次なる地

 勇者が仲間に加わったその夜。

 輝かしい日の割に暗い顔をして、貴帆と雨虹はもそもそと宿屋のパンを口に運んでいた。行き先を見失い、万事休す。前途への焦りと不安はパンを無味に変えるのに十分だった。


 するとそんな中でナオボルトがぽろりとこう言った。


「そういや、魔王に会い行けって別の紙に書いてあったな。どっかに落としたけど」


 その言葉を2人は聞き逃さず、沈んでいた顔を上げて顔を見合せる。


「魔王ということはイースタホース領ですか。ここリナートスからは東に半日ほどでしょうね」


 明日はもうゴールだとばかりに貴帆もテーブルに乗り出す。


「次会う魔王っていうのはつまり、領主を誘拐した犯人ってこと?」


 こういう冒険の黒幕は魔王と決まっている。そのルールに則ると、貴帆達のこの冒険もどきでもラスボスは魔王のはずだ。


 興奮を隠せない貴帆とは裏腹にナオボルトはうとうとと眠たそうに目を細めている。大きくのびをして眠気を振り払ってから、首を振った。


「どうだろうな。俺にはどうも魔王がウルイケ領主を誘拐する動機が見当たらないよ」


「そうですね、イースタホースはウルイケ領と比べても遜色ないくらい発展していますし、魔王一族だって格式高い有力貴族です」


 今ひとつ解決に結びつかない大人2人の反応に、貴帆は再び大人しく腰を下ろす。ただ魔王一族が統治するらしいイースタホースという地に赴くのは、無駄では無さそうだ。何かしら情報が得られるかもしれないと結論づけられ、明朝の出発が決まった。



「もし仮に、仮にだけど戦うことになったらどうするの?私やっぱり戦えた方がいいのかな……」


 貴帆が不安気にそう口にしたのは、次の目的地「イースタホース」を目指し電車を走らせていた雨虹が、隔てられた運転室から丁度出てきた所だった。


 貴帆の言葉を聞いて、ナオボルトが降ろしていた大剣を引き寄せる。


「俺がいればなにも怖くないぜ!」


「そういうナオが1番信用できないです、はい」


わたくしも同意致します」


 貴帆と雨虹、両方から即全否定される。だがナオボルトは気にしていないようで、能天気に笑った。


「しかし貴帆様、わざわざご自分を危険に晒すようなことをしてはいけません。わたくしも腕が立つ方とは言い切れませんが、命の限りお守りしますから」


 優しく諭すように言う雨虹はとても眩しかった。しかし同時に、貴帆の心の隅に小さな陰を落としたのだった。

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