ピアスを開ける話

ドSスイッチ

 高校を卒業して、同棲を始めたばかりのある日。


「ただいまー」


「お帰りなさい。あら、何買ってきたの?」


 大学から帰って来た彼女はビニール袋を持っていた。ニコニコしながら中から取り出したのはピアッサー。

 彼女は以前から言っていた。高校を卒業したら片耳ずつお揃いのピアスをつけようと。


「ふふ。空けてくれる?」


「……言うと思った」


「自分じゃ綺麗にできる自信ないからさぁ」


「美容外科行けば良いのに」


「高くつくじゃん」


「私は行く」


「えー! やだ! 私以外に空けさせないでよ浮気者ぉ!」


「はぁ……もう。仕方ないわね。分かった。良いわよ」


「わーい。じゃあはい」


 専用のペンを受け取り、彼女の左耳の耳たぶに印をつけ、ピアッサーを手に取る。なんだか緊張してきた。手が震えてしまう。


「手めっちゃ震えてんじゃん」


「……やっぱり自分でやって」


「えー? いくじなし」


「うるさい」


「じゃあ、百合香の先に空けちゃおうか」


 そう言って彼女は私の左耳に触れる。


「左で良いよね?」


「良いけど……い、痛くしないでね……」


「ん。大丈夫」


 耳たぶにペン先が触れる。

 印をつけ終えたら、次は消毒。消毒を終えると、いよいよピアッサーを手にする。目を固く閉じると「いちいちエロい反応しないでよ。ムラムラしちゃうじゃん」と囁かれる。「うるさいエロ王子」と言い返そうとすると、言い切る前に耳たぶに鋭い痛みが走った。


「ひゃっ!」


 思わず甲高い声が漏れる。目を開けると、欲に濡れた彼女の瞳が私を捉える。今のは冗談ではなく本気だったらしい。


「今すぐいじめたいけど、君が私のを空けてくれるまでは我慢するね」


 私には「空け終わったらすぐに襲うね」と聞こえた。


「て、手元が狂うからそういうこと言わないでよ……」


「ふふ。思い切りやって。痛くして良いよ」


「あなたってほんと、ドSなのかドMなのか分からないわね」


「いいから早く。私、いつまでも待てる良い子じゃないよ?」


「分かったわよ。目閉じてて」


「はぁい」


 彼女が目を閉じる。高鳴る鼓動を抑えるために息を吐いて、消毒液を染み込ませたコットンで彼女の耳たぶを消毒して、ピアッサーを手に取り、彼女の耳たぶを挟む。目を閉じて思い切り閉じると、パチンという音と共に彼女が「んぅ……」と善がるような声を漏らした。


「あははっ。なんで君が目閉じてんの」


「だ、だって……ん……」


 目を開けると、彼女の顔が近づいて唇を奪われる。いつもより余裕の無いキスを繰り返され、心臓はもう破裂しそうなほど高鳴ってしまう。


「ピ、ピアスを空けただけでなんでそんなに興奮出来るのよ……」


「君の反応がエロすぎるのが悪い」


 そう言って彼女は私の右耳にキスをする。ピアスを空けたばかりだからか、左には触れない。それがなんだかもどかしくて、早くホールが安定してほしいと思ってしまう。


「ふふ……ちょっとやりづらいね。早くホール安定してほしいね」


「……変態」


「同じこと考えてたくせに」


「考えてない」


「えー?」


「考えてな——ひゃっ」


 体が宙に浮く。そのまま寝室に連れて行かれ、ベッドに降ろされ、彼女が上に乗る。

 その日はとことんいじめられた。ピアスを空けた時の私の反応が彼女のドSスイッチを刺激してしまったらしい。もう一個空けたいとねだられたが、もう二度とごめんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る