第二章:新居へ引っ越し編

第6話 シルの電子レンジ初体験

 トッシュとシルは出会った翌日の昼には、うちとけあっていた。


 というより、シルは居候の身だから色々と遠慮していたのだが、

 トッシュがあまりにもからかってくるので、遠慮していたら拙いと悟った。


 言われるがままコンビのトイレでウォシュレットを使ってしまったのが決定打だ。


 アパートに戻ってきて、キッチンのテーブルに買い物袋を置く。


「ささ、この部屋の椅子は水が噴き出さないので安心してお座りください」


「……トッシュは大人げないと思う。

 していい悪戯と、したらいけない悪戯があると思うの」


「ごめんなさい……」


「別に怒ってない……。

 ただ、エルフの村に居た、年下の男の子と似たノリなのは、

 どうかと思う」


「ご、ごめんなさい……。

 お詫びの印に、この、甘い氷の塊を献上致します」


「……? これなあに?」


「先程コンビニで購入いたしました、

 フローズンデザート呼ばれる、冷たい飲み物でございます」


「固まっていて飲めないよ?」


「レンチンをするのでございます」


「レンチン?」


「この箱の中に入れて、

 マイクロウェーブを照射することにより、

 分子の振動で物体を温めるのでございます」


「……? ……精霊魔術?」


「精霊ではございません。

 科学の力により、火を使わずに物を温めるのです」


「……また、シルをからかおうとしている?」


「滅相もございません!

 反省しておりますからこそ、

 ちょっとお高めのコンビニスイーツを購入したのでございます」


「……怪しい」


「怪しくありません。

 ささ、どうぞ、フローズンデザートをこの箱の中に入れてください。

 ここを引っ張ると開きます」


「こう?」


「そうでございます! 素晴らしい!

 さすがシル様! 早くも日本の文明になれてきました!

 見事なお手前!」


「え、えへへ……。わたし、凄い?」


「凄い! シルちゃん、凄い!

 次に、このスイッチを押してください」


「こ、こう? ピッっていったよ?」


「素晴らしい! パーフェクトな押し方です!」


「えへへえ」


「ささ、次は、こちらのダイアルを回して、

 1分30秒にセットしてください」


「む、むずかしい。日本の文字が分からないよお……」


「もう少しです。

 これは1分、こちらが、10秒、20秒……。

 もう少しです!」


「え、えいっ!」


「素晴らしい!

 そう、そこが1分30秒です!

 さあ、スタートボタンを押してください」


「なんかトッシュの喋り方、変だよ?

 シルを騙そうとしてる?」


「騙していません! 信じてください!

 すぐに美味しいデザートになります!

 ささっ、スタートを!」


「えいっ! あっ!

 なんか、ブーンって言いだした!

 凄い! なにこれ。なんかブーンって言ってる!」


「これが電子レンジの機能です。電子レンジとは、電磁波により、水分を含んだ食品などを発熱させる調理機器です。日本における「電子レンジ」という名称は、1961年(昭和36年)12月、急行電車のビュフェ(サハシ153形)で東芝の製品をテスト運用した際に、国鉄の担当者がネーミングしたのが最初とされる[1]」


 トッシュはスマホでWikipediaを表示し、電子レンジのページを読んでいた。


「かっこ?!

 かっこってなに?!

 ねえ、トッシュ、何を見てるの?!」


「えっと、とにかく凄いから、

 このカウントダウンが終わったら凄いから!」


「文字、わかんない……」


「おいおい教えていくから、残り10秒」


 アッシュはシルの眼前で指を折りながら、カウントダウンをする。


「……3、2、1、0」


 ピーッ!


「わ、変な音した。大丈夫なの?」


「中からさっきのフローズンデザートをとりだしてみて」


「う、うん。あれ。冷たいままだけど、まんなかが溶けてる?」


「ささ、こちらの、コンビニで貰ったプラスティーックのスプーンでお召し上がりください」


「う、うん……。

 わあっ! 甘い! 美味しい!」


「気に入って頂けたようで何より。

 赤いのがいちごで、白いのがバニラ。

 ああっ、なんとお上手なスプーンさばき!

 凄い! 素晴らしい!

 温め方も完璧です!

 初めてレンチンしたとは思えないレンチンさばき!」


「えー。えへへ……。褒めすぎだよ……。

 トッシュにもひとくち上げる」


「ありがたき幸せ!」


「はい、あーん……。なんちゃって。ぱくっ」


「なっ?!

 初めてスプーンを使ったのにあーんフェイントを使いこなすなんて!」


「スプーンはお家にあったよ」


「あ、はい。そうですか」


 それからトッシュはシルがフローズンデザートを食べ終えるのを待った。


 そして唐突に切り出す。


「よし。家を買おう」

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