第49話 帰ってきたリリコ⑦

季節が変わり、リュウは仕事に復帰した。

もと子も就職して3年。学費の奨学金の年季を無事に終えることが出来た。これからも今の病院でもと子が働き続けやすいよう住まいもリュウのアパートから移した。

そして今日はリュウともと子の結婚式。結婚式は八重と仲人をするので張り切った瀬戸が知り合いの経営するレストランを1日貸切にした。レストランはイギリス風の庭が自慢で結婚式の会場としても人気の店。


結婚式当日、準備が整い、ウェディングドレスのもと子を見にリュウが控え室に入った。

もと子は両肩から手首までを薄いレースが覆うマーメイドスタイルでもと子らしいシンプルなドレス。

「,,,もとちゃん、綺麗やな。」

ドアを開けて、もと子を見たリュウは頬を緩めて立ち止まった。そんなリュウを見てもと子も恥ずかしそうに微笑み、右手をリュウの方へ伸ばした。

「リュウさん、こっちに来てください。」

リュウは咳払いをして、もと子の手をとった。リュウはベールを上げてもと子の顔を見た。

「もとちゃん、俺は幸せやで。」

二人が見つめあっているとノックがあり、瀬戸、八重、津田、神楽が控え室に入って来た。

仲人の瀬戸はモーニング、八重は吉祥文様の松をベースにした上品な留袖。もと子の父親役の津田はモーニング、進行役の神楽はいつものくたびれたスーツ姿ではなくシルバーグレーのスーツでパリッとしている。

「なんや、馬子にも衣装やん。」

「津田さん、もとちゃんのどこが馬子なんですか!」

津田にリュウが食ってかかった。

「お前、今日の俺はもと子とバージンロード歩く親父がわりやねんぞ。嫁のお父様になんちゅう口の利き方や。」

津田はもと子の側に行き、さりげなくもと子の手を取った。

「お父さんはこんな男にお前をやれんから、結婚はお父さんとしよか?」

目を丸くしたもと子より先に留袖姿の八重が津田の手を叩いた。

「ハイハイ、おめでたい日にこんなことしない。」

「八重、お前は瀬戸と結婚してからなんや強なったな。」

津田が叩かれた手をさすっていると神楽に頭をはたかれた。高校の同級生の男3人が楽しそうにふざけあっているのを微笑ましく見ていた八重はもと子の隣に立った。

「津田君、身内待遇で結婚式に呼んでもらったことをすごく喜んでるんやけど、自分がもと子ちゃんのお父さん役っていうのが気に入らないんよね。なんで親父やねん、俺がダンナの方やろって。」

八重ともと子とリュウの3人は顔を見合わせて笑った。

「八重さん、今日はお忙しいのにありがとうございます。よろしくお願いします。」

リュウともと子は揃って八重に頭を下げた。

「何言ってるの?あなた達のおかげでアキラと私は結婚に踏み切ったんよ。こちらこそよろしくお願いします。アキラと結婚して初めての共同作業だからうまくやれるのか本当に心配。」

八重は苦笑いをした。そこへドアが開き、ピンクのママと梶原のおっちゃん、おばちゃんが現れた。

「居た!おめでとう!」

ピンクのママがリュウともと子を抱きしめた。「ママ、来てくれてありがとう。留袖着てくれてんな。ホントはもっと派手なドレスを着たかったんちゃうん?ごめんな。」

「バカね、この子は!アンタに自分の姉さん役で出てくれって言われてアタシがどれだけ嬉しかったと思ってんのよ。ドレスはパーティーでいつでも着れるけど、留袖は身内の結婚式じゃないと着れないの。こんなステキな機会をくれてリュウ、ありがとう。」

ママはあらためてリュウの頬を両手で挟んで微笑んだ。

「幸せになんのよ。」

ママとリュウ、もと子が話をしている間、八重は梶原夫妻と話し込んでいた。

「梶原のおじさん、おばさん、今日は仲人させてもらいます。でも初めてのことでちゃんとできるか心配。教えて下さいね。」

八重は少し不安気な表情をした。

「なんかあったらワシらが助け舟出すから心配せんでええよ。」

「そうそう。それにしても、八重ちゃん、結婚したばかりやのに仲人って大変やね。どうせ瀬戸君の思いつきやろ?困ったもんや。」

自分の名前が聞こえて、瀬戸がのしのしとやってきた。

「おう、おっちゃんにおばちゃん、今日はありがとうございます。」

瀬戸が2人にお辞儀をして挨拶をした。

「ありゃー!瀬戸君、お辞儀して挨拶出来る様になったんかいな!八重ちゃんの教育の賜物やな。」

「なんでやねん!それぐらい前から出来るわ!」

瀬戸とおばちゃんのかけ合いに八重もおっちゃんもクスクス笑った。

「まあ、夫婦仲ようて良かった。リュウちゃん、もと子ちゃんの手本になったってや。」

おっちゃんの言葉に瀬戸は八重の肩を抱き、親指を立てた。


梶原のおっちゃん、おばちゃんとリュウ、もと子が挨拶を交わしていると誰かがリュウの足にぶつかった。

「すまん、すまん。うちの子がぶつかった。」

ロキが幼稚園前の小さな男の子を捕まえた。

「ほら、お兄ちゃんに謝んないと。」

ロキに似た、かわいいけれどヤンチャそうな顔つきの男の子が、ゴメンナサイと頭を下げた。リュウは男の子の頭を撫でた。

「ロキさん、今日は来てくれてありがとうございます。」

「リュウ、もと子ちゃん、この度はおめでとうございます。うちのやつ、今オムツ替えてるんであとで.挨拶に連れてきます。」

ロキは小さな息子に手を焼きながら二人にお祝いを述べると控え室から出ていった。


もと子と話をしていたリュウはスマホが震えたのに気がついた。ポケットから取り出すと、アンリからのメール。今頃なんや?内容によってはもと子に知られない方がいいかもと思い、津田に目配せした。

「もと子、お前も馬子にも衣装やの。俺が買ってやったドレス、今でも十分イケるんちゃうか?」

「津田さん、あのときはありがとうございました。」

もと子と津田が話始めたのでリュウはトイレに行くと声をかけ、もと子から離れた。

男子トイレの個室でアンリからのメールを見た。

「久しぶりです。もう仕事に戻ったと聞きました。元気になって良かった。

君と夜の病院で話をしたね。あれからの事を報告します。

あの夜、君には言ってなかったが僕たちの会話を初めから録音していた。なので君のメッセージと合わせて全てリリコに聞かせたよ。リリコは君の言葉が本心とは思えないと泣き崩れた。それで、君の本心を聞くために、昔、君達がよく行ったピンクという店のママに会いに行った。…」



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