第11話 偵察

 俺とアリスは用意された部屋に戻り、顔と顔が見えるように座った。

 膝の上ではなく椅子の上だが。


「なあアリス。魔物が関わってるってどうしてわかったんだ?」

 さっき話した事を思い出し、疑問に思ったことをアリスに聞く。

「なんとなくです」

「なんとなくって、その考えで命落とすかもしれないんだぞ」

ここは異世界。魔物が蔓延る世界で俺はまだ何一つ知らない。

が、そんな考えとは裏腹に、

「心配しないでください。何がなんでもユウマは死なせません」

 アリスは俺を見て言ったが、俺にはどこか遠くを見つめて言ったように感じた。


「わかった。話は変わるが、プランダール伯爵について何か聞いてる噂や知ってることはあるか?」

 何か言いたくなさそうな顔になったので空気を一掃するべく話題を変える。

「そうですね。成金で女遊びが激しく太っている。これくらいですね。けど、この程度ならこの街で少し生きてればすぐ分かりますから、もう一押し。強い情報が欲しいですね」

「アリスでもその程度の情報か。なら……。まて、もし魔物と言う情報が合っていた場合これは結構やばくないか?」


 最悪な事態を想像し状況を整理する。

 この王国の1部を納める領主が魔物とズブズブの関係だとしたら国家が翻る大事件だ。

 1人の貴族がそれならほかの貴族も疑われるのは必然だ。

 もしそれが貴族のみで噂として広がった場合それを暴いてしまった俺とアリスの身の安全は保証できるのか?

 -答えは否だ。何一つ安心出来る点が無い。

 たが、引き受けた以上解決をするしかこの問題を解決できない。

 解決策があるのか?

 それも否だ。

 そもそも魔物とプランダールが同一人物なのか。それとも魔物とプランダールは別々なのかすら分かっていない。

 無闇に突っ込んでもほぼ死ぬだろうし、突っ込まなければメーデーさんの娘さんの命が危なくなる。

 魔物の種類は?なんで密告文が送られてきた?そもそもこれだけ歳の離れた結婚の話が進んでいるんだ?

 考えれば考えるほど、知りたい情報とこの世界の知識の差が開いていく。


 ズキンと頭痛が走る。

 このタイプの頭痛は頭の使い過ぎだな。

「なんで、俺は転生数週間でこんな無理難題に当たるのかな」

 眠そうに瞼を擦りながらアリスが、

「本当に覚えていないのですね」

 と言った。

「覚えるもなにも、知らないのだけど」

「そうですよね。大丈夫……です。私は強いです」

自己暗示のように言ったアリス。

「……もう日も堕ちる。少し休んだらこの近くの繁華街は飯が美味いらしい。良かったら行かないか?」

ひどく疲れた顔のアリス。ここはひとつクエストを受けれた事の祝いとしてでも外に食べに行こうと提案をしてみる、

「良いですね。行きましょうか」

「じゃあメーデーさんにそのこと言ってくるから準備して待っていてくれ」

「はい」


 俺は部屋を出て扉を閉じ、その扉に背を合わせた。

「覚えていないのですね」この言葉が引っかかる。それを肯定した時に流れかけた一滴の涙に俺は触れなかった。

 触れるべきだったのだろうか。

 触れなくて正解だったのだろうか。

 あの時は気が付き迷ったが触れたらアリスは壊れる。

 直感がそう言い触れなかったが結局今こうして悩むくらいなら触れて良かったのだろうか。

 前からあるアリスのおかしな発言。

 そろそろこの問題も解決しないとな。

 歩き出すと再びズキンと頭痛がした。



「ユウマユウマ!あれはドラゴンの卵ですよ!」

 俺とアリスは繁華街に来ていた。

 メーデーさんに遊びに行く断りを入れる時は心臓がちぎれる程の緊張をしたが、快く承諾してくれた。

 アリスが歓喜を上げ指を指す。

「まじか!ドラゴンの卵が売ってるかよ!世界は広いな」

「あっちにはドラゴンが丸焼きになってますよ!なんですかアレは」

「あんなサイズのドラゴンまでこの世界には居るのか。てかドラゴンが主食なのか!?」

 成人サイズの豚と同じ大きさのドラゴンが太い鉄ぐしに刺され、炎の上で回転し焼かれている。

「何から食べましょうか。こんだけ珍味があるのです。食べ歩きましょう」

 アリスのぴょんぴょんと心が跳ねているのが鈍感な俺ですらわかる位アリスの顔に笑みが溢れている。


「異世界って楽しいなぁ」

 俺は景色のいいベンチに腰を掛け独り言を呟いた。

「ほんとうにいいですよね。なんかこう、今までに無い経験ができて……。もちろん食べ歩きは2本でした事ありますけどドラゴンなんて初めて食べましたし」

 独り言のつもりだったがアリスが反応してくれたなので俺も返す。

「アレは柔らかくて変な臭みも無く美味しかったよな」

「ですです。牛と豚のミックス見たいな感じでしたけど、味は絶妙に違くてリピートしたくなる味付けが良かったです」

 俺とアリスが食べたのはドラゴンの肉を2種類。

 1つはドラゴンの丸焼き(脚を一本ずつ)だ。

 味付けは塩のみで単調な味わいと思っていたがその考えは1口目で覆され二口目で虜にされた。

 さっき言ったように、本当に臭みがなく(店主の臭み取りが美味いのかもしれない)肉自体に甘みがあってそれを塩が引き立ていて美味しい。

 2つ目はドラゴンの唐揚げ。

 黄金に輝く天使の衣を纏ったお肉はさながら芸術品のような美しさがあった。

 味付けはノーマルとヤンニョムの2種類。

 正直この世界にヤンニョムがあることが驚きだが、これまたドラゴン肉とのマッチが完璧だった。

 ヤンニョムでテラテラと光る唐揚げはごまの装飾が施され、思わず1口齧り付くとピリッとする辛味と微かに感じる甘みの双方からの攻撃を受けそこをゴマの風味が駆け抜けていく。

 アリスが言ったようにこれもまたリピートしたくなる味だった。

他にも幾つか食べたがそれはどれもこれには及ばなかった。


「平和そのものだな」

 俺は思わず言った。

 目の前に広がるは街頭に照らされる街と食べ歩き、観光を楽しむ人々の姿。

 数時間前俺は魔物が関わっていると言うクエストを引き受け、約1週間前に出会ったフレイさんは何処かの交渉材料に使われ、約3週間前俺はこの世界にやってきて魔王を倒す冒険者になった。

 もっと街は鉄臭く返り血で壁が汚れて魔物が街のすぐ近くに現れるものだと思っていたが……。

 日本で想像した異世界とこの世界のギャップに慣れることは当分できないだろう。

 だから俺は今の呟いたのかもしれない。

「そうかもしれないですね。この平和の裏には沢山の犠牲があり、それをは見てきました。今も見せかけの平和であり、本物の平和ではありません」

 アリスは意味深な事を言った。

「先人の命を無駄にしないため。あの時の私達を無駄にしない為。私たちは魔王を倒す必要があります」

「そうだな」

 魔王を倒す。これは冒険者としての最終目標になるのだろうか。

「その為に英気を養うって意味でもう1回食べ歩きに行きましょう!」

 俺の手を取り立ち上がるアリス。

「チョッ、もうあんまり金を使えないのだが」

「大丈夫です。冒険者は何とかなるんです」

「……しゃーねぇなー」

 俺は後を考えるのやめアリスに引っ張られるまま繁華街に向かった。


日が完全に落ち夜が更けたからだろうか。

先程歩き回った時より、人混みが出来ていて少し目を話せば離れてしまいそうな程混み始めた。

離れないようにアリスの手を握る。

小さく柔らかい手を合法的に握ることが出来たこの混雑具合に思わず感謝してしまう。

……毎日混んだけ混んでいればいいのに。

なんて考えてしまうほどにだ。

「アリス、しっかり手を握っとけよ」

「はいっ!」

後ろからいい返事が聞こえる。

「なにか食べたいとかあるか?」

俺は1度止まりアリスが横に並ぶのを待つ。

「この人混みでなんにも見えないので、ユウマに任せます」

「なら、アレにしようぜ」

「……凄い名前ですね。けど良いですね」

アリスが一瞬顔を引き攣り沈黙したのもそのはず、俺が指指した看板に神殺しの饅頭と堂々と書かれていた。


「おじさんこれ2つお願い」

2mはありそうな高身長とリーゼントヘアーが威圧感を振り撒く店主に若干の恐怖を感じながらも、平然を装い注文する。

「あいよ。2つで300バイツだ」

「あ、ありがとうございます」

お店の前を立ち去り(木を中心に円状に椅子になっている)ベンチに腰をかける。

袋から神殺しの饅頭を取り出す。

「ウッ」

アリスの顔が引き攣る。

饅頭の表面には天使の輪っかが頭の上に乗った神らしき人物をリーゼントヘアーの男が踏み潰していた。

アリスが持っている饅頭には、神らしき人物がリーゼントヘアーに土下座をしていた。


……なぜ神を殺してるのか知りたすぎる。

俺は饅頭を見つめそう思った。

少し食べるのに戸惑ったが口に運ぶ。

しっとりとした生地が唇に当たり、噛めば中からこし餡の風味と甘い酸味が鼻を抜ける。

饅頭で酸味?と思い、断面を見ると中には大粒のイチゴが入っていた。

フルーツ大福の饅頭版と言える様な食べ物は大変に美味だった。


「美味しいですねユウマ。神殺しってのが引っかかりますが……」

「まだそんなことを気にしていたのかー?だが、味は確かに美味いな」

いくら果物が入っていて、水分があると言っても和菓子を食べるとどうしても喉が渇く。

「喉乾いたから水買ってくるわ。アリスはここで待っててくれ」

「分かりました」



「自販機でもあれば楽なんだがなー」

水は基本外には売ってなく、お店に行かなくてはならない。

自販機でもあれば……とも思うがあれは治安のいい日本だから出来たことであってこの中世ヨーロッパでは流石にきつい気もする。

そもそもそんな技術すら存在しないか。


200mほど歩き、おばちゃんがやっている水屋につき水をふたつ貰う。

水はヒョウタンの様な入れ物に入って渡されひとつ250バイツだ。

正直結構高いが安全が保証されているしこの世界で水はかなり貴重なものとなっているから仕方ない。



ーーーーーー



……ユウマはまだでしょうか。

アリスは心の中で不安を言葉にし落ち着かせていた。

正直この人混みで1人は心細いし身に危険を感じる。

……あの時どうするのが正解だったのでしょうか。

軽く目を瞑り過去を思い出し振り返る。

すると突然騒がしかった祭りの音が消え、人の声も何一つ無くなった。

目を開けるが光が眩しく上手く見ることができない。


「キャッ」


突然後ろから目と口を押えられ身体を捕まれ声を上げてしまう。

「よし、そのままこの袋に詰めて運ぶぞ」

指示をする1人の男と返事をする2人の男。

状況が余りにも悪すぎる。

抵抗すれば殺されるかも知らない。

魔法を使うにも唱えることが出来ない。

「離せ!はなせ!」

叫ぶが口を塞がれた今声は誰の耳にも響かない。

ジタバタと手足を動かすが押さえつけられ力が抜けていく。

……おかしい。《スペアマジック》が起動しない。なんでだ。本来ならもうここで――頭もぼーっとしてきた。ユウマ――たすけて。

頭の中がゆっくりと真っ白になっていくのを感じながら私は意識を失った。










人混みでアリスが攫われる→アリス救出とメーデークエストを同時進行。→スキルを覚える→変な話を聞く(アリスのスペアウイッチ発動しプランダール伯爵のこと)→それを証拠として立証する為にプランダール主催のパーティーに行く→敵に遭遇。アリスの死(アリスにはユウマが死んで見える)幻術による罠。→教会に向かう→同じことを言った方が先程来てらっしゃった→お互いバラバラだが、プランダール伯爵の家に忍び込む。

→不意をつき魔物にアリスが神聖魔法を放ち瀕死なとこを果物ナイフで首を切る。

【ここでアリスとユウマの再開】

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