第46話 特訓

「今日も初級魔法の練習よ」


「いやだ!」


 俺がシズと共に魔法の特訓を始めてから二週間が経っていた。その間様々なクエストを受けながら、空いた時間に町の外にある草原でシズに魔法を教えてもらっているのだが……


「いやだじゃない! さっさとやる!」


「い、や、だ! もう二週間ずっと初級魔法ばっかり練習してるけど、全く進歩しないじゃないか」


「センスない。やらないなら寝る」


 俺もここまで苦戦するとは思わなかった。あれだけ自在に魔法を使うシズに教われば、きっと俺の魔法も使いやすくなると思っていたのだが……


「分かったから寝るな。ウォーター!」


 初級魔法のウォーター。目の前に水を作り出す魔法である。ちなみな旅の時などでは飲み水や洗濯に使える便利な魔法だ。しかし俺が使うと……


「だれも雨を降らせてなんて言ってない」


 俺達の眼前には豪雨が降ったかのように地面を濡らしている光景が広がっていた。


「俺だって、イメージしたのはコップ一杯ぐらいの水なんだよ」


 そう。魔法にはイメージが大事。それは学校でも学んだことだ。しかしなぜか俺がいくらコップ一杯の水をイメージしてもスプーン一杯の水をイメージしても結果は同じなのだ。それにシズにも原因はあると思う……


「だから、ウォーターはポヨンとしたのをフワッてすればいい」


 これなのだ……ファイアの時はゴーをブワッってすればいいとか言ってたな……


「だから、その説明が分からないんだよ。よくそれで教えようとか思ったな」


 シズがムスっとした顔をする。この二週間で進歩したことといえば、シズと普通によく話せるようになったことだけかもしれない。アイスライト杯まであと十日余りだ。正直まずいし焦っている。


「諦めなさい、シズ。レインはバカだから仕方なのよ。アイスライト杯は私とシズで頑張りましょう」


 暇そうに、座って木の枝を使って地面になりやら絵を描いているクレアが話しかけてきた。


「バカじゃない。俺はいたって普通だ」


「ウォーター」


 いきなりクレアが立ちあがり、手を前に差し出して魔法を唱えた。すると鍋一杯程の水の玉が現われて、地面に落ちた。


「ク、クレアが魔法を……」


「ふふふ、私もシズに教わっていたのよ。魔法でも私に負けたら、レインが私に勝てることなんて無くなっちゃうわね」


 勝ち誇ったような顔をして、いつものように腕を組んで仁王立ちしていたが、急に力が抜けたようにその場に座り込んだ。顔色も悪いような気がする。俺はクレアの下に駆け寄る。


「どうした! 体調悪いのか」


「大丈夫……少し休めば……」


「これ食べて。苦いけど我慢して」


 シズが葉っぱのような物を取り出して、クレアに差し出す。それをクレアは疑うことなく口に放り込み顔をしかめながら飲み込んだ。すると青ざめていた表情に血色が戻ってきた。


「助かったわ。ありがとう、シズ」


「今の葉っぱは何?」


「魔力を少しだけ回復させてくれる薬。レインにいい所見せたいからって無理しすぎ」


「え? クレアあれ一発で魔力無くなったの?」


「ふ、二人とも、う、うるさい」


 クレアは若干顔を赤くして、顔を逸らす。でも以前のクレアだったら初級魔法でも満足に使えなかったはずだ。それなのに魔力切れを起こしたものの、普通に魔法を使ってみせた。やっぱり俺に原因があるのか……


「あんたはいいわよね。魔力切れなんて起こしたことないでしょ。前にマンティコア倒したときも、まだまだ余裕そうだったし。ほんと辛いんだから」


「確かに魔力切れなんてないな。むしろ魔法を使って疲れたことがない」


「えっ!」


 シズが急にいつも出さないような大きな声で驚きの声を上げた。まぁ、それで普通の人より小さい声だが。


「急にどうした?」


「ほんとに疲れない? 全く?」


「あぁ。たぶんウォーター百回ぐらい使っても大丈夫だと思う。まぁ、めんどくさいからやらないけど」


 実際そんなに魔法を使ったことはないが、前にクレアが入院中に魔法の特訓をしていたときは中級以上の様々な魔法を打ちまくっていた。それでもクレアのように体調を悪くすることもなかったし、疲れることもなかった。


「まさか……レインって……」


 シズは右手を顎に当てて何やら考え込んでいる。少しすると顎から手を放し、真剣な表情でまっすぐ俺を見つめる。


「スピリッツマスター……なの?」

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