第24話 疲れる家

 俺は寝ている間、とある夢みたいなものを見ていたような気がした。周りはとても良い景色で落ち着くようなところに寝転んでいる感覚なのに何故か俺の身体がとてもいい重たい。ってあれ?重たいどころか全く動かせない!動かそうとしてもびくともしない。そうして俺は動かせない自分の身体を全力で動かそうとした時に目が覚めた。


「なんか変な夢だったなぁ、、、」


 そう思いながら身体を起こそうとすると、全く身体が動かせなかった。


 おかしい!もう俺は起きているよな?まだここが夢ってことはないよな?

 そう思って確認するも紛れもなく現実だった。

「おかしいな、、、」


 そう思って自分の身体を見てみると俺の身体を抑えるように腕と脚が身体に巻きついていた。 

 布団を広げると中にレーネがいた。


 コイツ、、勝手に人の布団に入り込むなよ、、、しかも人を抱き枕にするなよ。


「まぁ、少しならいいか。」


 そう思って俺はじっとしていた。10分、20分と時間が経っているのになかなか起きない。

「そろそろ起きてよレーネ。」


 そう言っても全然起きる気配がない。マジか、、このままじゃ、いつもの日課がこなせない。


 そう思っているとルージュがレーネの部屋に着替えを持ってきていた。


「ん?あら、ローラン君起きていたのね。」

「おはようございます。ところで助けてもらってもいいですか。」


 そういうとルージュはいつも通りの悪い笑みを浮かべた。


「ローラン君は簡単に女の子の誘いを蔑ろにするような子だものねぇ。そんな子の言うことを何故女の私が聞かないといけないのかしら?」

 

 昨日の仕返しと言わんばかりに意地悪なことを言ってきた。


「ちょ、ちょっとルージュさん。昨日のことをお気に召さなかったのであれば謝罪致しますので助けてもらってもよろしいですか?」

「ローラン君はわかってないようね。」

「何がですか?」

「私は謝って欲しいのでも何かをして欲しいのでもないの。」

「といいますと?」

「ローラン君に少しくらい報いを受けてもらってもいいかなって思ってるの。」


 それだけいうとルージュさんは朝の支度に向かっていった。


「この状況を助けるくらいいいじゃないですか、、、」

 

 そんな俺の言葉は虚空の中に消えていった。


 それから1時間後にやっとレーネは起きた。正直ずっと同じ体勢でいた俺の背中は攣りそうだった。


「おっ、おはよう、、レーネ。」

「あと10分、、、」

「ちょっと、、レーネさん。せめてこの手と脚を退けてくださらない?」

「嫌、じゃあおやすみ。」

「ちょちょちょ、ちょっとレーネさん!嫌な理由をお聞きしても?」

「ローランのバカ、、、」



 そう言ってレーネはまた眠りについた。俺にどうしろと、、、



 そうして10分といったレーネは30分後にようやく起きてくれた。俺の背中の筋肉が悲鳴をあげそうだ。

 解放された俺はすぐさま背中のマッサージを始めた。

「イテテテテテ、、、」

「どうしたのローラン?大丈夫?」

「知っているかいレーネさん。大丈夫だったら"痛い"なんて言葉は使わないものなのよ。」

「大丈夫じゃないときでも使うときはある。ローランって頭悪いのね。」


 そんなことくらい知っとるわ!って思ったけど俺は口にはしなかった。それより背中がいてぇ、、、


 背中の痛みが和らいでから俺は日課である瞑想を始めた。他人の家でこれすると少しソワソワして集中できないな、、



 そうして瞑想を終えたあとリビングに降りるとルージュか朝食を作ってくれていた。


「あら、おはようローラン君。」

「それ2回目です。」

「あれ?そうだったかしら。それよりもいい朝ね。」

「今、曇りですけど?」

「気持ちの問題よ。」

「気持ちは大雨ですね。」

「またまたご冗談を〜。」

コイツ、どこかで痛い目に遭わせてやる。


 そんなやりとりをした後に俺は作ってもらった朝食に手を付けた。


「ママとローランって仲良いよね。」

「当たり前じゃない、そうよねローラン君?」

「ソウデスネ。」


 そんな空返事を返して止めていた手をもう一度動かし始めた。

 

 その後朝食を食べ終えるとルージュは昼まで出かける予定だったので俺とレーネは2人で留守番することになった。


「ローラン何して遊ぶ?」


 そう言われてもこの世界に来てから遊んだのなんてレーネといる時くらいだし大した案なんてないんだけどな、、、


「剣か魔法か反魔法か読書。」

「それはいっつもやってるじゃん。」

「いつもそれしかやってないから案がないんだよ。」

「そーなんだ、ローランの人生ってつまんなそう。」

 つまんなそう、は余計だ!まぁ実際そうかもだけど、、


「まぁいいや。今日はローランの魔法の手伝いしたげる。」

「ありがとう。」


 そうして俺たちは外に出て魔法の練習を始めた。


「私何したらいいの?」

「とりあえず、持ってる魔法全てを短文詠唱できるくらいにはしておいたら?」

「そのためになにをするの?」


 そういやレーネってあんまりこういうのやってなかったんだよな、、、というか現時点でやってる俺がおかしいっていうのはあるけど。


 そう思って俺は亜空間魔法から必要そうな本を一冊だけ取り出した。


「とりあえずこの本を読んで。」

「こんなにページが少ない本でいいの?」

「簡単な本だけど、これをちゃんと理解して読めるとレーネはとりあえず短文詠唱は全てマスターできると思うよ。」


 そう言うとレーネは喜んでるその本を読み始めた。


 魔法の練習とは言ったけど、まずは剣術からやんないとなんか気持ち悪いからそっちからやるとしよう。


 そうして1時間くらいしてから「少し休憩しよ。」と、レーネから言ってきたので少し休憩を取ることにした。


「本は順調?」

「うん、もう2/3まで読んだよ。この本ほんと読みやすいね。」

「だろうね。家にあった中で一番読みやすいのを持ってきてたから。」

「そうなんだ。」


 そんな他愛もない話をしているとレーネが核心を突くように話を振ってきた。


「そう言えば昨日、ローラン無詠唱について話してたよね。ちゃんと魔法演算が理解できていないとダメだとかなんとか。」

「ああ、言ったね。」

「それって、ローランが無詠唱使えるのってちゃんと理解してるからだよね。」

「まぁ、そうかもね。」

「じゃあ、なんでテストでわたしよりも点数が低いの?」


 やってしまった。まさかただ説明しただけのあの会話からこんな墓穴を掘るとは、、


「そ、、それは僕にとってあのテストは結構難しかったからだよ。」

「でも、理解できてるなら100点取れたって不思議ではないよね?」

「そう、、、なのかな?」

「そうだよ。」


 マズイ、、、このままでは次からテストで低い点を取れなくなる。

 考えろ、考えるんだ俺!


 そうこうしていると休憩を少しとりすぎてしまっていた。それに気づいたレーネから「ああ!もうこんな時間。」と言って本を読み始めてくれた。


 ふうっ、、助かった、、、


 そう思いながら自分の練習に戻ろうとすると横から声が聞こえてきた。


「ローランあとで教えてねー。」


 どうやら俺は逃げられないらしい、、、

そうして俺は不安を抱えたまま、練習に励んだ。


 


 30分、1時間と時間が進んでいった。気づくと既に12時を回っていた。



「レーネ、ローラン君そろそろお昼にしましょう。今日も授業があるのだから多めに作っておいたわ。」

「やったー!」

「ありがとうございます。」


 そうして俺たちは家の中に戻り昼食を取り始めた。ルージュが出した料理は中華系の物がかなりの量が出されていた。


「この量本当に食べ切れるんですか?」

「え?この量って普通じゃないの?」

「大丈夫だよママ。ローランの感覚が少し変わっているだけだから。」

 そんなことは絶対にない!あったとしてもあんたらには言われたくないね。てか、この量本当にどうすんの?


 そう思いながらも食べていくとみるみると量が減っていった。減らした割合はルージュが5、レーネが4、俺が1。フードファイターかよって思うくらいこの2人は食べて進めていた。

 たしかにこの量をこれだけ簡単に減らすのを見てると他人のパスタも食べたくなるわ。そう思いながら料理を食べ終えた。


「ごちそうさま、本当にあの量を食べ尽くすなんてすごいですね。」

「うちはいつでもあの量くらいだからいつでも来ていいのよ。ローラン君の食べる量を見てるとローラン君の分を作るくらい大した仕事にもならないわ。」

「あはは、、、。」


 あんな量を食べて、そんな発言をされるともう笑うしかない。ルージュの美人な顔もレーネの人前ではお淑やかなところも食を前にしたら全部崩れ去るだろうな、、



 そうして俺たちは昼食を取り終えたあと授業の準備をした後に、少しだけゆっくりしていくことにした。


「ローラン君は紅茶か水かコーヒーかどれがいいかしら?」

「僕はコーヒーで。」

 そう言うとレーネは俺の注文に口を出してきた。


「げっ!あんな苦いだけの飲み物飲むの、、ローランは本当に変わり者だね。」

「あの量を食べたレーネだけには言われたくないんだけど、、」

「食べ物の量とコーヒーの話は今関係ないでしょう。」

「だったら俺がコーヒーを頼んだことに文句言う必要もないだろう?」


 そんな口論を繰り広げているとコーヒーが運ばれてきた。


「どうぞ、ローラン君。」

「ありがとうございます。」


 そう言って俺はコーヒーをいただいた。飲んでおいてあれだけど、ルージュは絶対に苦くすると思ってたけどしないなんて、、珍しいな、、



 そうしてコーヒーを飲み終えるといい時間になったので俺たちはエールの家に向かった。


「今日はローラン君も一緒なんですね。」

「ええ、まぁ。」


 俺たちは挨拶を交わすとエールが中に招いてくれたので入った。それから少しして授業が始まった。

 毎度毎度思うけど、知ってる内容の話されてもな、、、


 そんなことを考えながら授業を受けていた。


 エールの授業は毎日6教科30分ずつとなっていて間に5分休憩がある。30分はかなり短く感じていた。まぁ、それはそうなんだけどね。


 そして、最近俺は感知系のスキルが手に入らないかなと思っていたので5分休憩のときにずっと広く薄く魔力を放出している。本当に極少量。これも魔力操作の練習の一環。


 そうして今日もなんなく授業が終わった。ちなみに6教科目が終わると6時まで35分あるのだが、その時間は魔法の練習もしくは予習、復習の時間になる。



 その時間も終わり、俺たちは帰る準備をしてエールの家を後にした。


 レーネの家に着くと今日はベンがいた。だけどかなりお疲れのようだった。仕事大変なのかな、、?

 なんかベンのあんな表情初めて見たな、、


「パパ、ママただいまー。」

「おかえりレーネ。ローラン君も。」

「ただいまです。」


 そうして俺たちは家に上がるとすぐにソファーにもたれた。

「はー、、今日も授業つかれたー!」

「本当に。でも基礎学校に通い始めると朝からあの調子だよ。」

「えー!もう私死んじゃうかも。」

「あははは、まぁレーネは勉強できるし大丈夫だよ。」


 そう言った後も少し喋っているとルージュが夕飯を出してくれた。


「そろそろ夕食にしましょう。」


 そう声がかかったので俺たちは食卓に向かった。ご飯を食べ始めるとルージュとレーネは凄い勢いで食べていった。だが、ベンは成人男性くらいの量で済ませていた。


「ベンさんは食べないんですね。」

「私はしっかり食べているだろう。この2人がおかしいんだよ。」

「ですよね。やっぱりそうですよね!」


 そう言うと2人から反論が飛んできた。


「おかしいってどう言うこと?あなた達2人の方がおかしいわ。」

「そうよ!なんで男のくせしてそんなに食べないのよ!」

 いや、食べてるよ?俺もベンも歳を考えるともう少しカロリーを抑えた方がいいかもしれないくらいには食べてたよ?本当に君たちがおかしいんだよ?


 そんなふうに思ってはいたがどうせまた反論されるだけだと思ったのでしなかった。ベンに限ってはしようとする素振りすらなかった。

 ベンって2人の扱い慣れてるな、、、


 そうして俺とベンは先にご飯を終えるとルージュが「お風呂をもらってきたら?」と、言ってきたのでもらうことにした。ベンは既に入っていたみたいだった。



「ハァー、、疲れたー、、」

 湯船に浸かった途端に今日の疲れの大半が口から出ていったように感じた。


 それから10分くらい浸かっているとドアが開く音がした。俺は目を瞑っていてあげるのも億劫だったので口だけで対応しようとした。


「誰ですか?石鹸は切れてなかったと思いますが、、」


 そう聞くとその後俺の耳に高い声が聞こえてきた。

「私だよ。一緒入りに来た。」


 まさかのレーネだった。いや、この歳ではまだまさかではないか、、だが風呂は基本1人で(ガーベラは除く)入る主義の俺にとっては他の人と入るなんて考えられなかった。


「え?何しに?」

「だから一緒に。」

「うん、、、そうだね。」

 そう返すとレーネは先に身体を洗い始めた。


「それにしても、なんで入りに?」

「昨日はママとの約束を守って入れなかったから今日は良いかなって、、というか2週間はずっとだから。」

「え、、、うん、、、、それでルージュさんは?」

「2人で楽しく入ってきなさいだって。」


 ですよねー。知ってた。てか2週間ずっと!俺1人で入りたいんだけど?



「あのレーネ?」

「なに?」

「せめて3日に一回でどうですか。」

 これでも俺の妥協ラインなんだが、、、


「ダメ!ずっとだから!」

「あっ、、、はい、、、、」



 そうして俺の1日の楽しみである風呂に2週間平穏が訪れないことが確定してしまった。最悪だ、、、風呂くらいはゆっくりさせてほしい!




 そう思いつつも今日はちゃんと2人で入ることにした。流石にもうこの状況で対処は難しいので。ルージュのやつ本当に絶対の絶対仕返ししてやる!



 そう思いながらレーネと騒がしい風呂場を過ごした。

 


 その後、風呂から上がってくるとルージュは満面の笑みで俺を見ていた。


「随分と楽しそうだったじゃない?」

「ハァ、、オカゲサマデ。」

「そう、喜んでもらえて何よりだわ。」

「ハァ、、、オレノタノシミガヒトツキエマシタヨ。」

「お風呂を楽しみにしてたのねローラン君は。それはよかったじゃない、とても楽しいお風呂場になって。」


 わかっていて言うあたり本当に性格が悪いなコイツ!


 そうしてルージュの嫌がらせを受けたあと俺とレーネはリビングにいった。

 盛り上がっているとルージュが「そろそろ寝る時間じゃない?」と言ってきたので俺たちはレーネの部屋に向かった。


 最初は他の部屋で寝るって言っけど、ルージュとレーネに押し切られて結局レーネの部屋で寝ることになった。


 向かっている途中の階段でベンとすれ違った。


「ローラン君、、、すまない。」


 そうベンは俺にだけ聞こえる声で言ってきた。何か俺悪いことされたのかなぁ、、、


 それからレーネの部屋に入ってみると布団がひとつしか用意されていなかった。

 クソっ!絶対ルージュの仕業だ!


 だがここでそれを言ってしまうのもレーネに悪いので俺は布団に入る前にこれからの2週間を我慢する覚悟をして布団に入ってレーネと眠りについた。



 そういえば無詠唱のこと聞かれなくてよかった!それと、明日は抱き枕にされないといいな、、、

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