第31話 新しい魔法

 馬車を借りて、ベラシーの森へ向かっている。正直座り心地は悪く、相当揺れる。もっと金を払えば座り心地も良く、広い馬車を借りれたのだが何度も言うように俺達にはお金が無い。この馬車代を払った事でもはや宿代すらないのだ。絶対にこのクエストは失敗できない。失敗すれば今日は野宿になってしまう。俺はともかく女性二人をそんな目に合わせるわけにはいかない。


 でかい石にのり上げたのかまた激しく馬車が揺れた。固い座席によりお尻がどんどん痛くなる。俺はまだ我慢できるが、クレアを見ると、険しい表情をしている。それも時間が経つにつれどんどん険しさが増している気がする。暴れたりしないだろうな……


 エミリーはというと、特に表情も変えずに外を見ている。さすが落ち着いているな。大人の女性って感じがする。それに比べてこいつは……再びクレアを見る。あっ、そろそろ限界だな。


「あぁぁぁぁ、もう限界! お尻が痛いわ!」


 クレアが勢いよく立ち上がる。


「あっ、やばっ」


 ガンッ!


 クレアは屋根に頭をぶつけた。こんな狭い中で立つからだよ。相当痛かったのか、頭を押さえてプルプル震えている。


「ちょっとぉ、壊さないでくださいよ。壊したら弁償ですからね」


 馬車を引いている男が心配している。


「ごめんなさい!」


 未だに頭を押さえているクレアに代わって俺が謝る。なんで俺が……


 全くしょうがないなぁ。俺は自分のマントを脱いで、四角に折りたたみ、それをクレアに差し出す。


「これで少しはマシになるだろ。クッションがわりに使えよ」


 クレアはマントをジッと見つめると、ゆっくりと手を伸ばして受け取った。


「あ、ありがとう」


 クレアは感情のはっきりとしない、複雑そうな表情で礼を言った。


 それからベラシーの森まで一時間程の時間を有したが、その間クレアが騒ぐことはなかった。あのマントはほんと気休めにしかならないだろうに我慢してくれたのかな。


 まぁマントを外して、一枚薄くなった俺はさらに痛みに我慢しなくてはいけなくなったのだが。腫れたりしてないだろうな。


 馬車が突然止った。


「さぁ、着きましたよ。私はここで待たせてもらいますので」


 馬車を降りると、そこには小さな小屋が三軒ほど並んでいた。クエストがよく依頼されるダンジョンや森林などの近くには、どこにもこういった場所が作られているらしい。主に御者がハンターを待つ間に泊まる宿や、道具屋がある。ベラシーの森は比較的平和なので規模は小さいが、魔物がよく現れるダンジョンの近くには町ができることもあるようだ。


「これ、返す」


 クレアはそう言って俺にマントを差し出す。受け取ると、マントはまだ生暖かいままだった。このマントにクレアのお尻が……なぜか俺が恥ずかしい気持ちでいたたまれなくなった。


「何じっと見てるのよ。変なこと考えないで、早く着なさいよ。この変態!」


「ば、ばか。変なことなんて考えてないよ」


「ふん、どうかしらね。怪しいわ」


 そう言うクレアも恥ずかしいのか、顔から湯気が出そうなほど真っ赤だ。俺は慌てて、マントを羽織った。


「まったく、羨ましいわねぇ。私もいちゃいちゃする相手が欲しいわ」


「いちゃいちゃなんてしてないわよ! 誰がこんな奴と!」


 エミリーをクレアは全力で否定する。そんな強く言わなくても……


「はい、はい、わかったわ。じゃあそろそろ行きましょう。暗くなる前に倒すわよ」


 ベラシーの森は特に何の特徴もない場所だ。多くの木々が立ち並び、様々な草花が生い茂っている。道とも言えない道を歩いてゴブリンを探す。しかしこんな広い森で小さな魔物など見つけることができるのだろうか。闇雲に探すのならば、相当運が良くないといくら時間があっても足りないのではないか……俺が不安なまま歩いているとエミリーが急に立ち止まった。


「いたわ。慎重に進むわよ」


 え? エミリーが見つめる方向を凝視するが何も見えない。クレアも怪訝そうな顔をしている。


 たまらずエミリーに尋ねる。


「あのぉ、エミリー。俺には何も見えないんだけど……」


「えっ、私もまだ見えないけど」


「でもさっきいたわって……ゴブリンが見えたんじゃないの?」


 俺が疑問を投げかけると、手のひらでおでこを押さえてあちゃーと言っている。


「そうよね、一年目ではまだ教わってないか。まぁいいわ、今から教えてあげる。たぶんレインなら簡単よ」


 エミリーは魔物を見つける魔法を教えてれた。魔物は必ず魔力を有しているので、その魔力を察知するというものだ。空気中にある水分や地面、風などを利用して魔力を察知するらしいが、考えた人天才だな。


【サスペクト】


 効果:魔力を持つ者を察知することができる。術者の魔力に索敵範囲は比例する。


 早速、使ってみることにした。


「サスペクト!」


 おぉ、たしかに感じる。近くに感じるのは、エミリーとクレアだな。このまま真っ直ぐ進んだ所に四つの魔力も感じる。これがゴブリンだな。なんとなくだが人なのか魔物なのか分かるし、魔力の質というか強さも分かる気がする。今察知している六つの魔力ではエミリーが断トツで強い。最下位はクレアだな。ゴブリンより魔力がないなんて、ほんと魔法の才能ないな……


 クレアもサスペクトの魔法を使っていたが、俺とエミリーの魔力しか察知できなかったなかったらしい。

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