近く、後者は離れていたからか?


この子の魔法の正体は未だにわからない。


その正体によっては自分より上を行く存在になるかもしれない。


そんな相手を屈服させなければならない。


魔道士の仕事ならそんなのよくある話だが、これほど厄介に感じたのは初めてかもしれない。


でも逃げちゃいけない。自分が思い描く理想のギルドを作るには必要な人なのかもしれないのだから。

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