王子様の王子様

結城水蓮とあなた

「…ふう」


 パタン。と漫画を閉じる。読んでいた漫画のタイトルは『王子様の王子様』以前海菜が言っていた、海菜の知り合いが描いているGL作品だ。既刊4巻を一気読みしてしまった。


「面白かった?」


「えぇ。面白かった。……水蓮はあなたがモデルなのよね?」


「うん」


 主人公である結城ゆうき水蓮すいれん

と、ベッドに寝転がる自身の彼女を見比べる。

 確かに顔は似ている。背が高いところ、男性と間違えられがちなところ、意外と乙女なところ、実は強がりなところなど共通点は多い。しかし後半二つは、私から見た素の部分だ。周りには水蓮のように男らしくてカッコいい王子様に映っているのだろう。そう思われていることも含めて、水蓮と彼女はよく似ている。この漫画の作者はかあの幼馴染だ。故に本当の恋人のことを知っているのだろう。そのことに少し不満を覚えてしまう。それを察した彼女は、くすくす笑いながら「おいで」と布団をぽんぽんと叩いた。

 素直に隣に行くと、彼女は私を抱き寄せる。


「んふふ。可愛い」


「……嬉しそうな顔しちゃって。……そういう憎たらしい顔は水蓮より美桜みおに似てるわね」


「あはは。美桜はモデルいないんだけどなぁ」


 漫画の連載が始まったのは私達が出会う前だ。美桜のモデルは誰でもない。しかし、彼女は美桜のことを私に似ていると言っていた。そうだろうかと頭に疑問符を浮かべる。


「あんなに素直ではないけど、割と君もストレートに物を言うタイプでしょ。出会った頃はともかく、今の君は美桜によく似てる。芯の強さとか」


「……自分では分からないわ」


「ふふ。でもやっぱり一番似てるのはももだよね」


 ももとのばらにもモデルが居る。ももが満ちゃんで、のばらが星野くん。


「ももはまんまよね…」


「あの子はあのままで充分キャラ立ってるからね。ちなみに、アニメがあるんだけど、のばらの声優は星野流美さんです」


「あら。そうなの?」


 星野流美という声優は、のばらのモデルとなった星野くんの姉だ。作者とも交流があり、作者自身が抜擢したらしい。


「もも役は碧木悠あおきゆうさん、水蓮役は城沢しろさわみさきさん、美桜役は早見小夜はやみさよさん、マリア役は中原舞香なかはらまいかさん、真里役は黒沢くろさわとも子さんだよ」


「…そんな声優の名前言われても分からないわ」


 私は普段アニメを見ない。有名な声優らしいが、誰一人としてわからない。


「碧木さんは今年一年女児向けアニメの主役やってる人だし、城沢さんも有名な怪盗アニメの紅一点とか、妖怪アニメの主人公とか、あとはナレーションでもよく声聞くね」


「女児向けアニメって……プリティア?」


「そう。<魔法王女プリンセスティアラ>」


「あのシリーズ、まだ続いていたのね」


 魔法王女プリンセスティアラというのは日曜朝に放送されている女児向けアニメで、私達が子供の頃から放送されている10年以上続く人気シリーズだ。小さい頃は私も見ていた。


「ちょっと前には流美さんも出てたんだよ」


「へぇ」


「"おじおじ"のアニメ録画してあるけど、見る?」


「見る。動いてる水蓮見たい」


「すっかり水蓮ヲタクじゃん。私と水蓮どっちが好き?」


 彼女の問いに対し「水蓮」と即答すると、彼女は「浮気者め」と拗ねるように唇を尖らせた。


「冗談よ」


 ベッドから降り、リモコンを取り出す。彼女がその隣に座る。彼女の前に移動し、彼女の股の間に座り、彼女を背もたれにして彼女の腕を自分の身体に回す。すると彼女は私の髪をかき分け、首筋に頭を埋めてスーハーと息を吸い始める。


「吸わないで。猫じゃないんだから」


「猫じゃん」


「猫は喋らい」


噛んだ。「やっぱ猫じゃん」と、彼女は私の首に頭を埋めたままくすくす笑う。


「もー!」


「ごめんごめん」


 文句を言いつつも、そのまま彼女を背もたれにしたままアニメ鑑賞を始める。

 美桜に揶揄われてたじたじになる水蓮を見て、彼女もこれくらい可愛げがあればいいのにと思ったが、口には出さなかった。どうせ言わなくても伝わっているだろう。

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