第12話 終章

 翌日、何時もの様に俺は店を開けた。開店するとすぐに、泰造がやって来た。


「上手くいったようじゃの?」


泰造はハナを見付けると、俺にそう囁いた。


「ええ、お陰様で。これで前のハナに戻りましたよ」


「やはり、ハナちゃんはボーッとした森の妖精で無いとな、その方がええ」


「そうですね……」


俺はそう言って笑うと、店内を見渡した。三面の壁一面に張られた電子スクリーン。深い緑の森が静かに部屋を囲んでいる。ハナは以前の様にティンカーベルの衣装を着て、酸素を吹き出しながらフラフラと人工の森の中を彷徨いていた。その姿を見て、俺は天使という者が居るなら、きっとこんなふうじゃないか? と思った。働くでも無く、にこやかに辺りに笑顔と酸素を振り撒いて、およそこの薄汚れた人間界とは相容れそうに無いハナは、少なくとも俺にとっては天使である。



 人間離れしたアンドロイドにもいつの日か京子の様な女性らしい想いが芽生える事はあるのか? それは分からない。だが俺は、ハナはこのままで良いのでは無いかと思う。このままで、十分俺の心を癒してくれる。店の売り上げに貢献してくれただけでなく、俺の孤独な心に明るい光を射し込んでくれたのだ。人工の天使。ありがとう、ハナ。いつまでも、お前は天使で居てくれ――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

酸素カフェ 夢咲香織(ユメサキカオリ) @kotsulis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ