三話 おいしい話に騙されて…… 後編

 三話 おいしい話に騙されて…… 後編


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「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」


 かつて圧倒的な強さを誇ったナポレオン。

 ナポレオンが残した数多くの名言の中でも、私はこの名言が特にお気に入りである。

 もっとも気に入っているだけで、それ以上でも以下でもないのだが。


 さて、今の私はどうだろうか。

 私の一番の部下フローラは、客観的に見てどうかは判断しかねるが、私から見た彼女は無能である。


 誰だかは忘れたが、かつての有名な軍師は軍人を四種類に分類したという。

 有能な怠け者、有能な働き者、無能な怠け者。

 そして、四番目。

 無能な働き者。

 これは、処刑するしかないという。


 無能であるがために間違った方向に進み、働き者であるがためにことは重大なものになる。

 本人は良かれと思って、間違った方向に全力でダッシュするのだ。

 もう目を覆いたくなるようなありさまである。


 さて、フローラはまさにそのタイプであるといえよう。


 そうフローラとはナポレオンが最も恐れ、現代にまで名をとどろかす軍師が処刑するしかないと匙を投げるほどの存在なのである。


 ……いや、半分冗談だ。


 そもそもナポレオンや軍師と私は、根本からして条件が異なる。

 もし戦争での勝利を求めるのであれば、確かに無能でやる気に満ち溢れた味方というのは邪魔でしかない。


 しかし、私の敵とは? 味方とは?


 そう私が戦っているのは、決して主人公ちゃんでも王子でもないし、王国と戦争中の隣国でもない。


 私が戦っているのは、いうなれば環境だ。

 原作では、どれだけ頑張ろうとも主人公という人の力ではどうしようもなかった環境だ。

 たとえどのルートを通ろうとも確定された未来。


 それはかつてナポレオンすらも敗れた、環境そのものである。


 そうナポレオンのような強者ですら敗れたそれにぶつかられるものといえば、かのナポレオンが最も恐れたもののほかにあるまい。


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「ご主人様、あなたはおバカさんなのでしょうか? 私に全権を与えて、こうなる未来見えませんでしたか?」


 かつてのナポレオンはこう言った。

 有能な部下は、自分自身を成長させてくれる。

 しかし、無能な部下は足を引っ張り、いずれ寝首をかく。


 部下に裏切られたカリスマというのは案外多い。

 織田信長や豊臣秀吉がそのたぐいだっただろうか。


「あら、フローラ。やっぱりあなたは4番なのね」


「なに、意味不明なことを」


「また会いましょう。ばいばい」


 この子はなんでこうもまっすぐなのだろうか。

 自分が直進している方向に対して、少しは疑問を持ったりしないのだろうか?

 一度おいしい話に騙されて、それでもまたおいしい話に飛びつくのだろうか?


「逃がすわけ……消えた?」


「会長ターゲットは?」


「……私が始末した」


「さすがです」


 そしてもし、その4番が保身と出世しか考えないイエスマンばかりで周りを固めていたのなら……


 きっと味方もろとも間違いに直進することであろう。

 世界を巻き込んで。


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 ちなみに私は無能な怠け者であろう。

 ただ、一度だけ神の世界に足を踏み入れたことのある、それだけの無能な怠け者である。


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