新メンバー2

「で、本題になるけどこの地球人を入れようとしたのはなぜ?」


代表してティアが問う。


「過去に局でも地球人を入れたことがあるのは知ってるよね?」


「むしろ魔道士なら知らないやついないだろ?それが地球人を嫌ってる理由でもあるんだし」


ファイゼンはそれほど嫌ってもいないが、多くの魔道士は嫌っているだろう。


「私たちの地球人のイメージは横暴、自分勝手、冷徹などなどいいイメージはないわね」


ティアが魔道士たちが抱くイメージを語る。


「でもそれは一定の大人に対するものじゃないかなって思ってるの。

魔法世界でもそんなやつはいるでしょ?」


とポーラは問いかける。


「まぁ否定は出来ないな」


ファイゼンが大きく首を縦に振る。


「年齢を見て」


「十二歳?アカデミー卒業して魔道士ならギルドに入るころよね?」


「魔法世界ではそうね。でも地球で十二歳はまだ子供、これから大人になっていくのよ」


「おいおい、そんな子供で大丈夫なのか?時には命がけの仕事になるかもしれないんだぞ?」


「大丈夫だと思うわ。たぶんその子、私より強いかもしれないの」




「「「はあ??」」」




三人の声が重なる。




ポーラのランクはSSダブルエス、上位ランクSの一つ上ランクである。


そのポーラより強いとなるとギルドマスターと同等か超えることになる。


地球人は強いと言われてるが、子供にその強さは異常だと誰もが思うこと。


それをポーラはあっけらかんと言ったのだ。


「おまえ、ホントにそんな風に思ってるのか?」


「ここ数日その子を観察したけど、一日で地球を周ったり無人島で攻撃魔法の練習したりしてたわ。

その中でも攻撃魔法は異常ね。消費魔力に対して攻撃範囲が大きすぎるの」


そう説明しながら画面に観察動画を見せる。


「何の魔法だろう?放出系魔法?属性は雷かな?」


「こっちは炎の放出系っぽいぞ」


ティアとファイゼンは動画を見ながら分析する。


たくさんの動画が流れるが、どれもよく見る魔道士のトレーニングを自主的に行ってるようだった。


また孤児なのだろうか?教会の一角で数人の子供とシスターと思われる人と食事をしている。


無愛想ではあるが子供が集まるあたりを見ると面倒見は良さそうだろう。


「おい、これ。こいつ一般人殺してるのか?」


リーシャが画像を見せながらポーラに詰め寄る。




動画は建物の裏路地で少年を数人の大柄な男が囲っていた。


少年が男の一人に触れた途端、一瞬で男の姿が消えた。


目の前で起こった不思議な現象に辺りをキョロキョロと見回す男たち。


そしてそのそばに消えた男が降ってきた。当然その男は息絶えその場で動かなくなった。


目の前で起きた出来事に凍りつく男たち。そして少年が何か話している。


慌てふためき逃げ出す男たち。少年は逃げた男の方に腕を突出し、拳を握る。


途端に逃げた男が消える。そして残りの男たちに向けて同じことをすると男たちは全て消えた。




「これ、国外の話とはいえマズいだろ」


魔道士の仕事にも暗殺系の仕事はある。


しかしそれは世界を危険にさらすような人物ばかりで、一般人は当然存在しない。


基本的に仕事外で犯罪を見つけた場合、報告の義務が生まれるが干渉されていない国では黙認される場合が多い。


しかし今回はそいつを仲間に入れようというのだ。こればかりは問題視されても文句は言えない。


「ちょっと待って。その動画続きがあるでしょ?それを見て」


ポーラに促され動画の続きを見る。




建物の陰から女が二人、怯えながら出ていき、逃げるように去って行った。




「もしかして彼女たちを助けたの?」


「ええ。私もさすがにマズいと思ったけど、この子どうやら人助けをしてるみたいなの。

殺すのは必ず暴漢といった社会悪にしかしていない。

もちろん仲間に入れるなら安易に殺さないようにしなければならないけど、

見ず知ら他人を助けようとする、助けた人に見返りを求めない、

そんな人間ならばギルドの仕事もやっていけると思うし、いい仲間になれるかもしれないわ」


「どうだか。地球人は人を騙すのが得意なようだからな」


「それにこの子はまだ子供。しっかりと教育すればまだ可能性は高いはずよ」


「ふん、子供であろうと地球人には変わりない。また昔の惨劇を繰り返すつもりか?」


仲間に入れたいポーラと仲間に入れたくないリーシャの言い争いはヒートアップする。




「はい、そこまで!」


二人の言い争いを止めたのはファイゼンだった。


その抑止にポーラとリーシャは押し黙る。


「二人の言い分はわかった」


黙った二人を確認すると背もたれに体重を預け、大きく息を吐く。


「ティア、お前はどう思う?」


「いや、あたしは…どっちも決め手に欠けるかな?

リーシャは地球人嫌いが強くて何でも頭ごなしに拒否ってるように見えるし、

ポーラも不確定要素を楽観視してるように思えるの。だからあたしは決められないって感じに…」


「まぁそうだな。俺もそんな感じだ」


どっちつかずの意見にイライラし始めるリーシャ。


それを見透かしたようにファイゼンが話し始める。


「ポーラ。メンバーの期限は何時だ?」


「え?まだ十日くらい先だけど」


「一応メンバー四人で発足は出来るが厳しいな。今から新しいの探しても間に合わないし。

だから候補は変えない。これは決定させるべきだろう」


チッとリーシャが舌打ちをする。


「ポーラの人を見る力は本物だ。それは俺たちもよくわかってるだろ?

人間性については全員で監視し、危険ならすぐに止めるよう注意を払おう」


そいつが危険だという証明が無ければ安全だという証明も無い。


ここは妥協しなければ話は進まない。


「ただし、地球人の加入の条件として一つ追加する。

これがクリア出来たなら俺もサブマスターとして加入を認めよう」


嫌がるリーシャに免じて条件を追加する。


「どんな条件?」


「それはもちろん俺とリーシャに強さを認めさせることだ」


「え?どうやって?」


「俺たち魔道士は時に命がけの仕事をすることもある。その時足を引っ張るようなことされちゃ困る。

そいつ、お前より強いかもしれないんだろ?ならお前が実際に戦って証明してみせろよ」


「ちょ、ポーラより強いかもしれないのに戦わせるの?ポーラが死んだらどうするのよ」


「それはさせないよ。殺されそうになったら、俺とリーシャで助けてさっさとおさらばだ。

ポーラの見立てじゃ、悪人じゃなきゃ殺そうとしないんだろ?」


つまり少年がポーラと戦かって殺さずに勝利または善戦すればポーラの見立て通りでその見立てを信じる。


殺そうとしたならポーラの見立ては間違いでリーシャの言い分が正しくなる。


もちろんポーラが負けるとは誰も思っていない。


でもポーラと互角に戦うことが出来ればそれは立派な強さの証明である。


そして殺す素振りを見せなければ、安易に人を殺さない証明になる。


「だからリーシャ、一回だけ地球に行くことだけは我慢してくれ」


「はあ!?ふざけんな!」


「なんだお前?自分の言ってたことが信用出来ないのか?」


ファイゼンがニヤニヤしながら言う。


「お前は地球人は簡単に人を殺す冷徹人間だと思ってるんだろ?

お前の言い分が正しいって言うなら、そんな奴らにポーラ殺されていいのか?」


自分の命を餌にとんでもないことを言ってる男に怒りを覚えるが、

ここは我慢しなくては話が進まないと必死に怒りを抑えるポーラ。


そんなポーラを横目にヒヤヒヤしながらファイゼンとリーシャのやり取りを見るティア。


そして地球人を仲間に入れる作戦は幕を開けた。

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