第20話 平穏な日常

今日は6月の1日。

いつの間にか時間は過ぎ、もう春は見る影もなく、少しの暑さと、物寂しさを漂わせながら6月は到来していた。

他の友だちの近況と言えば、特に変わったことは無い。

唯はいつもどおり元気だし、七花さんも、相変わらず毎日ではないにしろ、唯と俺とともに登校、下校することが多い。

奏さんは例の一件の後、心を開いてくれたようで、俺にも気兼ねなく接してくれて、六月さんも同じような状況になっているが、特段大きな変化は無い。

享はと言えば、あの「女性恐怖症(?)」だろう。

練習は続けているようで、どうやら唯と七花さんとは前より話せるようになったようだ。

……しかし、俺の方の違和感問題については、相変わらず全く進展が無かった。

そして、この6月の初頭といえば、あるイベントがある。

それは……一部の学生が忌避するであろう、一学期の定期考査だ。

この私立桜丘高校は、中間考査、期末考査と言った様に分断されて定期考査が行われることはなく、三学期制であるとともに、三回定期考査がある。

名称としては、『一学期末考査』だ。

四日間行われるこの考査だが、実は、かなり難しいことで有名だ。

流石は全国有数の進学校なだけあって、二年の定期考査だと言うのに、普通に大学入試の、それもセンター試験レベルではない二次試験レベルの問題を出してくる。

今回は、東京大学の問題も出される……とかいう噂が立っていたが、この噂を明確に否定できない程には理不尽な難易度をしていると言っても過言ではない。

日程は6月の11、12日……さらに土日を挟んで13、14日となっている。

科目数は9つ。

現代文、古典、数学IAⅡB、Ⅲ、英語リーディング、リスニング、物理、化学、選択で社会一科目となっている。

この学校には文理の隔たりがなく、高校3年生になれば、文系にも理系にも進めるようにカリキュラムが構成されている。

……良くも悪くも、ではあるが、この制度は画期的でいいとは思う。

そして現在は絶賛テスト期間。

午後はテスト勉強のため授業がなく自由下校となっているため、俺と唯、七花さん、奏さんは四人で俺の家で勉強会を開いていた。

ちなみに、享は別の友だちと勉強、六月さんは独りで勉強したい、という理由で今回は来ていない。

「んあー……これ、どうすればいいのやら」

唯が数学Ⅲの問題を見て唸っている。

「ここはね、この公式を応用して……後は複雑な積分を頑張ればできるよ」

七花さんが唯にそう優しく言う。

「積分……いやだぁぁぁ!」

唯がとうとう叫びだした。

「確かに……この積分の計算、嫌になるよね……。私も叫びだしたくなったもん……」

「そう、そうだよね!奏ちゃん!」

「まぁ……でも、計算やらないことには始まらないから……」

「そうだけど!この数式見てると、頭がゲシュタルっちゃう」

「ゲシュタルト崩壊を若者風に言うな……」

俺はそうすかさず突っ込む。

「ふふ……あはは!」

唯が笑うと、全員がくすくすと笑い出す。

雰囲気は良好、俺達は、平和に勉強会を進めていた。

全員の成績を説明すると、唯は前回の三学期学年末考査で学年7位。

奏さんは学年4位で、ここには居ないが、六月さんは2位、そして享は11位だ。

俺は前回は一位だった。

母数が割と多い高校なので、ここまで高順位のメンバーが揃っているのは、ある意味奇跡だと言えるのかもしれない。

この桜ヶ丘高校で上位ということは、全国的に最上位の成績を有していることを意味する。

しかしこのメンバーでも苦戦するぐらいには、うちの高校の定期考査は難しい。

……じゃないと唯が叫んだりするわけがないからな。

定期考査初日まであと十日だが、高校二年生のこの夏休み前は、みんな受験を意識しだす頃だ。

この時期は受験勉強と……青春を両立するために、多くの生徒は四苦八苦するらしい。

俺には無縁な話だが、昔唯がそう話していたのを覚えている。

同じ文藝部の先輩が大変そうにしてたとかなんとかで。

ふと目線を時計に移すと、時刻は4時になっていた。

そろそろ、姉さんが帰ってくる時間だ。

俺はそんなことを頭の隅で考えながら、勉強の世界へと戻った。

定期考査本番は、すぐにやってきた。



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咲かないリナリアと特異点X まんとる @mantoru

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