地球にて

「ねぇ……ねぇ起きて。お願い」




眠い目をぼんやりと開けると、そこにはよく知った顔があった。


時刻は朝だろう。こんな時にこいつが頼みに来ることは一つしかない。


気怠い身体を起こし頭をポリポリとかく。


周りには案の定小さな子供たちが数人いた。


「あぁ、またあいつらか」


「うん…お願い…」


ベットから降り立ち上がると軽く身体を伸ばした。


「んん…あぁぁ…朝から元気だねぇあいつらは」


欠伸をしながら歩き出す。


その後ろをゾロゾロとつけていく子供たち。


「少しは俺無しでも行ければいいんだがな」


「…無理だよ。あいつら力だけはあるから…」


それしか取り柄のない連中だからと思ったが、この子たちには十分脅威だろう。


「お前らがじゃなくてシスターたちにだ」


しかしシスターといえど一般成人女性と大して変わらない。


特に体格のいいあいつには敵わないだろうな。




神様がいるんだったらこういう弱者にしっかりご加護を付けてほしいものだよ。


いると信じてない神様に文句を言ってしまうのだった。




ギャハハ!ダセー!ウケるー!


そんな叫びが発せられていた。


例の問題が起きている食堂に到着し、何食わぬ顔で入る。




「トウヤ君!」


入室するとシスターが名前を呼んだ。


その名前を聞くとさっきまで騒いでいた連中が一気に黙る。


チラッとそいつらを見るが無視し朝食のメニューを確認する。




ワッフル、チーズオムレツ、ミニトマトとコールスローサラダの英国セット。


ごはん、タマネギとジャガイモの味噌汁、キッパーの日本セット。


の二種類か。


(ってかキッパーってイギリスの料理だろ)


と心の中で突っ込む。




ここは日本という国にあるが、中の人は日本人よりもイギリス人が多い。


なぜなら、昔イギリス軍の基地があって、その家族がたくさん移り住みそのまま永住し、

日本人と協力して独自の日本とイギリス文化が混ざり合った環境を作ったからだ。


その文化が現代でも根付きイギリス人と日本人が共に暮らすこのような環境が生まれた。




「日本セットで」


そう注文したころ、視界の隅で騒いでいた連中がそそくさと退出するのが見えた。


「いつも悪いわね」


そう言いながら恰幅のいい日本人シスターがささっとお盆に用意する。


「ヘイ、サービスデース。イツモアリガトネー」


と細身で長身のイギリス人シスターがお盆にプリンを二つのせる。


「俺はいいからチビたちにあげな」


「みんなの分は用意してるよ。ただし、トウヤ君以外はどっちかね」


どうやらプリンは二種類あるようで、自分のお盆にはその二種類がのっているようだ。


「どーも」と軽く会釈し朝食を運ぶ。




「トーヤクンヲツレテキタ、ユキチャンニモサービスデース」


とイギリス人シスターが言うと周りのチビ達が「えー」と騒ぐ。


トウヤは鼻で笑いながらミルクポットと紅茶ポットを手にし、いつもの朝を迎えた。




「別にあいつらは手出さないんだから、俺を呼ばなくてもいいだろ」


「でも…この子たちが…」


手を出さなくでも怖い。あいつらは三人に対してこちらはユキとチビ五人とシスター数人。


脅しでもされたら誰も手が出せない。そう言う事だろう。


一番いいのは問題を起こすあいつらがいなくなればいいが無理だろうな。




ここは身寄りのない子供たちを善意で保護するシスターたちの修道院。


不良と呼ばれるあいつらでも、無下にするのは神の教えに反するのだろうな。




まったく、はた迷惑な神様だ。ちょっと天罰を与えればいいだけなのに。


と存在を信じてないのに文句をたれる。




「俺程度のチビに負けるあいつらに毎日悩まされるなんて、ホント世の中ゴミだよね」


「…仕方ないよ…でも…」


ユキが子供たちを見て微笑む。


「…私は悪くないと思うよ…」




ほんとこいつは何でここにいるんだろう。ユキを見ているとそう思う。


ユキと出会って二年くらい経つ。何度か養子の話も出たが、こいつは全て断っている。


見た目は普通だがクラスでも密かに人気があるのでよくクラスの連中に誘われたりもするが、

全て断りチビ達の面倒をみることやシスター達の仕事の手伝いに時間を使っている。


頭もよく成績も優秀で、寡黙で引っ込み思案で男嫌いという短所も長所に思えるほどである。




そんな女がここにいる理由は…




「ユキねーちゃんってトーヤにーちゃんのこと好きなの?」


昔チビが言った言葉がよぎる。


それがホントなら嬉しいが俺には好かれる理由がない。


いつも一緒にいるからチビが勝手に勘違いして言っただけだろう。




「みんな食べ終わったかい?」


ふいにシスターが声をかける。


「モウスグレーハイノジカンデスヨー」


「はーい」と返事をし、食器を片づけるチビ達。


片づけをし、礼拝堂へ向かうときもユキは後ろをついてくる。




「あら?今日はトウヤ君もお祈りするのね」


「いるかわからないけどお願いしたいことが出来たから頼んでみるだけだよ」


「ノーー!シンジルモノノミ、シュワマモリマーース!」


「こいつら全員幸せにしたら信じるよ」


孤児というだけで世の中の風当たりは厳しい。中には遠巻きに嫌がらせを受けているのもいるだろう。


シスターもこのことについては認知していて、あれやこれやとやってみてるが一向に良くはならないのが現実。


そのことを理解しているイギリス人シスターは反論できない答えに頬を膨らます。


そんなシスターを尻目に子供たちを連れて礼拝堂へ向かう。


こいつらの幸せ…そう、特にこいつの幸せを願って。




俺は他人には無い力を持っている。そしてその力で何人もの人間の命を奪った。


なぜこの力を手に入れたかはわからない。でもこの力は自分が気に入った人間のために使いたい。


こいつが笑ってくれるなら、俺は世の中全てを敵に回す悪人でも構わない。


こいつらを不幸にするクズを、ゴミを徹底的に消してやる。




だから神様。いるんだったらこの子供たちくらい幸せに出来るだろ?


俺は世界を良くする仕事を一生をかけてするから。

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