第32話できる事

 ファルークに案内されルセの町外に粗末な小屋がならんでいた。数人の子供が小屋の前に座りこんでいた。そのなかに昨日の兄妹きょうだいもいた。

 ファルークはなんて声をかけていいのかわからずにうろうろしていた。

 ユナは近くの井戸から水をくみその兄妹きょうだいの顔を自分の手布で拭いてやる。

「お腹すいてない?」

 ユナはパンをその子供にさしだす。

 いいの?と顔してパンをうけとる。その光景をみていた子供達が集まりはじめる。

「お前もいるか?」

 ファルークはおずおずとパンを差し出すと子供達は嬉しいそうにパンをうけとる。

「まだまだ、あるぞ」

 ファンリーは両手にパンをかかえて持ってきた。

 パンがいきわったからか子供達はまわりにいなくなっていた。

「終わったな」

 ファルークは満足した顔した。

「おい、おい。終わりじゃないぞ。始まりだぞ」

「え?」

「始めたからには責任ができたんだぞ。1日だけだったら簡単だ。次の日は一週間後は?子供達はどうなる。それはお前が領主の権限がなくてもできる事だ。辛いと嘆くなら行動しろ!」

 ファンリーはファルーク両肩をつかむ。

「あぁ」

 ファルークはぽかんと一瞬してごちゃごちゃした気持ちがすっと流れたような気がした。

 そうだ。俺にだってやる事はある。

「わかったよ。俺の肩をつかむな」

 ファンリーの手を払いのける。

「あの製鉄所は長くは続かない。ヤカモズの中央かヨウ国が辞めさせるだろう。そんな事はヤカモズとヨウ国の問題だ。お前のやる事はパンを運び続けることだ。お前ならできるだろ。いろいろ考えるのはその後だ」


 ユナの服をひっぱる子供がいる。最初の兄妹だった。案内されるままにユナがいくのでファンリーとファルークもその後に続いた。

 案内された小屋にはいると鼻につく匂いがした。敷物を引いた上に手足が震えた大人が横たわっていた。兄妹の親だった。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 震える手で神に祈るように涙を流しながら何度もお礼をいっていた。

 自然とユナは膝をつき足をさすってあげた。


 三人がこの小屋を出た後もそのお礼の声は続いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る