第50話

「ねぇ、悠斗くん、篠原くん。今日の放課後予定ある?」


 二月十四日。バレンタインデー当日の昼休み。

 私は二人仲良く昼食を食べているところに話しかけに行った。

 悠斗くんと篠原くんに渡すバレンタインチョコレート。フォンダンショコラを作りに奈那子先輩の家に行ったときに、どうやってこれを渡すか相談をしていた。

 学校で渡しても良かったのだけれど、相談した結果、奈那子先輩のお家に皆で行くことにした。

 用事が無いか聞いたのは、勿論放課後に奈那子先輩のお家に行くことだ。

 ここで予定が空いていないと言われたらどうしようかな。奈那子先輩にはなんとしても連れて来てねって言われてるし……


「俺は空いてるよ。篠原も多分空いてる」

「いや、俺は今日友達から遊びに誘われてるから」


 どうしよう。悠斗くんはなんとか大丈夫だったけど、篠原くんに予定があった。

 奈那子先輩は今日篠原くんにチョコレートを上げるためにあの日頑張って手作りしたんだもん。なんとしても連れて行かないと。

 でも約束は大切……でも奈那子先輩の想いも大切……

 で、でもでも。友達と遊ぶのは何時でもできるけど、バレンタインは一年に一度しかないから、バレンタインの方が大切だよね。


「な、奈那子先輩のお家に誘われてるんだけど……悠斗くんと篠原くんも来るよね? って言ってるよ」

「マジ? 行く、行く! ちょっと待ってて、今断るから」


 篠原くんは直ぐにスマホを取り出し、友達に今日は無理という事を伝えた。

 本当に篠原くんは奈那子先輩の事が大好きなんだね。

 

「はい。翔琉くん、悠斗くん。義理チョコだよ」


 篠原くんが連絡を終え、スマホを胸ポケットにしまうと同時に、悠斗くんと篠原君の目の前に女子生徒がやって来た。

 彼女の手には二人にあげる用であろうチョコレートがあった。

 

「え……?」


 つい、口からそう言ってしまい。私は直ぐに両手で口を塞いだ。

 篠原くんはそんな私を見て、少し笑った。

 そう、だよね。だって私と悠斗くんが付き合ってるのは篠原くんと奈那子先輩にしか知らないのだから。

 それに、彼女も言っていた通り、これは義理チョコ。本命チョコレートではない。

 でも……私が一番に渡したかったな…………


「あー、ごめん。悪いけどこいつチョコレート苦手なんだよ。だから代わりに俺が貰っても良いか?」

「ちょ、何言ってんだよ翔琉。俺別に――痛っ!」


 女子生徒からは見えなかったと思うけど、私からは見えた。篠原くんは悠斗くんの太ももを叩いたのだ。

 

「そうなんだ。ごめんね悠斗くん。じゃあこれ翔琉くんにあげるね」


 そう言って悠斗くんにあげるためのチョコレートを翔琉くんに渡して去って行った。

 嘘でしょ? 悠斗くんってチョコレート苦手だったの……? 知らなかった……

 せっかく奈那子先輩とフォンダンショコラ作ったのに……と考えていると、篠原くんが私の元にやって来て耳元でこう囁いた。


「これで小春ちゃんが一番だね」

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