第2話 ファーストコンタクト

 目覚めた時、人は何を見るだろうか。

 天井か、はたまた天井か。

 大体の人は天井を見るだろう。


 しかし現在ユウトは道に立っていた。

 勿論人の邪魔にならない隅の方に。


 天井どころか空すら見えない。

 見えるは木組みの家と石畳で作られた道、そしてその上を歩いている人だった。


 目の高さは死ぬ前の18歳のユウトと、さほど変わらない。

 つまりそのまま来たのだろう。


 人の顔立ちは東洋の日本人よりである。

 しかし、名前はそうでは無かった。


 名前は―――。


「……名前!? ぇ―――」


 自分の目をこする。

 そしてもう一度確認する。

 だが結果は同じ。

 ユウトの目には、人の頭上に名前が見えていた。


 そう。

 それは紛れもなくユウトの『能力』。


「なんて事だ……。つまりこれが能力ってやつか……。使い方もその内容も前から知っていたような気分だ……」


 その気分を一言で表現すなら『気持ち悪い』が妥当だ。


 それは腕を使って物を持ち上げるように、目で対象の大きさを判別できるように、何気ない日常の動作と変わらない。

 まさに体に馴染んでいる。


 もちろん神によって押し付けられたそれは、名前の通り雑魚能力だった。

 最弱と言ってもいい。


「……けど人の名前見るのってけっこう楽しいものなんだな。一日中これで潰せそうだ」


 そう言った所で潰す気はない。


 通行人を見て、見て、見続けて、丁度10人を見きった時、電撃に似た衝撃が頭の中に響く。

 それと同時に一つの『記憶』が現れる。

 脳内に無かった記憶。

 それはこの最弱の能力についてのものだった。


「『能力の名前が見える』? なんだ? 頭にその単語が……、じゃなくて記憶?」


 それが今、ユウトの頭の中に加わった能力ついての『記憶』だった。


 記憶が加わるなんて馬鹿げた言い方なのはユウト自身承知の上だった。

 だがその言葉が一番しっくりくると思う。

 表現するのが難しくらい奇妙な現象である。


「一応使ってみるか……」

 

 名前を見た時と同様に使い方も知っていた。

 先まで無かったのに『知っていた』と断言できるような感覚。


 その力をユウトは使った。


「なるほどな……」


 一言でいうと、全ての人に能力は存在しなかった。

 道を歩いている人の中にも一人しか能力持ちは存在しなかった。


 そうなると能力者は珍しい方になるのだろう。


「―――てか突然だったから気にしてなかったけど……。普通に道に立ってるのっておかしいだろ……」


 道と言っても人の通行の邪魔にならない場所だった。

 しかしおかしいのは変わらない。


 そもそもこの訳もわからない所に立っていて、訳もわからない力を使って、訳もわからないことを考えていること自体が普通ではない。

 故に何が普通で、何が普通じゃないのかすら分からなくなる。


「考えても無駄だ……。とにかくこういう時は宿を―――」


 その場から歩き出そうとした瞬間だった。

 後ろから気配がしたと思えば、肩を掴まれていた。


 突然だった為、恐る恐るそちらの方に目を向ける。

 すると、一人の薄い金髪で鮮やかな碧眼のした少女が、その美を台無しにする程の鬼の形相でこちらを睨んでいた。


「あのー。さっきから居るんですけど?」


 異世界に来てのファーストコンタクトのその声は怒り混じりの低く恐ろしい声だった。

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