仲間

 ほんの数秒間、視界が暗くなった。瞬きする間もなく地響きと、色々な物が突き破られ崩され壊れていくような騒々しい音に取り囲まれる。そうかと思えば、それらはすぐ止んで気味が悪いほど静かになった。貴帆が恐る恐る顔をあげると──


 そこには皆がぐったりして地面に転がっていた。


「なんで、皆……」


 辺りを見回す。近くにはさっきまで剣を交えていたはずが、うつ伏せのままピクリとも動かないメリア。貴帆の右手側には斧が地面にのめり込んでいるタド。その巨体と斧の下から覗く、見覚えのあるマフラーの端と大剣。貴帆の左には短剣を握りしめたままのリュートと、フィールドの壁に寄りかかって力なく俯いている雨虹。


 生死も分からない人々に取り囲まれた貴帆は、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「はは、やはり……侮れない。予めシールドの魔法をかけていてよかったです」


 背後で声がした。振り返るとアズリバードがよろめきながら立ち上がっていた。服は土まみれで所々破れている。その足元には背中にナイフが突き刺さっているレッタが、うつ伏せで倒れている。


 アズリバードはこの状況にも全く動揺せず、フィールド全体に目を走らせてため息をついた。


「なんて有様でしょう。息があるからいいものの、この人には敵も味方も関係ないんですかね」


 肩を竦めて見せるアズリバードに向かって、貴帆は体の芯からの震えを隠しきれないまま声を絞り出す。


「そのナイフは、何……?」


「この人があんな魔法を使うから手元が少し狂っただけですよ。……あなたには特別に教えて差し上げましょうか。私は彼女を仕留めるために、わざわざ自分の弱点でもある土魔法の中で戦っていたんです。だから彼女はあの死の魔法で先手を打てば、私のことも倒せると高を括っていたのでしょうね。まあ結果は相討ち、いえ私は今こうして立てているので私の勝ちでしょうか。……それにしても、あなたは生かされたみたいですね。こんな薄情で短絡的な人に巻き込まれて、あなたもお仲間もお可哀想に」


 涼しい表情で馴れ馴れしく貴帆に話してくるその態度が、貴帆には信じられなかった。


 しかもレッタは薄情でも短絡的でもない。それはまだ1週間と少しという短い間だが、寝食を共にして稽古をつけてもらっていたからわかる。この武闘会にいるのも、剣術をここまで身につけられたのも、イサラギやエリックと出会えたのも、全て彼女のおかげだ。レッタのことだから、きっとあの魔法を使ったのにも理由がある。貴帆はそう信じていた。


「レッタさんは薄情でも短絡的でもない……それに私たちは可哀想なんかじゃない。勝手に知ったようなことを言わないで!」


 アズリバードは服の土や砂を払いながら呆れ気味に言う。


「そうですか、そんなことよりもさっさと決着をつけましょう。なんなら棄権します?その方が痛くないのでおすすめです」


「見くびらないで。ここで負けるわけにはいかないんだから」


 貴帆は自分の剣を拾い上げた。固まったように動きにくい指先が、柄を握る。アズリバードがひびのはいった眼鏡を放り投げて魔道書を持った。さらさらの黒髪を風がすくっていく。意地悪な笑みを浮かべるアズリバードと対峙した。


「その口がいつまできけるか楽しみですね」

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