ナオボルトの敵

 ナオボルトを取り囲むドーム状になっている水は、上から下へ滝のように流れ落ちている。滝の水が音を立て、飛沫を飛ばし、すごい勢いである。


 まずいなぁと呑気に周りを見回していると、剣がぶつかり合う音がうっすらと聞こえた。それに何か叫んでいたようだが、水の音が邪魔をしてよくわからない。

 取り残されていた貴帆だろうか。それともレッタが囲まれるのを上手く避け、貴帆と共に戦っているのか。どちらにせよ、助太刀するにはまず自分はここから出る方法を探さなければいけない。──とはいえ頭を使うのは性にあわないのだが。


 試しに大剣を抜いて、剣先を滝に突っ込んでみる。滝が剣先を境に二手に別れた。ただ水の壁は分厚く、横幅もたりない。大剣をあまり長い時間水に触れさせていると錆びるし、あまりの滝の水圧で折れてしまいそうになる。生憎この大剣以外の武器は持ち合わせていないことに加え、兄弟と言っても過言では無い長い付き合いの大事な大剣を無下に手放したくは無い。大剣を水中から引き抜き、悶々とそんなことを考えていると目の前の滝が割れた。


「おわっ!?」


 反射的に飛び退き、同時に大剣を構える。筋肉が鎧と言わんばかりのタドがぬっと現れた。ナオボルトも自他共に認める高身長と体躯を誇るが、タドはそれを軽く超えてくる。


 そんなタドが口を開いた。


「お前は敵。俺がお前を倒す」


 登場早々のその台詞に、ナオボルトは目が点になる。


「おいおい……お喋りは嫌いか?友達できねーぞ。もしくは俺より頭弱いとか?単細胞には単細胞をってことか?」


 呆れながら大男のタドを見つめた。


 ナオボルトの経験上、彼がパワーや体力で負けるようなことは滅多になかった。だからこそその力を主力に置いた技や戦術に頼ってきた部分がある。だがこの敵はナオボルトよりも体が大きく、武器の斧も特大。自慢のパワーや体力が発揮できる望みは薄い。厳しい戦いになることは目に見えて明らかであった。自分の得意分野で戦うタドと、そうでないナオボルトの戦い方には大きな差が出ることが否めない。


「ま、悲観してもしゃーないしな」


 そう呟いて手元で鈍く光る大剣を見つめる。


 様子を見つつ、新しい戦い方を学ぶ機会にしよう。どんな敵でもどんな状況でも逃げず、戦い、学ぶ。そうやってここまでのし上がってきた。


 何よりこれまで様々なところを巡って生活してきたナオボルトにとって、貴帆や雨虹、レッタとの時間は特別だった。今までの境遇や待遇とは比べ物にならないほど温かくて尊い、綺麗な場所だ。


 せっかく巡り会えた居場所をこんな形で壊されてたまるかと思うと、自然に大剣を握る力が強まった。


「よーし、そんじゃ勝負と行こうぜ!」

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