第28話 メイドゾンビは人間になる

 使用人室に戻ったトッシュ達は、メイドゾンビと筆談を始めた。


 腕が伸びきったまま硬直しているメイドゾンビは、苦労したようだが、スケッチブックが大きいため辛うじて文章を書くことに成功。


『もう少しかしこさを上げてくれたら、私のステータス異常を解除しても問題がないか判断できそうです』


「なるほど。じゃあ、かしこさを150にしてみるか」


 要求に従ってかしこさを上げてみた。


『ありがとうございます。……だいぶ自分の体について分かってきました。人間に戻れるようです』


「まじで?」


「やったあ!」


「良かったですね、先輩。ゾンビさん」


『ただ、慎重にステータスを解除して頂く必要があります。まずは血流から回復させていくため、私の胸に触れて、心臓を先に人間に戻してください』


「分かった」


「駄目ですよ! なに言っているんですか、分かったじゃないですよ! 女の子の胸に触れるなんて駄目に決まっています。というかメイドゾンビさん、貴方、何歳ですか?!」


『14歳です』


「アウトオォォッ! 未成年者がメイドをするのは異世界ファンタジーならありうることだからヨシとしても、その胸を触るのは絶対に駄目です! ――14歳が黒のレースのひらひらぁ?!」


「レイン、うるさい……」


 遅れてツッコミをするレインに、シルが呆れて眉をひそめる。


『早く人間に戻してください。体がこれ以上腐ると、14歳とは思えないほどに発達した豊満な胸の柔肉が崩れ落ちてしまいます。ちらっ』


「なんで擬音の『ちらっ』を文字に書いてまで、私の胸を見るんですか?!」


『硬直した肉体では、勝ち誇った笑みを浮かべられないのが残念です』


「ぐ、ぐぬぬっ……!」


 メイドゾンビは賢いから、既にトッシュ達の人間関係を把握し、レインをからかっているのだ。


「仲良くしているところ悪いんだけど、で、けっきょく、どうすればいいの?」


『普通に頭に触れてステータス異常ゾンビを解除してください』


「よし、分かった。ステータスオープン。状態異常の値を『ゾンビ』から『なし』に変更ッ!」


 シュワッ!


 トッシュがスキルを発動すると、パーティーホールの方から赤い霧が漂ってきてメイドゾンビを包む。赤い霧はゆっくりと体へと吸収されていく。


 腐敗して黒ずんでいた皮膚は次第に白くなり、それからすぐに血色を取り戻していく。


 どうやら血肉が戻り、再生しているようだ。


「あっ……んっ……」


 喉が再生したらしく、ゾンビが声を漏らした。


「ちょっとゾンビさん、変な喘ぎ声を出すの、やめてください!」


 レインはさっとトッシュの耳を塞いだ。


「仕方ないじゃないですか。体が再生して……全身が気持ちよくて……。あんっ……んっ。ああっ……んっ!」


 一際大きな声を漏らしたあと、メイドゾンビは全身から力が抜けたかのように、崩れ落ちそうになった。


「危ない!」


 咄嗟にトッシュが支える。


「……」


「ねえ、トッシュ。ゾンビさんどうしたの? 動かなくなっちゃったの?」


「分からん。眠った? 意識を失った? 何はともあれ、人間に戻ったみたいだな」


「ちょっと先輩、なにをもってして、人間に戻ったと確信したんですか!」


「全身が柔らかいし、暖かい」


「なんか釈然としませんが、よしとします。とりあえずいつまでも抱きしめているのはアウトです。このベッドに寝かせてあげてください」


「おう」


「では、私とシルちゃんが隣の部屋のベッドを使うとして……」


「なら俺はここで元ゾンビと――」


「駄目です。鈍感スリーアウトチェンジですよ、先輩」


 レインが被せ気味に言う。

 トッシュはやましい気持ちが一切ないから、ベッドを使えない不満に唇を尖らせる。


「……寝具を2つ買ったのに俺は使えないのか…」


「ベッドを大きくしたら?」


 さっと解決策に気付くあたり、本当にシルの方がトッシュよりもかしこさが上かもしれない。


 こうして使用人室のベッドはサイズを大きくして女性3人が使用することになった。


「まあ、3人は寝てて。俺はとりあえず一階だけでも他のゾンビを探して治してくる」


「私も……」


 手伝うとは、レインは言えなかった。意識を失ったように眠る元ゾンビとシルをふたりだけ部屋に残すのは、少し不安だった。

 元ゾンビに害意があるとは思えないが、目を離すわけにはいかない。


「いいって、本当はもうちょっと、レインがひとりでこの家を攻略できるか見てみたかったけど、さっきの様子を見ただけでも、十分合格点だし。あとは俺が片付ける」


 そう先輩らしく言い残してトッシュは部屋を出た。


 しかし、メイドゾンビを再生させたからステージクリアしたわけでもあるまいが、次のイベントが発生することはなかった。


 次のゾンビが発生しないので、トッシュは地下以外の屋敷内を一通り巡ってから、部屋に戻って寝た。


 翌朝、人間に戻ったメイドゾンビはいったいどうなっているのだろうか……。



◆ あとがき


第五章:ホラーハウス攻略編はここまでです。

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