第19話


ある人物は再び願った。


「私が生きる意味を教えてください」


程なく聞こえてきた返事は


「また貴様か。自分の好きにすればよいだろう」


「人間として、生き物としての役目を果たせない私は何のために

誰のために生きるのか知りたいんです」


次の返事が聞こえるまでには少し時間がかかった。




「貴様は自分がこう言ったことを覚えているか。

全ての物事は必然であると」


「確かに言いました」


「この世で起きた出来事は初めからそれが起きると決まっていたものであり

今後起きる出来事も既に決まっていると言っていただろう」


「はい」


「それでも生きる意味を知りたいと言うか。

それがどれだけ愚かな考えであるか自覚しているのか。


貴様はこの先自分が辿る人生を知りたいと言っている。

既に確定している未来を知りたいと言っていることを自覚しているか。

知ったことで、この先自分が知った通りの人生が待っていることを理解しているのか。

自分が望まない未来が待っていることを知ったらどうするつもりだ。

明日死ぬと言って、それを受け入れる覚悟が貴様にはあるか。

まさかその未来を変えるなどと考える訳ではあるまいな。

貴様が未来を変えようと努力するがするまいが我の知ったことではない。

だが、その努力を行っても行わなくても、貴様が迎える未来は先に知った通りの未来だ。

貴様には「誰の為に何かをする」という未来は無い。ただ単に「何かをする」という未来しか待っていないのだ。

貴様が何をしても、しなくても、貴様の未来は既に決まっているのだ。

貴様はそのことを本当に理解しているか。

自分の行先を知って、そこへ向かうだけの人生を過ごす覚悟があるか。

その覚悟があるならば教えてやっても構わん」


それを聞いたその人物は何も言えなかった。

なんとその人物は自分の辿る人生が決まっており変えることができないという自覚が無かった。

そこへ向かうだけの人生を過ごす覚悟がなかった。


その人物は自分の人生を変えることができないと思い絶望した。


その人物は自分の未来に希望など無いのではないかと考えていた。

その未来を変えることができないと考え絶望した。



絶望し、この命を絶ちたいと思った。


しかしその勇気がなかった。


そのまま、命を絶つ訳でもなく、誰かのためになる訳でもなく、

その人物は何かをすることなくただただ時間を消費し続けた。

ただただ決められた未来を辿り続けた。

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