私はバグを祓う『SE』です

ゆにろく

私はバグを祓う『SE』です

「では、中途採用の選考面接を始めます。君は『SE』、すなわち『システムエンジニア』を希望ということで良いね?」


「いえ」


 人事部の面接官二人――片方は若く、片方はベテランと言った感じ――は、目の前の20代後半スキンヘッド男の返答に首を傾げ、顔を見合わせた。


「『いえ』? 『SE』と、そう書いてあるが……?」


「えぇ。『SE』と書きました。ただ、『システムエンジニア』ではありません」


「? それは一体どういうことかね」


「私は『スーパーエクソシスト』で『SE』なのです」


 面接官二人は顔をまた顔を見合わせる。そして、若い方が『スーパーエクソシスト』を名乗る男に向かって口を開いた。


「すーぱー……? 君は一体何を言っているんだ。冷やかしなら帰ってくれ」


「冷やかしではありません。私はこのソフトウェア開発会社である御社に必要な人材です」


 若い方の面接官がとうとう、声を大にして注意しようとした瞬間、ベテラン面接官は手で制した。


「……説明しなさい」


「はい」


『SE』の男はそう返事をした。


「……どういうつもりですか?」


 若い面接官はベテランにそう小声で尋ねる。


「……今日、何人目だ?」


「? えーと、15人目くらいですか」


「疲れたろう?」


 息抜きである。


「まず、お二方は『エクソシスト』はご存じですか?」


「えぇ、悪魔とか悪霊を追っ払うみたいなやつでしょう?」


「そうです。それが『レギュラーエクソシスト』です」


「……ふむ、君はスーパーと言ったな。とすると君はそのレギュラーなエクソシストではないということかね?」


「はい」


「では一体何を祓うんだ?」




「バグです」




「なんだって?」「ほう」


 若い面接官は呆れ、ベテラン面接官は面白そうに男の話に聞き入った。


「悪魔は上位の存在であり、悪霊は人の成れ果て。それは『エクソシスト』として祓えて当然です。私達『SE』は機械が生み出した悪霊であるバグを祓うことができます」


「なるほど、それは確かにスーパーだな」


「えぇ」


「……君ねぇ」


 若い面接官はとうとうしびれを切らした。


「バグは悪霊なんかじゃあない。設計ミスやソースコードの記述ミス、そういった説明可能なもの――」


「――が大半でしょう」


 若い面接官の言葉を『SE』が続けた。


「大半……?」


「えぇ。あなた方は遭遇したことがありませんか? 理由は不明だが、なぜか動くプログラム。PCを再起動したらなぜか治ったバグ。理由はわからない謎のバグ。プログラミングに限った話ではありません。なぜかいきなりWifiが途切れる。いきなり充電がなくなるスマホ。

 身に覚えありませんか?」


「……あるな」


「それは全て機械の生んだ悪霊の仕業です。それを私は祓うことが出来る」


「……証拠は?」


「悪霊がいるパソコンをお貸しいただければ、すぐにでもお祓いしましょう」


「本当なんだろうな……?」


「――私は『SE』です。全てのバグをお祓い致しましょう」



 ◆



「受かっちゃった……」


 『SE』を名乗るスキンヘッド男は受かっていた。

 もちろん面接で口にしたすべてはでまかせである。

 

「頭丸めた甲斐あったな! 入社しちまえばこっちのもんだ。よーしとりあえず、プログラミングの勉強すっか! ……いや、ほんとにエクソシスト路線で行こうか――ん?」


『採用』と書かれた手紙には所属部署が書かれていた。


 ――営業部門

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