天使の妹である私がオギャっと生まれる少し前から今日までの話。と見せかけて大体お姉ちゃんの話

第1話

 四月二日生まれのお姉ちゃんは天使だった。高校の卒業式が終わったあと、お姉ちゃんは飛んでいってしまった。「またね」とだけ言って、空へと消えた。雲ひとつない青空だった。私が見た青空の中で一番キレイな青空だった。その青空にお姉ちゃんの金色の髪と真っ白な羽根とこれまた金色の輪っかとネイビーの制服とブラウンのローファーが消えていくのを私はただじっと見ていた。

 お姉ちゃんには生まれたときから背中に白い羽根が生えていて頭に金色の輪っかがあった。らしい。お母さんから聞いた。そのころ、私はまだこの世に誕生していないから見ていたわけじゃない。お父さんの精子でもお母さんの卵子でもなかった。完全に無。可能性の塊。無限に等しい存在だった。なんのこっちゃ。

 お母さんが言うにはエコーで羽根と輪っかが見えて、もうビビりまくって出産のときは帝王切開することに決めたとか。普通に産むの無理ってそりゃ誰が見てもわかる。痛みとともに母親として自覚が生まれるとかわけのわからないことを言われる時代だったみたいだけど、無理なものは無理。色々と引っかかりそう。天使が生まれたことで世界中大混乱ということも特になかった。私が知っている限り、天使はお姉ちゃんだけだけど、謎の組織に狙われたり、マスコミに付きまとわれたりなんてことも特になかった。多分神の力だと思う。私は神様を見たことがないから信じてないけど多分そうなんだと思う。

 結果として、お姉ちゃんもお母さんも元気いっぱい、母子ともに健康ですってやつで、もうお父さんもめちゃハッピー。泣いて泣いて泣き止んでまた泣いてたらしい。泣きすぎでしょ。でも、最初の子供が天使だったらそうなるのかも知れない。天使といっても羽根が生えていて、頭に輪っかがあって、両親ともそこら辺に転がっているジャパニーズなのに金髪碧眼で、顔はお父さんにもお母さんにも似てなくて、生まれたときから美人だったくらいで、あとは普通の赤ちゃんと同じだったらしい。お母さんのおっぱいを飲んで、お父さんに可愛がられて、首がすわって、夜泣きして、はいはいして、そろそろ大地に立つかってくらいで私がオギャっと生まれた。天使が生まれてもお父さんもお母さんもやることはやっていたわけだ。下品だけど、もう二人とも死んでるから別にいいでしょ。ガハハ。あとで謝りに行こう。

 というわけで四月一日に私は生まれた。普通に生まれた。羽根も輪っかもないし、髪も目も黒いし、顔はお父さん似だし、もうそこらへんにいる赤ん坊だった。変わったことが少しあるとしたらお姉ちゃんと年子だったことくらいだ。双子じゃないけど、私とお姉ちゃんは同じ学年で過ごすことになった。

 私が幼稚園に行くころには、もうお姉ちゃんは見た目同様中身も天使って感じだった。いつもニコニコしていて、みんなの中心にいた。滅多に怒らないし、子供特有のわがままも言わない。花が好きで、蝶々が好きで、歌も踊りも上手だった。それに比べて私は土が好きで、蟻が好きで、歌も踊りも下手くそだった。でもひとつ言わせてほしい。私とお姉ちゃんは年子だから同じクラスにいたわけだけど、私は実際問題としてお姉ちゃんとはほぼ一歳差がある。子供のころの一年の差は大きい。一年経つころには私もそれなり歌も踊りも出来ていた。ただ、お姉ちゃんとの差は広がっていたけれど。なんせお姉ちゃんはその頃には空を飛んでいた。空中ダンスに勝てる術はなかった。

 私はお姉ちゃんの金魚のフンみたいにいつも側にいた。みんな私のことはお姉ちゃんの妹だから仲良くしてくれた。と私は今でもそう思っている。だけど、やっぱり相手も子供。私が傷つくことを平気で言ってきたこともあった。

 やれ、「アカリちゃん(お姉ちゃんの名前)とツナグちゃん(私の名前)って顔全然違うー。アカリちゃんはとってもキレイなのにー」とか、「アカリちゃんとツナグちゃんは本当に姉妹なの?」とかそんな感じのやつ。めちゃくちゃ腹立った。ぶん殴ってやろうかと思った。でも、私は殴らなかった。だって、お姉ちゃんが私より先に殴ってたから。

「ツナグをいじめるな!」って。天使パンチが園児の顔面に炸裂していた。殴られた子は鼻血出して大泣きしてた。私は思った。お姉ちゃん大好きって。抱きついて、背中の羽根が柔らかくて、頭を撫でてもらって、私はとっても嬉しかった。中身も天使っていったけど、今思えば全然そんなことなかった。美化してた。こんな天使、普通はいない。というか天使自体普通はいないけど。ただ、私にとってお姉ちゃんは最高の天使だった。

 小学生になっても、やっぱり早生まれも早生まれ四月一日生まれは勉強も体育もやっぱり大変だった。お姉ちゃんとは別々のクラスになっちゃったから、頼れる人もいなくて、友達も出来なくて、休み時間にお姉ちゃんのクラスを覗いても、お姉ちゃんはいつもクラスの中心で、みんなに囲まれていて、頭の金色の輪っかよりお姉ちゃんが自身が光り輝いていた。話しかける勇気もなくて、いつもちょろっとお姉ちゃんの姿を見るだけ。でも、たまに、というかほぼっていうか、十回中八回くらいはお姉ちゃんは私を見つけてくれた。話の途中でも私のところに来てくれて、一緒にトイレに行ってくれて、私を笑顔にしてくれた。

 三年生くらいになるとだんだんと早生まれの遅れも少なくなってきた。それはお姉ちゃんが勉強を教えてくれたり、かけっこのコツを教えてくれたりしたおかげで、そのころになると私にも友達が出来て、休み時間にお姉ちゃんのクラスに行くことも減っていた。

 でも、学校に行くときも帰るときも帰ってからも私達はいつも一緒にいた。お姉ちゃんは見た目は天使だったけれど、別に天使らしいことはなにもしていなかった。そもそも天使がなにをするのか私達はほとんど知らなかった。知っていることといえば、冬の教会で行き倒れた子供と犬を天国に連れて行くことくらいだった。だから、私達は天使のことを天国へ連れて行く人だと思っていて、だけど、お姉ちゃんは天国なんて行ったことなくて、場所ももちろん知らなくて、だから連れて行くことも当然出来ない。お姉ちゃんが天使なのは見た目だけで、天国なんかには行かないし、誰も連れていかない。大体、天使とか言い出したのはお父さんとお母さんで、「じゃあ、私は?」と聞くと、「ツナグも天使だよ」と言ってくれた。そうお父さんとお母さんにとっては私だって天使だったのだ。だから、別にお姉ちゃんはただ羽根が生えていて、頭に輪っかがあって、ちょっと目立つ金髪碧眼スーパー美少女ってだけ。ただ、行き倒れた子供も犬も天使と一緒にいるときはとても幸せそうな顔をしていたのをよく覚えている。そうなるとやっぱりお姉ちゃんは天使ということになるのかもしれない。だって、私はいつもお姉ちゃんの隣で幸せだった。

 中学二年生くらいで私はお姉ちゃんの背を抜いた。お姉ちゃんは「飛べば身長なんて関係ないし」と悔しそうな顔で言っていた。お姉ちゃんは小学六年生のころから身長が伸びなくなった。それどころか身体つきも幼いままで、おっぱいも大きくならないし、初潮もまだ来ていなかった。

 だけど、お姉ちゃんは変わらずお姉ちゃんで勉強も運動も出来た。私もいつもお姉ちゃんより下。勝っているのは身長と体重だけだった。体重は別に勝ちたくはなかった。でも、他のことでは勝ちたかった。勝ちたくなっていた。別に私の力でもなんでもないけれど身長で勝ってしまったから、他のことでも勝ちたくなった。英語でも数学でも現代文でも古文でも理科でも社会でも体育でも保健でも料理でもなんでもいいからお姉ちゃんに身長以外で勝ちたかった。だけど、勝てなかった。ひとつも勝てなかった。めちゃくちゃ勉強したし、筋トレしたし、練習したけど、全部無駄だった。お姉ちゃんには勝てない。バレンタインに頑張って私がチョコレート作っている横で、悠々とマカロンを焼き上げるお姉ちゃんに勝てるわけがなかった。ちなみにマカロンは私宛だった。お母さんとお父さんも食べたけど。お姉ちゃんは完璧すぎる。だからこそ私はお姉ちゃんが羨ましくなっていた。そんな自分が嫌いになった。お姉ちゃんは変わらず優しくて可愛くて、私もお姉ちゃんは大好きだったけれど、羨ましいとどうしても思ってしまっていた。お姉ちゃんに直接、「お姉ちゃんばっかりずるい!」って言ったこともあった。お姉ちゃんは「ま、お姉ちゃんだからね」と嬉しそうに笑った。むかついた。だから、「お姉ちゃんなんて嫌い!」って言ってしまった。そう言われたお姉ちゃんはなにも言わなかった。だけど、とても悲しそうな顔をしていた。それを見て、私は二度とお姉ちゃんに嫌いとは言わなくなった。だって、お姉ちゃんのこと嫌いじゃなかったから。ただ、羨ましかっただけ。

 高校に入ると私にもお姉ちゃんに勝てるものが出来た。お姉ちゃんは高校に入ってからしばらくすると朝に弱くなった。中々起きてこない。だから、早起きでは私はお姉ちゃんに勝った。朝だけじゃなくて、授業中もよく居眠りをしていたし、夜寝るのも早くなった。本当によく寝るなあと私は呆れていた。今思えばあれは前触れだったのかも知れない。パワーを貯めている的なやつだったのかも知れない。

 私はお姉ちゃんを起こす係になって、毎朝お姉ちゃんを起こしていた。羽根があるからいつもうつ伏せで枕に顔をうずめて寝ているお姉ちゃんをベッドから引きずり出す。身体の大きさは十二歳のころのままだから、わりかし簡単だ。その頃には私の身長もかなり伸びていて、力もだいぶついていた。だけど、腕相撲ではお姉ちゃんのほうが強かった。天使パワーとしか思えない。やっぱりずるい。ずるずるとお姉ちゃんを引っ張って、洗面所で顔を洗わして、台所で朝ごはんを食べるように急かし、お姉ちゃんがパンを齧っている間に羽根のブラッシングして、髪をセットしてあげる。

 シルクみたいな金色の髪をブラシでとかす。ごわごわ黒髪の私とは大違い。柔らかくて、同じシャンプー使っているはずなのに、私のとは違ういい匂いがした。パンを食べながら三編みにしてーとか編み込みにしてーとか注文をつけてくるお姉ちゃんにはいはいと答えながら、私は言われたとおりに髪をセットしていく。

 このころの私はお姉ちゃんの保護者気取りだった。勉強も運動もやっぱりお姉ちゃんには勝てなかったし、羨ましいと思うこともやっぱり結構あったけど、身体の大きさは勝っていたし、朝お姉ちゃんの世話をしていたし、はたから見ればどう見ても私のほうがお姉ちゃんだし。と言っても私とお姉ちゃんが並んで歩いて姉妹だと思われたことは一度もないけれど。だって、見た目が違いすぎる。お姉ちゃんは十二歳の文字通りの天使で、私は図体ばかりが無駄にでかい女子高生。はたから見て関係性を読み解くのは不可能だろう。最悪、通報されることもあった。でも、別によかった。私はお姉ちゃんの妹でちょっとした保護者で、それなりに一緒にいれればそれで満足だった。だけど、お姉ちゃんは違ったらしい。だから、お姉ちゃんは私と一緒に高校の卒業式に出たあと、空へと消えた。飛んでった。またねとだけ言って。なにがまたねだ。またっていつだ。許せない。許せなさすぎて私は泣いた。泣いて泣いてずっと泣いた。

 一年は泣いた。私はすっかり抜け殻になっていた。空っぽ。私にはなにもなくなった。お姉ちゃんと一緒に合格した大学には行かなかった。だって、お姉ちゃんがいない大学に行く意味がわからなかった。まずお姉ちゃんがいなくなった意味がわからなかった。なんでどうしてお姉ちゃんは飛んでいってしまったのか。考えられるのはお姉ちゃんが天使だからだ。それしかない。だって、普通の人には羽根がないから飛んでいくなんてことは出来ない。お姉ちゃんはやっぱり天使だったのだ。ひょっとしたら飛んで天国に行ったのかも知れない。死んだとは思えなかった。お姉ちゃんが死ぬはずがないと私は信じて疑わなかった。天使だから生きたまま天国にだって行けるだろう。思うにお姉ちゃんにこの世界は狭すぎたのだ。鳥かごみたいなものだったのだ。だから、お姉ちゃんは羽ばたいていった。卒業式でも、今日、私達は巣立ちのときを迎えますだとか、未来に向かって羽ばたくだとなんとか言っていた。つまりそういうことだ。お姉ちゃんは文字通り羽ばたいて巣立っていったのだ。でも、どこへ? わからない。なんでいきなり? それもわからない。でも、まあいい。お姉ちゃんは天使で、天国に行ったのならやることは多分ひとつだ。少年と犬を天国に連れて行く。それが天使だ。

 私は泣き止んで、勉強をして、医学部に入った。医者になろうと思った。医者が一番人が死ぬ瞬間に立ち会えると思ったから。葬儀屋だと死んだ後だし、獣医だと犬以外も診ることになるし、人ばっかりを診る医者が一番だと結論づけた。だけど、医者にはならなかった。人の死に目に立ち会いたいからという理由でなれるものではなかった。知識も技術もそれなりに身につけたつもりだったけれど、最後の一歩がどうしても踏み出せなかった。お姉ちゃんには会いたい。だけど、人の死を望む私にお姉ちゃんが会いに来てくれるとも思えなかった。というか、普通に考えて、人の死に目に立ち会いたいから医者になるって完全にサイコパス。さすがの私もそれは無理だっただけの話。だから、医者になるのは辞めて、普通の会社に就職した。

 ただ、実家を出て一人暮らしをする家は病院の近くにした。有名な小児科がある病院。子供がたくさん死んでいく場所。窓からその病院がよく見える部屋に決めた。いつかその病院にお姉ちゃんが降り立つかも知れないと暇さえあれば窓から病院を見ていた。

 その病院は高台に建っていて、ちょっとした林に囲まれていた。窓からその病院を見ると、病院と木々と空だけ見えた。卒業式の日のような雲ひとつない青空のときと、子供が行き倒れそうな大雪の日は出来るだけその病院を見ていた。だけど、一度もその病院に天使が舞い降りることはなかった。舞い降りるのを見たことも、舞い降りたと聞いたことも、子供と犬が行き倒れたという話も聞かなかった。

 病院の医者や看護師に直接聞いたから本当に舞い降りたことはないはずだ。そのことを聞いたときの医者や看護師の哀れみの視線が忘れられない。誰もお姉ちゃんのことを知らない。だから天使なんて言ったら笑われるか、頭がおかしくなったと思われるだけだ。別に聞き込みにわざわざ病院に行ったわけではない。私がこの病院で出産するときに聞いただけ。この病院には産科もある。私だってずっとお姉ちゃんを待っているだけじゃない、人並みに仕事をして、出会いがあって、恋をして、結婚をして、子供を生んだ。女の子だった。私に似たごわごわの黒髪で、どこかお父さんの面影がある顔だけど天使だった。羽根も輪っかもないけど天使だ。

 病室で娘を抱いて、窓から見た空はお姉ちゃんがいなくなった日とそっくりの雲ひとつない青空だった。

 娘が私にとって二人目の天使。お姉ちゃんもどこかで見守ってくれている。今はそれでいい。なんてことは当然なくて、娘は可愛い。愛している。だけど、それはそれ。お姉ちゃんには会いたい。娘かお姉ちゃんの二択なんてことにはならない。

 でも、お姉ちゃんに会うためになにをしたらいいのかわからない。どこに行けばいいのかもわからない。ただ空を見上げてはお姉ちゃんを探すだけ。雲ひとつない青空の日も、曇りの日も雨の日も。やっぱり大雪の日は期待してしまう。子供と犬が行き倒れになってほしくはないけれど、やっぱり天使が降臨するのは私の中では大雪の日だ。でも、私はあの話、大雪の日に教会かどっかで子供と犬が行き倒れて、そこに天使がやってきて子供と犬を天国に連れて行くってことしか知らない。あのふたりはあそこでなにをしていたのだろうか。今となっては別にどうでもいいけれど。でも、私にとって天使はいまだにあのシーンで、結局私は天使がなにかをよく知らない。というか天使とはお姉ちゃんであって、それ以上の天使なんていない。私をいじめる同級生を殴って、一緒に休み時間にトイレに行ってくれて、マカロン作ってくれて、朝に弱くて、私に嫌いと言われたらめちゃくちゃ傷ついちゃうのが私の天使だ。そんな天使。この世に過去未来現在ひっくるめたって他にいるわけがない。

 それに娘はやっぱり天使じゃなかった。髪はごわごわだし、羽根も輪っかもないし、それにお姉ちゃんみたいに突然どこかに消えたりもしなかった。お姉ちゃんと同じように巣立つときが来ても、それは突然ではなくて、ちゃんと親として送り出した。お姉ちゃんが飛んでいったとき同じくらい泣いたけど、だけど泣き止んだあと私は空っぽにはならなかった。泣きながらも充実感に満たされていた。だから、娘は天使じゃない。

 天使じゃないから、今私の側で涙を浮かべて私を見てくれている。「お母さん」と言いながら私の手を握ってくれる。隣には孫が居て、「お婆ちゃん」と呼びかけてくれる。私がお婆ちゃんか。笑っちゃう。気持ちだけ若返ったみたい。もう死ぬっていうのに笑えるなんて。あの行き倒れた子供と犬もこんな気持ちだったのかも知れない。いや、あのふたりは死んだあとか。じゃあ違うな。これは私だけの幸せってやつだ。

「おまたせ」

 または今だったらしい。

「遅い」

 自然と口から出た。

「ごめんね」

 お姉ちゃんは謝ってはいるけれど、笑顔だ。

 不思議と驚きはなかった。娘も孫も消えて、光の中、お姉ちゃんがひとり。あの日と同じ金色の髪に真っ白な羽根にこれまた金色の輪っかにネイビーの制服にブラウンのローファーなお姉ちゃん。

「ねえ」

「空がびっくりするくらいキレイだったから、勢いで」

 私が聞くより先にお姉ちゃんが答える。

「そっか」

「うん。それにさ。やっぱり私は天使だったみたいで、だからこういう役回りなんだって」

「誰が言ってたの?」

「神様。あ、ツナグは神様信じてないんだっけ」

「今信じた」

 神様はまだ見たことないけれど、お姉ちゃんがいるっていうんだから、神様はいるのだろう。

「なにそれ」

 お姉ちゃんは私の手を握り、「そろそろ行こっか」と言い、ゆっくりと羽根を羽ばたかせる。お姉ちゃんがふわりと浮かんだのに続いて、私もゆっくりと浮かんでいく。空を飛ぶってこういう感じなのか。これは、うん。天気が良ければ飛んで行きたくもなる。

「ツナグの手、しわしわ」

「お姉ちゃんのはつるつる。ずるい」

 お姉ちゃんのほうが一歳も年上のはずなのに。

「ま、お姉ちゃんだからね」

 そう言って、お姉ちゃんは嬉しそうに笑った。でも、お姉ちゃんなのは関係ないでしょ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使の妹である私がオギャっと生まれる少し前から今日までの話。と見せかけて大体お姉ちゃんの話 @imo012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ