現実の魔法とは

魔法の世界とはさまざまな生物たちが暮らす幻想的な世界。


なんて言うのは地球の御伽話の中だけである。


さまざまな生物が暮らすというのは事実だ。


しかしその動物たちも魔法を使い、さまざまな動物たちが縄張りを主張し種を守ってきた。


それは人間も例外ではない。人間も他の動物たちからの侵略から身を守っている。


その守りの要となるのが魔道士であった。


魔法は動物なら誰でも使えるものであるが、

強力な魔法を使う野生動物に対抗できるだけの魔道士は限られている。




そしてその魔道士が年々減少傾向にある。


動物たちの弱肉強食の世界に置いて行かれ、その動物たちに勝てなくなってきたのだ。


そのため繁栄の礎となる若い人間、特に若い魔道士を失うことが多くなった。


人間を最高の餌としている動物もいるため、居住区にも動物が現れ一般人が犠牲になることもある。


そのため人間の繁栄のサイクルに歪みが生じているのだ。


そこで目を付けたのが異国の人間である。彼らは生まれた国が違うと言うだけで中身は何一つ変わらない。


相性もあるが怪我をしたときに血を分けることも出来れば、体の一部を分け与え再生させることも出来た。


そして何より境遇も似ていて、彼らも動物の侵略に困っていた。


なので互いに協力し合うことを決め、侵略を食い止めた。


そして思いもよらない大きな力を発見し互いの国を守ってきた。


だが今なお魔道士の人員不足は続いているため、このように他国からスカウトするようだ。




「たくさんの人種がいれば争い事が起きそうだが?」


「そこは地球と一緒。人間の根本的な部分は変わらないのでしょうね。

でも地球とは違う。私たちは助け合うことは当然でどこの生まれでどう育ってようが誰も気にしないわ」


ポーラのセリフに違和感を感じた。


「ならなぜ地球で魔道士を見ないんだ?」


そう。地球を始め、たくさんの人間に積極的にアプローチしている連中が、なぜ今まで見ることが無かったのか。


それはすなわち地球人を避けていることになる。


「どこで生まれてどう育とうが気にしないと言いながら、俺たち地球人は避けていた。これをどう説明する?」


トウヤが右手を突き出すとそこに長い棒が現れた。そして棒の先には黒い物体がついてる。


まるで斧のような形をしている。


(まさか!?デバイス!?)


魔法世界の武器を何もないところから出現されたことに驚き声に出しそうになったが、心の中だけの発言で済んだ。


好戦的な姿勢のトウヤに対し思わず半身を下げて構えてしまうが、努めて冷静に心を落ち着ける。


トウヤは子供と思っていたが物事を冷静に考え、矛盾点をしっかり見つけだす。


思慮深いのかそれとも…


「まず一つ目、地球は魔法を使う環境に適していないの。

君はかなり異常な能力を持っているから使えるけど、他の人はそう簡単には使えないわ。

私たち魔道士はある程度魔力という魔法のエネルギーを蓄え、その魔力を使い魔法を使う。

そして失った魔力は空気中にある特定の成分で回復する。これを繰り返しているの。

でも地球はこの回復する成分がかなり少ないから、魔法を使ってもすぐに使えなくなるし回復も全然できないわ」


まずは信用を得ることを第一に魔法の現実を伝える。




トウヤには心当たりがあった。


ゲーム等にも魔道士が存在し、自分が使える能力は魔法なんじゃないかと疑っていた頃、

魔法の練習をしてもすぐ使えなくなるし、また使えるようになるまでに時間がかかっていた。


これはゲーム内で言うMPを消費し、消費しても回復量が少ないからだろうと予測していた。


だがこの問題はある方法で簡単にクリア出来た。


子供の俺でも出来たことだ、こいつらが出来ない理由がない。


なので地球に来ない理由にはならない。


「それに私たちにとっては辛い環境でもあるの。私たちの世界より空気が薄く、重力も高い。

そこに普段当たり前のように使ってる魔法が使えないのも十分な脅威よ」


「あんたはその辛い環境でも平気そうだが?」


「今は魔法を使い一時的に元の環境に合わせているだけ。時間が経過すれば元の辛さになるわ。

その辛い環境にわざわざ行こうなんて物好きのやることでしょ?」


その物好きが目の前にいるんだが?


「そして二つ目に過去の事件があるわ。

ずっと昔にもこうやって地球人をスカウトしに来て仲間にしたけど裏切られたの。

しかもその地球人が国が崩壊するかもしれない事件を起こしたから、みんな信用していないのよ」


過去にひどい目にあわされたやつの仲間を信用しろというのは無理な話。


ここについては同意せざる得ない。


「でもその時知ったのは地球人は恐ろしく強いのよ。

たぶん環境的要因もあるかも知れないけど、魔法は私たちの中でもトップクラスの実力だったと記録されてるわ。

それに珍しい能力を持ちやすいようで、地球人はみんな私たちとは違う魔法を使っていたらしいの」


「珍しい能力?…まさか俺と同じことが出来ないのか?」


「まだ君がどんな能力か知らないけど、出来るとは限らないとしか言えないわね」


トウヤの一番いい反応が得られたと思った。


「質問いいか?」


「どうぞ」


少しルンルン気分で答えてしまったが、まあ問題ないだろう。


予想通りトウヤは話せば理解はする。知らないことを頭ごなしに否定することはしない。


ちゃんと理解し学ぼうとする姿勢。これは何が起こるか予想がしにくい魔道士の仕事に適している。


「あんたの能力を聞いてもいいか?」


「ホントはあまり人に話しすぎると自分の首を絞めることになるから言わないのだけれど、

仲間にしようって言うのだから見せるべきかな?」


魔法世界の事を話しただけでなかなかの好感触の反応を見せてくれた。


あとは信頼を得られれば勧誘できるかもしれない。


彼が懸念することも大体予想はついている。


あとは…


遠くでこのやり取りを監視している仲間が出した条件をどうクリアするかが問題かな?


○○○●●●○○○●●●○○○●●●○○○●●●


魔法には大きく分けて五つのタイプが存在する。


身体や物の強度、動きを強める効果をもつ“強化系”


遠距離まで魔力を体外に出す“放出系”


魔力の属性や形状を変える“変化系”


魔力を使い物体を操る“操作系”


魔力に一定の形を与える“具現化系”


魔道士は基本的にどのタイプでも扱える。


しかし得手不得手があり、大体は二つが上手く扱え、残りは低能力程度しか使えない。


例えば“強化系”が得意なら接近戦を得意とし、ただの拳が大きな破壊力を持つ。


しかし“強化系”が苦手ならただの拳にちょっと硬いものをつけた程度にしかならない。


またこの得意タイプの二種類を合わせて特別な能力にしている魔道士もいる。


そこに“変化系”で出てきた属性と呼ばれるものが加わる。


基本的には炎、水、雷、土、風の五つであるが、中には光、闇等の珍しい属性を持つ魔道士もいる。


この属性は“変化系”でなければ一種類しか扱えない。


そして相性があり、低級魔法でも相性が良ければ上級魔法に勝ることもある。


さらに魔道士の強さの目安として魔力をどれだけ溜められるかのランクで能力が決まる。


「私はSSダブルエスランクという十三あるランクの上から三番目のランクで、

“雷属性”の“変化・放出系”魔道士よ」


「よくわからねぇな」


「君を例にすると推定Sランク、上から四番目ね。そして“雷属性”の“放出・変化系”ってとこかしら?

もちろんランクなんて目安にしかならないから一概に優秀とは言えないけどね」


「へぇ」


やっぱりよくわからない。


「でも数日監視させてもらったけど不思議な能力があるみたいだからちゃんと確認しないとね。

“放出・変化系”が人を消したり、そうやって立派なものを作り出すことは出来ないはずなのよ」


ここ数日監視されてるような感じがしたのはこいつが原因のようだ。


しかも人を消してると言った。ということはつまり…


「俺が人を殺してることも知ってるな?」


「えぇ。でもそれは人助けのためでしょ?」


「それでも誘うのか?」


「えぇ。でも仲間になるなら簡単に殺すのは無しよ」


「あぁ」


あっさり人殺しは止めると言ったことに拍子抜けした。


「やっぱり良くないことだとわかっていたんだ」


「いや、ゴミは消しても問題ないのは変わらない」


「え?」


「仲間に迷惑がかかるならやろうとは思わないよ。それにゴミは消す以外にも使い道があるかもしれないし」


「いやいやいやいや、そうじゃないでしょ」


「考え方は人それぞれだし、合わないなら関わらないという選択肢もあるだろ?」


魔法世界でも地球人に関わるなと言う人がいるが、この子の考えはそれに近いのかもしれない。


簡単に人を殺すことはやめてもらえるかもしれないが、考え方まで変えるのは難しいのだろう。


「わかったわ。人助けもゴミ掃除も止めない。でも殺すのだけは躊躇ためらってね」


「あぁ。わかった」


初めてトウヤが笑った顔を見せた。


考え方は危険かもしれないけど、人を助けたいという優しい気持ちは本心なのね。




「チッ!」


映像を見ていて胸糞が悪くなったようだ。


「おいリーシャ」


「わかってるよ!」


「わかってねぇよ」


「お前もやめろって言うんだろ」


「何を?」


「地球人を頭ごなしに否定するなって言うんだろ?」


「わかってるならやめろよ」


「やめてるよ」


「やめてねぇよ」


遠くで話している二人の会話を聞くたびにどんどん機嫌が悪くなっているのがわかる。


本心を見せずに飄々ひょうひょうとした感じを見せる地球人に嫌悪感を強く感じているようだ。


隣でよくわかるように嫌がる姿を見て、逆に自分は冷静になれている気がする。


確か劣悪な環境で育ってるってあったな。ここ地球では孤児はかなり蔑む傾向がある。


魔法世界でも孤児はたくさんいるが、ここまで蔑むことはない。


むしろこの扱いは黒のやつらに向けられることが多い。


ここでまともな人間と言われるのは、両親の元で良い学校へ通い良い会社に勤めることらしい。


平和な世界の弊害か頭の中までお花畑でいっぱいなんだな。


ちゃんと環境、向き不向きを考え、それぞれに合った方法で育てれば立派になるんだがな。


それでも黒のやつらのように不穏因子がとりきれないあたりは人間のさがだろう。


「もしかしたら大丈夫かもしれないな」


思わず頭を過ったこと口にしてしまう。


「あぁ?お前もか?」


聞き逃せばいいものをしっかりと聞いてしまったようだ。


「初めにポーラを殺そうとしたあたりはリーシャの言うとおりだと思ったが、

話を聞いてると考え方に問題があるだけで根っこの部分は思いやりがあるように思える。

それにポーラの人を見極める目は信頼できる」


「そうやって騙すのがあいつらの手口だろ!」


「ならお前の意見を納得できるように言ってみろ」


感情的になりやすいリーシャには論理的に説明することは難しかった。


「ま、折り合いや考え方のすり合わせは後でもできる。

後は出した条件、殺さないように勝利する方法を見せるだけだろうな」


敵だから、犯罪者だから、相手をあっさり殺してお終い。


そんなのは賞金首だけで、今回は魔道士同士の力比べだ。


(ちゃんと殺さないで実力を示してくれよ)


今度は口に出さないように思った。


せっかくポーラがいいやつと思って欲しがったんだから、期待を裏切らないでくれよ。

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