貴帆の敵

「どうして、皆バラバラに……」



 貴帆が動揺してそう漏らす。その絶望的な声を耳聡く聞きつけて、目の前に立っていたアズリバードがにやりと口角を上げたのが分かった。


「お仲間とはぐれてもうお手上げですか?これも戦法ですよ。ここまでの試合総なめのお強いあなた方を動き回らせてはこちらが不利ですからね」

 

「戦法……?」


 勝ち誇った顔でアズリバードは挑発じみたことを言うが、軽々しくそれに乗っかる貴帆ではない。先程まで感じていた後頭部の血の気が引くような焦燥感に似たものが、落ち着くいていくを感じた。

 戦法ということは一対一で戦うつもりだろうか。それか1人ずつ全員でかかって潰していくのか。果たしてそんなに時間と手間がかかる非効率的なことをこのアズリバードがするだろうか。


 そう思考を巡らせていると、アズリバードをはじめとして横に並んでいた他3人の戦士たちは、貴帆とアズリバードをちらりと確認しながらそれぞれ動き出した。貴帆が確認できたのはリュートが火に囲まれた雨虹の元へ颯爽と駆け出すところ、タドが水に囲まれたナオボルトの元へ地響きとともに向かうところである。メリアだけは不機嫌そうな顔でアズリバードの横顔を下から睨みつけていた。


「……その人間はあなたの得体の知れない魔術の壁で囲まないのね」


「所詮はどこからかやってきた得体の知れない人間が剣を握っただけですからね、囲むだけ無駄ですよ」

 

 アズリバードは嫌味っぽくそう言うと、さっとローブを翻してどこかへ姿を消してしまった。残ったのはメリアだけで、どうやら彼女が貴帆の相手らしい。1人取り残された彼女はおおげさにため息をついた。

 

「人間が相手とか超つまんないんだけど。なんでこの私が弱者を相手にしなきゃいけないの。指一本触れさせずに勝てるわよ。てか触れたりなんかされたら汚れるわ」


 メリアは早口でまくし立てる。人間というだけでこうも見下され蔑まれるものなのか。ただもとより侮辱には耐性のある貴帆は、胸の内で一笑に付して剣を構える。その様子を見て、メリアは片眉を釣り上げて鼻で笑った。


「あー怒っちゃった?ごめんごめん、人間でもプライドってあるわよねぇ」


「別に」


 貴帆は短く答えて、メリアが構えるのを見た。レイピアが真っ直ぐ自分の喉を狙っているのが分かる。彼女はああいう口をきくだけあって、手練の圧をひしひしと感じる。


 だが敵の首をとるか、敵が降伏したら勝利だ。雨虹やナオボルト、レッタと合流するまで耐えるのも手段としてある。ただそんな他力本願は納得がいかない。1番環境が整っているのは貴帆であり、隙あらば仲間のもとへ加勢に行く自由があり、魔術の壁でどんな怪我を負おうとも覚悟はできている。

 

「勝つのは……」


 貴帆がメリアを睨みながら言いかける。互いが同時にたっと駆け出し、叫んだ。


「「私だから!」」

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