第12話

「ごめん。ちょっと遅れた―あれ」

 俺はベンチに戻りアリスがいるものだと思い水を差し出すが返事も姿すらない。

 この時点で正直嫌な予感が全身をかけめぐっていた。

 いても立っても居られなくなり、辺を見渡し探す。

「おいアリス。かくれんぼかー?それならもう降参だ。だから出てきてくれ」

 恥を捨て大衆に変な目で見られるのは覚悟で叫ぶ。

 それでも返事は帰ってこない。


 近くにいた人は見てないのか?

 そう思い俺は横にいた人に声をかけた。

「ここにいた、ボブヘアーの黒髪にパッチリとした二重で黒目や三角帽子を身に付けていてちょっと背の低い可愛い系の女の子がどこに行ったか知りませんか?」

 俺はアリスの特徴をできるだけ話、聴き込む。

「すまない。俺たちは今ここに来たとこだから望むような情報は出せないや」

 腰に長剣を添え、防具を着ている如何にも冒険者の青年はそう答えた。

「そうですか」

「迷子かい?良かったら一緒に探すの手伝いましょうか?」

 察しのいい青年は優しくそう言った。

「良いんですか!?報酬もほとんど出せるかわからないですし、僕自身がそもそもお荷物みたいなとこあるのに……」

 今の俺にとって探す人が増えるのは嬉しいが、これをクエストとして受けようと言うなら少し頭を悩ませてしまう。

「お金なんて要らないよ。困った時はお互い様。だよな」

「ええ」「うん」「おう」

 リーダー格の青年なのか。男がひとつ確認をすると仲間はバラバラの返事をした。

「見ての通りだ」

「ありがとうございます。では早速お願いします」

 青年は頷いた。

「アリスさんー!どこですかー?」

「アリスさんやー」

「アリスー。どこだー?」

 繁華街入口から出口まで隅々まで探すがアリスの姿はなかった。


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「こんな事してどうするつもりですか!」

 口に咥えらた紐が外され、息荒くアリスは言う。

「すまねぇな嬢ちゃん。こっちも生きる為にやってるんだ」

 男は少し申し訳なさそうに言った。

 この男もやはり事情があるのだろう。

 それで私の命を奪われるものなら容認出来ないが。

「ここはどこ?早く家に帰らせて!」

「この場所を知っているのは極わずかな人間だけだ。助けは来ねぇーよ」

 私の希望を踏み潰すように男は言った。

「誰の命令でこんなことを!」

「誰だっていいだろ?……でもまあ秘密義務も無いしどうせすぐに会うんだ。教えてやるよ。お前を拐えと言ったのはプランダール伯爵だ」

 これもプランダールの仕業か。てことはメーデーさんが言っていた話も事実っぽいですね……。

 けど、自分から尻尾を出すような事はしてくれるとは手間が省けました。

「私はこの後どうなるの?」

「っんなことは知ったこっちゃない」

「そう。もし今ここで魔法を使ったら貴方はどうなるんでしょうね」

 身体を捕らえられている身ではあるが魔法自体は使用可能だ。

「嬢ちゃんもしかしてここに対神界人結界たいしんかいびとけっかいが貼られてないから魔法が使えるとでも思ったのか。フハハハ」

「実際貼られてない!こうやって!」

 ユウマにはまだ見せていない無詠唱で男の真下にトラップ魔法を展開するように放つ。

 しかし、魔法陣は展開しようとするも発動前に消えていく。

「折角だ。教えてやるよ。お前はもう一生魔法が使えない」

「……え……はぁ?」

 あまりに突然なことに間抜けな声を上げてしまった。

「もうおしまいだ。フハハハ。それじゃあな嬢ちゃん。この紐は貰ってくぜ」

 男は高笑いを上げ、さっきまで口を抑えられていた紐を奪い下衆な笑みを浮かべこちらに振り返ることなく闇に消えてった。

私の意識はここで途絶えた。


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 時刻は深夜0時を少し回ったあたり。

 青年達は未だに一緒に探してくれている。

 申し訳ない気持ちと感謝の気持ちと早く見つかってくれと言う願いで心がいっぱいになっていると、

「ちょっと!こっちに来て」

 青年の仲間の唯一の女性であるルインが声を上げた。

 直ぐに全員が駆けつけた場所は俺とアリスが座っていた場所だ。

 真ん中に1本のデカい木が生えていてそこの周りを1周座れるようベンチになっている。

「どうした!?」

 リーダー格の青年が聞く

「聞いてアーロン。ここついさっきまで超級魔法対神界人結界が貼られていた見たい。しかもそれをバレないよう結界隠しの結界を二重に掛けてある」

「なぜ神界人専用の結界をしかも壊されないように?」

 俺が疑問に思ったことを、リーダー格の青年―アーロンが聞いてくれた。

「そんなこと聞かれても知らないわ。けど、ここまで隠そうとしてるんだから何かしらはあった事で確定な気がするわ」

 緊迫した空気に沈黙が走る。

「なにかヒントとかないのかよ」

 俺は大きな木を触りながら言った。

 その刹那俺が触った木の1箇所から小さな魔法陣が展開された。

「みんな!備えて!」

 剣を構え杖を持ち距離を置く。

「……何もこない?」

 10秒経っても魔法攻撃も人も何も来ない。

「キャッ」

「アリス!?アリスの声が今したぞ!」

「てことは近くに!?」


「よし、このまま袋に入れて運ぶぞ」


「おい誰だ。おい!」

「プランダール伯爵からの依頼だ。この娘に傷があったら俺たちの首は飛ぶ。真剣に運べよ」

 なにから喋っているかはもうわかった。

 あの魔法陣からだ。

 多分アリスのことだ。誘拐されるとわかって即座に何かしらやったのだろう。

 おかげで今回の犯人がわかった。

しかし拐われたと言う事も事実になってしまった。

「…………」

「あの、落ち込まないでください。お気持ちは分かりますが……」

 黙り込んだ俺にルインは優しく声をかける。

「大丈夫だ。正直結構辛いけどな。まあこれでアリスが生きてる事は確定したようなものだ。そこだけは喜ぶとすると」

 俺の覇気のない言葉にルインとアーロンは声を詰まらせた。

「今日は本当にありがとう。これはお礼です。みなさんで分けてください」

 そう言って俺は1枚の金貨を残しルインに袋ごと投げ走り出した。


生き残ってるのが確定しているなんてのは自分を騙すためのハッタリだ。

アリスの力を信じての自分の無能さをかき消す為の大嘘のハッタリ。

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