第34話 マリリンの気持ち

 ヤンキー軍団が夕日に消えていった後、俺達は馬族の村に向かって走っていた。

 段々と空にあった太陽は沈んでいき、茜色の空は白みがかかった薄暮となっていくと、急激に気温が下がっていく。


「寒い……。」


 俺の後ろでヒヨリンが肩を震わせて呟く。


「大丈夫か、ヒヨリン?」


「ん、まだ……平気。……大丈夫。こうすればもう少し……もつ……。」


 ヒヨリンは俺の腰に冷え切った震える手を回していただけであったが、体の体温で暖を取ろうと背中に抱き着いてきた。


「あった……かい……。」


  プニュ!?


 お……oh神よ!

 こんな私を救ってくださるのですか!?


 マリリンには嫌われるわ、仁にいいところを取られるわで踏んだり蹴ったりで凹んでいた俺。

 だが息子が目を覚ますにつれ、さっきまで散々悩み続けていた重大な問題


(今後のマリリンとの接し方と信頼を取り戻す算段)


を忘れそうになる。


 神様……。

 もう少しこのまま……。


 癒されゆく心と息子の為に神へ願った。

 がヒヨリンの体がシンに密着することで、ヒヨリンの体の冷たさと震えを強く感じ、我に返る。


 この柔らかさ……。

 この冷たさ……。

 ん? 冷た! 

 いくら何でも冷えすぎだろ!


 ヒヨリンは、多くの魔法を詠唱して精神をすり減らしたため、その影響はヒヨリンの体に出ていた。

 それは、ヒヨリンの体温を急速に奪う。


 ヒヨリンはずっとやせ我慢をしていた。

 俺のバックパックの中を盗み見たヒヨリンは、食料が残りわずかであるのを知っていた為、早く帰還をしなければならないと思っていたのだ。


 ヒヨリンの体の冷え方に異常を感じた俺は、急いで安全に野営をできる場所を探し始める。


 お、ちょうどいい岩場が見えてきたな。

 あそこなら、比較的安全かもしれない。


「ブライアン! 野営にするぞ! この先に見える岩場でみんなを降ろしてくれ。」


 だが、当のヒヨリンが弱々しくも反対する。


「ダメ……急ぐ。まだ平気……。」


 その声にマリリンも、ヒヨリンの異変に気づいた。


「ヒヨリン! 嘘! こんなに冷たくなってるじゃない。早く休まないとダメよ!」


「だい、じょうぶ……。」


「まずいな……急ぐぞ!」


「わ、わかったわ……。」


 マリリンは俺の言葉にぎくしゃくしながら返す。

 早く普通に戻ってくれないかな……。


 マリリンはブライアンが溺れた時、本当はシンが助けようとしていた事に気づいていた。

 だから、本気でシンに対して失望して腹を立てていた訳ではない。


 だが、自分の育ての親を助ける事が出来なかった事が本人が思うよりもトラウマとなっており、かなり精神的に不安定になっていたのだ。

 

 死にそうなブライアンを見て、あの日の事をフラッシュバックしてしまう。

 だから、すぐに行動をしなかったシンを許せなかった。

 そして、心の余裕のなさが重なって、シンに対して必要以上に酷い態度をとってしまったのである。

 それを今でも後悔していた……。


 ヒヨリンの事を心配して野営を告げたシン。

 その優しさが更にマリリンの心を痛める……。

 しかし今更どんな顔して話せばいいかわからない。

 ただじっとシンの背中を見つめている事しかできなかった。


 その姿は、本人すら気付いていない初めての淡い恋心の芽生えを感じさせた……。

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