第19話 強くなりたい
「さぁ、皆わかったかしら。強い魔法ほど威力は上がるけど、効果範囲は広くなるし、危険を伴うわ。高等魔法とかは戦争時とかは役に立つけど、対人戦とかは上級魔法の方が使いどころがよかったりするのよ」
リタ先生が先ほどの魔法について説明しているが、真剣に聞いている生徒は約半数だ。残りは俺が高等魔法を使ったのが気にくわないのか、何かグチグチ言い合っている。リタ先生もそれに気付いていた。
「おい、君達なにか言いたいことがあるなら聞こうか」
一人の生徒が手を上げる。あのむかつくお坊っちゃんだ。
「よし、話してみなさい」
「先生は怖くないのですか? ザワード氏を殺害した仲間が一緒の学校にいて、それもあんな魔法を使えるなんて。大人しくしているうちに追い出したほうがいいと思いますが」
リタ先生はハァとため息をついて答えた。
「確かに恐ろしいわね。でもそれは彼が敵に回ったとき。確かに彼はザワード氏を殺害したボルタの息子よ。でもそれだけ。彼には関係ない。私達の味方でいてくれている、それがどれだけ有難いことかわからないの。もし本当に敵なら一瞬でこの学校なんで破壊できるはずよ」
お坊っちゃんは少しブルッと震えたように見えた。
「みんな騙されてるだけなんだ……俺は信じないぞ」
そう言うと、走って闘技場を出ていってしまった。
「はぁ、あの子模擬戦の結果がクラス分けに影響するの知ってるのかしら。じゃあ他の人は模擬戦を始めますよ」
俺は今日の模擬戦でも魔法を使わずあっさりと相手を倒した。授業も終わりいつも通り一人でエミリーさんの家に帰ろうとしたらトールが話しかけてきた。
「レイン、もう帰るの? 今からリリーと甘いもの食べにいくんだけど一緒にどう?」
トールの少し後ろにはリリーが顔を伏せて立っていた。
「ありがとう、でも俺は帰るよ。今日も特訓があるからな」
「そっか。レインはすごいな。今でも十分強いのに、まだ上を目指すなんて」
「いやまだまだだよ。ボルタは強かった……もう負けるわけにはいかないから。それに二人の邪魔はしたくないからな」
「なっなに言ってるのさ。とにかくあんまり根を詰めすぎないようにね。気分転換も必要だよ」
「あぁ、ありがとう」
トールとリリーは二人並んで楽しそうに町の方へ歩いていく。正直羨ましい。俺もいつかクレアと……せめて前のようにクレアと下校できればまだ気持ちも違うんだろうけどな。
エミリーさんの家は以前住んでいた家よりも遠い。帰り道の途中でクレアの屋敷があった場所を通る。今は新しい家を建てている最中だ。最初はここを通るのが辛く、回り道をして帰っていたのだが時間が1.5倍もかかるので時間がもったいないと、いつしかこの道を通るようになった。
「ただいまー」
玄関をあけると、奥からエミリーさんがスリッパをパタパタ言わせて走ってくる。
「おかえり、レイン。お風呂にする? ご飯にする? それとも……」
「はい、はい。もういいですよ。毎日よくあきませんね」
「もーレインは冷たいんだから」
こういったやり取りをもう二週間は続けているだろうか。最初は恥ずかしさもあったが、今ではすっかり慣れてしまった。エミリーさんは結婚したことなくこういった生活に憧れていたそうだが、さすがに付き合いきれなくなっていた。
「じゃあいつも通り剣術の稽古をお願いします」
「ほんとレインはまじめね。女の子にモテないわよ」
「今はいいんですよ。とにかく早く強くならないと」
「そうだね。じゃあ準備してらっしゃい」
いつも稽古している庭で模擬戦のような形で戦うのだが未だに一本を取ったことがない。エミリーさんの攻撃にも慣れてきて、今ではある程度戦いにはなっているが俺の攻撃は簡単にいなされ、反撃をくらう。
「やっぱりレイン君は接近戦は受けに回った方が良さそうね。下手に手を出すと、どうしても隙ができるわ。受けに回れば私ともある程度戦えるし。あなたの場合魔法が物凄いから接近戦に持ち込まないのが一番なんでしょうけど」
「そうですね。接近戦でも魔法を使っていけるよう何か考えないと」
エーベルの時のように初級魔法くらいなら自分ごと魔法に巻き込んでもたいしたダメージはなかった。しかし上級あたりになると、かなりのダメージを受けてしまうのだ。それに相手のほうが魔法防御力があると意味がない。
「今悩んでもしょうがないわ。今日はこれくらいにしてご飯にしましょう。今日はシチューよ」
エミリーさんの料理は絶品なのだ。俺も料理には自信はあるのだがエミリーさんには敵わない。いつか結婚したときの為に練習したそうなのだが……エミリーさんは優しいし、家事もできるし、料理もうまい。それにお金持ちだ。なぜ今まで結婚できないのか理由がわからない。彼氏もいないようだし。
前になんで結婚できないのか聞いてみたのだが、
「私が聞きたいわよ!」
と本気で怒られた。
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