最弱能力者による異世界ライフ!

檸檬

第一章 ギルド編

第1話 押し付け最弱能力者

 目覚めた時、人は何を見るだろうか。

 天井か、はたまた天井か。

 大体の人は天井を見るだろう。


 しかし現在、つまりこの空間にまだ時間という概念が存在していると思っているユウトは、空と思われる景色を見ていた。


「―――? 何処だ? ここ……」


 半開きの目を擦りながら体を起こす。

 ユウトから見て空と思われる方は青く、地面は鏡のように上の青を映している。


 ユウトがその地面に触れるとそこから波紋が広がるが、水がある訳ではなかった。


「うっ……うぉ……うぉぉおおお!!! 鳥居! と……惑星?」


 目線を正面に向けるユウトが目にしたのは、まさに絵に描いたような神秘的な光景だった。

 青い空や鏡の地面も神秘的と言えるものであったが、やはり絶景は遠くのものに限る。


 思わずユウトも空いた口が塞がらない状態になってしまった。


「一体全体何がどうなってるんだ? 空は果てしなく青い。地面も同様。ずっと奥には複数の鳥居とまたその奥に謎の惑星……。そしてこの頭の冴え方……」


 視覚と触覚から得た情報を脳へ伝達して解析するに、この空間は現実ではない現実で、夢ではない夢であるという考えに至った。

 なんとも矛盾した考えである。


「訳がわからん!」


 矛盾した推理にため息をつくしかないお手上げ状態。

 出てきた言葉は誰に対してか、響きもしなければその音が留まる事も無い。

 いつもと変わらないのが不思議のように思える。


「駄目だぁー。そもそもなんでここに居るのかが分からん……」


「何故って……、死んだからに決まってるでしょう」


「あぁなるほどなるほど……死んだから…ね……。ぁ―――、死んだ!?」


 最初に自分の体を見る。

 傷一つ無い健康的な体。

 痛みも違和感も無い。


「いや、全然ピンピンしてる……。ってその前に誰だ!!」


 体の無事を確認した後、遅れて声がした後ろを振り向き身構える。


 声からしてそれは女性。

 身構える必要は無いと思えるが、この不思議な空間に居るため、ユウトの警戒心はいつもにまして強くなっていた。


「って本当に誰だ? 顔が見えない……」


 そんな不可思議な事は普通起こらない筈である。

 しかしいくら目を擦ろうともその容姿を目視する事は出来ない。

 見る事が出来るのは、顔以外の全て。

 服装は白服。

 体付きはやはり女性。

 程よく大きい胸が、それを象徴していた。


 つまり顔だけが見えない。

 いや、その掴み所のない圧から感じるに目視する事を許されていないようにも思える。


「貴方は死にました。一人の女性を助けて」


「―――! そうか……。なるほどな……」


 女性の一言でようやくここへ来る前の出来事を思い出す。

 他人からの一言だけで死んだ事を信用する事は不可能と思えたが、『一人の女性を助けて』という言葉がユウトに死を決定づけた。


「一応分かった。つまり俺は死んでここに居るって訳だな。クソッ……、人助けで死ぬとか俺らしくない。それにつまらん人生だった。もっと楽しんどけばな……」


「何も悔いる事はないじゃないですか。人助けで死ぬ事は貴方達人間でいう所のかっこいいに属するのでは? 私個人の意見としては悪い行動で無かったと思いますよ?」


「……まぁ、確かにそうかもしれない。っところで誰だ? 普通に話してたけどここは何処だ?」


「分かっているんじゃないんですか? 私が神でここが人間でいう所の天国であると」


 やはりそうかとため息をつく。

 夢のような現実に顔が見れない女性。

 おまけに死を告げられる。

 全てが合致していた。


「ところで俺が助けたアイツは? 無事だったか?」


「ええ、無事ですよ。それも100年前の話しですが」


「良かった無事だったか……。ぁ―――? 100!? 100年って、えぇ!? 死んだら直ぐここに来るんじゃないの? ってか、だったらこの体は何?」


 衝撃の事を伝えられテンパるユウト。

 腕をつねってみると驚く事に、普通に痛みを感じた。


「典型的な固定概念ですね。死んだら直ぐ来るとは決まってません。それに貴方のその体は魂で出来た物です。つまり貴方がかけてるその眼鏡も服も魂が記憶したもの。良かったですね、魂が記憶していて。もし魂が忘れていたら貴方は全裸になっていたところです」


「なるほど、それは良かった」


 右手で眼鏡を確認し、左手で上着を確認する。

 着ていたのは死んだ直前に着ていた服とは別の『勝利』の2文字が書かれたTシャツだった。

 魂が記憶していたとはこういう事か、と分かる。


 神様が言っていた殆どは理解が追い付けない次元にある。

 だが大雑把に言うとここに体があるのは魂が形成しているから、という事。


「結局のところ全容が把握出来ない。俺は何をしろと? もしくはこのまま何もせずに来世へ?」


「安心してください。行く所は決まってます。異世界です」


「は?」


「その異世界は能力という特別な力があります。例えば、『無限魔力』『時間停止』人の体を直す、なんて能力もあります。貴方にはその世界で最も弱いとされている『目が良くなる能力』を与えます。それでは―――」


「―――待て待て! 話が急展開過ぎる! 俺はまだ行くって言ってない、その異世界とやらに! それになんだ特別な能力で最も弱い『目が良くなる能力』って! もっといい能力を―――」


 ―――くれ。

 

 と最後の言葉を言い終わる前にユウトの口は閉じる。

 それは前からくる気持ちが悪い圧によって、体が、いや魂が硬直した証であった。


「人間に……、決定権はない。人間に……、拒否権はない。行くか行かないか、能力を変えるか変えないかを決めるのは貴様では無い。貴様は生を受ける時も、失う時も全て自分で決定出来ない。故に貴様にはなんの権利も存在しない。これを持ちさっさと行け」


 時計のような何かを投げつけられたユウトは一言も発する事が出来なかった。

 あまりにも理不尽極まりなく、自分勝手な考えに出す言葉すら見つからない状態。

 神の顔が隠れている事が唯一の助けであった。


 前から来る緊張の圧に、立つことさえ不可能になる。

 まさに体が鉛のようになった気分。

 幾ら踏ん張った所で、変わらぬ現状。


「ぐぬぬ……。―――うわぁッ!」


 鏡が割れるような音と共に、目の前の圧によって、ユウトの周りの地面は粉砕する。

 地面の裏側は暗黒。

 美しく健在する空とは真逆の空間。


「なんだこれ!? 俺は一体―――……。どうなるんだ!!」


 その暗黒に引っ張られる様に、ユウトは抵抗事が出来ず、奈落へ落ちていった。


 ユウトの体に秘められた力は『目が良くなる能力』。

 神曰く、最弱能力。


 ―――押し付けられた最弱能力だ。

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