ルノワード家

 レッタ改めレネッタの返事はもちろん「YES」だった。

 嘘をついていたことは反省している。何より、素直で純粋な貴帆達を欺いていくのは正直心苦しかった。本来なら怒りや軽蔑をぶつけられてもおかしくはない。だが彼女達はレッタだった時にくれた優しさや温もりを、まるごとレネッタに受け継いでくれた。むしろ本当の姿がわかって嬉しいというような表情すら添えて。


「タカホ様について、知っていることを教えて頂けますか?」


 雨虹が真剣な眼差しで見つめてきた。隣を見ると貴帆も同じような顔をしていて、可笑しかった。ナオボルトはきちんと服を着て、床に胡座をかいている。安堵からか泣き止まないエリックに冷たい視線を向けるイサラギも横目で見てから、彼女は口を開いた。



 ルノワード家。

 それは古くから大陸の南部を広く治める領主の一族だった。今のウルイケ領とオズイーム領は元々1つの領地で、そこをルノワード家が治めていたのは言うまでもない。


 だが今日では2つに分裂している。大陸の南西部に位置するタカホ・ルノワードのウルイケ領。その北部の内陸にあり、現在はタカホと同じ一族のエカッド・ルノワードが治めるオズイーム領。これは長い歴史上でのルノワード家内のいざこざが原因なのだが、結局この形でなんとか平和を保っていた。


 その平和が脆くひび割れ始めたのは、お互いの先代の時期からである。元々受け継いだ内陸の領地に不満を持っていたオズイーム領が、港の奪取と海への進出を図ったのだった。つまりその手段はタカホの治めるウルイケとその周辺の併合であった。先代オズイーム領主はオズイームはもちろんウルイケの周囲に開発援助など融資を増やしたかと思うと、瞬く間に陣営を拡大していった。港もなく経済的にウルイケ領より劣っていたオズイーム領がどのように援助を捻出したかは不透明だったが、明らかにウルイケ領は不利な立場となっていた。そうして段々とオズイーム領は「ウルイケ領の富の独占」を主張するようになり、その波紋はウルイケ領を取り囲む周辺地域にも広がった。

 そんな経過を辿り、何者かが領主誘拐という犯行に及んだのであった。



「私が得た情報はここまでよ」


「なんか領主の家はややこしいぜ。ウルイケ領主とオズイーム領主の仲が悪いことは有名だよな」


「まさかタカホ様に危害が及ぶほどにまで嫌悪が高まっているとは……」


「そのエカッドって人のオズイーム領に、タカホはいるってことですよね?」


 貴帆はゴールが見えた気がして、胸を踊らせた。まだ会ったこともない自分の片割れが本当にその場所にいるなんて、期待以外何も無い。


 レネッタは深く、しっかりと頷く。


「でも場所はわからないのよ。だから……」


 そう言いながらイサラギの方を向き、にっこりと笑った。──なんとも威圧的な笑顔で。


「イサラギ、占ってくれるわよね。勝手に人の秘密を暴露したのだから。それ位当然でしょ?」


 それを聞いてイサラギが「何!?」と顔をしかめた。想定外の出来事だったらしい。こんな美しく恐ろしい微笑みに対抗出来るはずもない。笑顔で詰め寄るレネッタに負け、力なく頷いた。


「レネッタ嬢がそう言うのならやるしかあるまい……」


 満足そうに笑って、レネッタはパンと手を叩いた。


「それなら決まり♡賞品を受け取って、イサラギのお店で占ってもらいましょ!」


 そう締めくくられ、閉会式と再出発のため控え室を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TRAIN RPG 紫松 まほろ @maho66

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ