五話 少女の想い

 五話 少女の想い

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 原作でも、王国は結構なピンチだった。


 それは、王子と主人公を際立たせるために必要な舞台装置だった。

 王子が王国内で異常な権力を持っていたり、主人公が容易に成り上がれたのも、すべては舞台装置となる国そのものが疲弊していたからこそ。

 常識を裏付ける国そのものが弱体化している以上、その常識に天才たちを縛るほどの力はない。


 ただ、いまの王国は原作以上にボロボロだ。

 天才だからこそ破れた常識、いまそれほどの強度を今維持してはいない。

 一般人には確かに無理だ。

 だが……


 もっとも、どれだけボロボロになろうとも主人公と王子がいる時点で、滅亡という未来はあり得ないわけだが。


「イリス嬢」


「あ、ベスタ伯爵。お心決まりましたか?」


「ええ、私には得しかないお話ですから。ですが、イリス嬢あなたに何の……」


 私に何の得があるか、ね。


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 王国は、ケレスの幸せな未来になくてはならない存在だ。


 ただ、今の王国にはケレスにとって都合に悪い物事が多すぎる。

 アルベード公爵の敵国への内通と裏切り準備が最たる例だが、ほかにも数えきれないほどある。

 原作でも派生作品でも、最後の最後まで悪役令嬢だった少女だ。

 ケレスにとって都合の悪い出来事は、いくらでも存在する。


 ……いや。

 うそをついた。

 ケレスの未来に、必ずしも王国は必要ない。

 これは私のわがままだ。


 ケレスをさらって遠い国で暮らせば……きっと今のケレスなら平民に落ちても幸せに暮らせるだろう。

 貴族でなくなるというだけで、生活レベルを落とす必要もない。

 やろうと思えば、その国で貴族に返り咲くことも可能だ。


 ただ、それは逃げだ。

 ケレスに逃げは似合わない。


 悪役令嬢ケレスは、王子に婚約破棄されたとしても、没落したとしても、処刑の瞬間ですら、最後まで悪役令嬢だった。


 私のわがままで、押しつけだ。

 それでも……


 人間は自分のために生きなければならない。

 ケレスを助けるのも自分のためだ。

 なら方法も……

 本質は何も変わらない。


 そう、前世のころから私は何も変わっていない。


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