【キコリの短編シリーズ②】お守り

キコリ

第1話 お守り


 人生で初めてお守りをもらったのは、私が小学校5年生の時だった。




 小学生の時「何か」が流行り、それを無性に「自分のものにしたい!」と思った経験は、誰しもあるだろう。


 「ロケットえんぴつ」や「スライム」、また「交換ノート」を持っている人間が大量にクラス内にいて、その人間は「最強」・「英雄」と称される。

 また、それを見た他の人も欲しくなる・・・という、なんとも分かりやすい「連鎖」が、そこで行われていた。



 その中の1つに、「お守り」があった。



 当時、私の学校では「お守り」をランドセルに付けるのがブームになっていた。

 それは、神社で購入するものから、雑貨店で大量に売っている「ずっと親友♪」というような、今でいう「イタイ」お守りも含めて、だ。


 ―――どちらにせよ、あの袋の中には、何か特別な力が秘められている。


 当時の私は本気でそう思っていて、欲しくてたまらなかった。



                 ・・・



 その年の夏休み、私は家族と神社にお参りに来ていた。

 この年、4つ上の兄は高校受験を控えていた。その為、家族で合格祈願をしようという話になったのだ。


 一通りのお参りを終え、さぁ帰ろう・・・とした時、父は帰路とは違う方向を向き、兄に言った。

「学業お守りでも買ってやろうか?試験の時に持って行きたいだろ?」

「いいって別に。神様なんかに頼んでも、結局は自分の力でしょ?」


 兄は、あまり神頼みをする人ではなかった。なので、その日も「疲れたからもう帰ろうよ。」と言い、自分で歩き始めた。



 刹那・・・私の脳裏に、ずる賢い考えが浮かんできた。




「お兄ちゃんがいらないって言うなら、私がお守り買ってもらう!」


 驚いたのは、父だった。

「お前はいらないだろ。別に、試験とかがあるわけじゃないし。」

「学校のテストはあるよ!」

「お兄ちゃんはな、将来を左右するようなテストなんだ。」

「お兄ちゃんだけズルいズルいズルい!学校で流行ってて、みんな持ってるの!だから私も欲しい!買ってくれたら、ちゃんと勉強する!」


 父の言葉は、今思えば正しい意見だった。

 ただ、この時はどうしても欲しい気持ちを抑えられなかった。

 私は、泣きじゃくりながら頼み込んだ。

 

「泣くんだったら、余計買ってあげたくないわよ。ほら、もう帰るよ。」


 結局、最後は様子を見ていた母が口を出し、お守りを買ってくれなかった。



                 ・・・



 その数日後の事だった。

「ただいま~。」

 日曜日の夕方。終わっていない学校の宿題をしていると、塾に行っていた兄が帰ってきた。

「あのさ、ちょっといいか。」

「ん?どうしたの。」

 兄は私を小声で呼び、手招きをしていた。なぜかソワソワしている。


 リビングから兄の部屋に行くと、「これ。」と、兄が塾用の鞄から何かを取り出して私にくれた。

「・・・あれ、これって!」


 ―――渡された白くて小さい紙袋の中身に、私はくぎ付けになった。


 その中には、私がずっと欲しかった物があった。

 それは綺麗な薄ピンク色をしており、花の刺繍が施されている。その中央には「学業守」と楷書体の文字が刺繍されていた。


「このお守り・・・どこで?」

「塾の近くに、神社があるんだよ。そこで、友達とお守りを買おうって話になってさ。お互い買ったんだけど、そこでお前が欲しがってたのを思い出して、買ったってわけだ。」

 兄は自分の筆箱を見せてくれた。そのファスナー部分には、青いお守りが付けてあった。


「お兄ちゃん・・・ホントにありがとう!」

「別にいいよ。親には内緒だからな。」

 兄は「勉強するから、ほら・・・出て行け~」と、照れ隠しのつもりか、私を部屋からそそくさと追い出した。


 私は、自分の手の中にあるお守りを見た。


 お守りは、兄からの温もりで輝いていた。




                 ・・・




「ねぇお母さん・・・お母さんってば!」


 私はハッとした。少しの間、昔のことを思い出していたみたいだ。


 娘は私の手を引っ張り、笑顔で言った。



「私にお守り買って!学校で流行ってて、みんな持ってるの。」




 私は、あの懐かしい思い出の詰まった袋を眺めながら、笑顔で言った。




「うん、いいよ!」







                  終

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