第20話


この時期は仕事が忙しい。

夜遅くまで働く日が続いた。


今年の大型案件はいよいよ大詰めを迎える。


最後の作業は取引先での導入作業だ。

私は今、複数の取引先が入っているビルの最上階に居る。


エレベーターに乗り、1つ下の階にある最初の取引先に向かう。

だが、このエレベーターはどの階のボタンを押しても1階にしか行かない。

その為、1度1階まで降りてから上りのエレベーターで目的の階に向かう。


上りエレベーターはブランコの座る所のような動く足場である。

足場にしがみつくようにして上がり、取引先に到着した。

目的地にさえ辿り着けば、導入作業自体は簡単だ。

問題なく完了した。


2件目の取引先へと移動する。1つ下の階だ。

階段を下りて向かう。


2件目での作業も問題なく終わった。3件目の取引先へ向かおう。

同じように階段を下りていけばすぐ着くだろうと私は思った。


だが、下りた先に目指していた取引先はなかった。

その階には何も無かった。

どの階も1つの企業と変なエレベーターがある筈だったのだが。


私はフロア内を彷徨った。

またか。と思いながら彷徨う。

下の階に行っても取引先は無い。

上の階に戻ると先ほど訪れた筈の取引先も無くなっている。


この世界に居ると私は頻繁にこういう状況を創り出す。

廃墟や何も無い空間に迷い込みがちである。


一体私はいつも何を迷っているのだろう。

今はただひたすらに作業をこなすだけの筈なのに。



何も見つけられないでいる内に大きな音が鳴った。

世界を移動する時間が来たことを知らせる音だ。


居場所も変な建物の中から布団の上に移動した。

今は休日の朝。束の間の休息が始まる。

先ほどまで見ていた訳のわからない、意味のなさそうな夢のことはきっとすぐ忘れるだろう。

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