第25話 これからの道

「残念だけどレイン君、あなたは退学です」


 太っており、丸い眼鏡をかけた中年の女性。この学校の校長にそう告げられた。一応それなりに偉い貴族らしい。


 俺とクレアは校長室に呼ばれていた。呼ばれた理由も分かっていたし、何を言われるかも予想できたので驚きや落胆というものは少なかった。しかしクレアは納得がいってないようだ。


「何故ですか! レインは襲われた私を守ってくれただけなんですよ」


「それは分かっています。彼らにも相応の罰を受けてもらうつもりです。しかしレイン君にはきつく言っておいたはずです。問題を起こすと退学だと。さすがに貴族の子供達を半殺しにしてしまうのはやりすぎです。この学校も国や貴族達からの献金で成り立っているのです。察してください」


「だからっておかしいわよ。絶対認めないんだから」


 校長の座っている机を掌で叩き、抗議している。


「クレアさん、あなたはもう貴族ではないのよ。ただの庶民のあなたが認めなくても結果は何も変わらないわ。これ以上口答えするようならあなたも退学にするわよ」


 や、やばい! ブチンとクレアがキレる音がした気がした。


「落ち着けクレア」


 俺の静止は間に合わず、クレアは再び机に掌でなく拳を振り下ろした。激しい音と共に机が二つに割れ、校長は怯えて椅子から転げ落ち、床に尻餅をついていた。


「上等よ! こんな学校こっちから止めてやるわ!」


 クレアは激昂して目を吊り上げている。


「おいクレア、落ち着けよ。謝るんだ、まだ間に合う」


「だれが謝るもんですか! それに豚相手に何を話しても意味ないでしょ」


 あぁ、もう駄目だ……貴族に向かって豚っていちゃったよ。


 豚は蹄をクレアに向けて、あっ間違った。


 校長は尻餅をついたまま、震えた指でクレアを差して退学を言いわたした。


「ふん、上等よ。いくわよ、レイン。こんな学校はやく出ましょう」


 怒りが収まってないまま、クレアは校長室の扉を開けた。俺も後をついていく。


 正門に近づくと、グラッド、トール、リリーが立っているのが見えた。


 三人が俺達に気づくと、走って俺達の元に向かってきた。リリーだけが走るのが遅く少し遅れている。


「おい、どうなったんだ? まさか退学ってわけじゃないよな? 停学で済んだんだよな?」


 グラッドが落ち着かない様子で尋ねてくる。トールやリリーは二人とも不安な表情を浮かべている。


「ごめん。二人とも退学になっちゃった」


 俺は心配させまいとできるだけ明るく答えた。


「なっ……」


 退学と聞いた三人は驚きのあまり言葉が出てこないといった感じだ。


「ふん、あの豚が悪いのよ! 人の言葉が通じないんだわ、きっと」


 クレアの怒りはまだ収まっていないようだ。


 俺は退学になった経緯を説明した。


「……納得いかねぇ」


 グラッドは解せないといった様子で、他の二人も同じような感じだった。


「よし、俺が今から抗議してやる。ちょっと待ってろ」


「俺も行くよ」


「わ、わたしも……いく」


 俺はいい友人を持ったようだ。貴族なのに、庶民の俺に本当によくしてくれる。だからこそ、この三人を俺達と同じようにしてはいけない。


「ありがとう、でも大丈夫だ。お前達まで巻き込ませるわけにはいかないよ」


「そうよ。学校に頼らなくても、私はきっと貴族に戻ってみせるんだから。あんた達も私に抜かれないようにこの学校で必死に学びなさい」


 クレアは足を広げて立ちグラッド達を指差している。


「はは、貴族でもないくせになんで一番偉そうなんだよ」


「でもそれでこそクレアさんだよね」


「うん……それに学校を辞めても私たちは友達……」


 俺達はいつのまにか笑い合っていた。


「じゃあそそろそろ行くよ。今後のことも考えないとだし」


「そうか、寂しくなるな。何か困ったことがあったら言ってこい。絶対力になるからな」


 グラッドだけでなく、トールやリリーも同じような事を言ってくれた。


「分かった。みんなありがとう」


 そして俺とクレアは三人の友人と笑顔で別れ、退学という形で学校を去ることとなった。


 学校を出た俺達はとりあえずエミリーさんの家に戻ることにした。昨日の置手紙の内容ではそろそろ家に戻る頃だろう。


「全く、クレアまで退学になることなかったのに。主席で卒業するんじゃなかったのか?」


「う、うるさいわね。過ぎたことをいつまでもグジグジ言うんじゃないわよ。女々しいわね」


 女々しいって……クレアが男っぽ過ぎるんじゃないのか。


「それに私を助けてくれたレインだけ退学にさせるわけにはいかないもの」


 小さい声で、俺から視線を外しながら恥ずかしげに言った。こういうところは年頃の女の子っぽいな。


「まっ、俺達ならきっとなんとかなるさ」


「当たり前じゃない。ボルタを倒して、貴族になって、あのいけ好かない貴族に一発食らわすまで突っ走るわよ」


「だな。まずクレアは怪我を治すことが先決だけどな」


「うっ……わ、わかってるわよ」


 父が国を裏切り、犯罪者のレッテルを貼られ、学校を退学になり悪い事が続いているが、不思議と気持ちは晴れやかで明るかった。理由は分かっている。全てはクレアが隣にいてくれているからだ。クレアも同じように想ってくれているといいな。

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