第3話 選択権

 ユナはテーブルの上に置いてある水差しから茶碗に水をいれてファンリーに渡す。

ファンリーはごくごくと水を飲み干し、ふぅと息を吐き落ち着いた。そしてユナに視線を送る。

ユナはその視線に気付き体をびくっと振るわす。

やっぱり、似ているとファンリーが呟くとその後二人は見つめ合いながらしばらく沈黙が続いた。

 

 この沈黙が耐えきれずファンリーは頭をかきはじめる。

「頼みたい事がある」

「どんなことでしょうか?」

 ユナは何もできないし、頼まれても検討が付かなかった。

 そうだよなぁと小さな声でつぶやくファンリーの声が聞こえた。

「娼館からでる金はだすからある方の身代わりになってほしい」

「身代わり?わたしに?」

 この国でまっすぐ長い黒髪は珍しいが隣国のヨウ国にはほどほどにまっすぐで長い黒髪の女性はいる。ヨウ国からつれてこればいいだけだ。なぜここで身代わりを調達しなければならなかった。


 ファンリーは頭から嫌な顔を思いだした。

 国の官を管理している大臣の顔だ。


「この国から身代わりをだせばいい?はぁ。そのが者が無事に戻っても戻らなくても後々面倒な事になる。後腐れない者を向こうの国で探せ」

 大臣はファンリーを馬鹿にした顔でみる。

 簡単に言ってくれるよな。



「ある方をこの国から逃がしたい」

「ある方?」

 このヤカモズ帝国とヨウ国は国交はある程度制限はあるが人が普通に行き来する事はなんでもない事だ。


 さっしのいいユナは気付いた。身代わりをしないとこの国をでられない人だと。

「危険な事ですか?」


「そうだ。だから頼んでいる。ここにいる方が安全だと思う。危険があるが身代わり期間が終われば自由できる様に何とかすると約束する」


 この男は優しいのだ。場末の娼館の女など有無を言わさずお金を払いすればどうとでもなる。それなのにユナに選択をさせている。


 ここにいればどうなるかわかっている。ついていけば危険でも何か変わるかも知れない。未来が見えなかったユナは扉の隙間から見える明かりほどの明かりだが未来が見えた気がした。


「はい。できるかどうかわからないけどやってみます。」




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